閑話 親譲りの重たい感情
「もう少し、このまま……いいですか……?」
あどけなく言ったその言葉。
クラディスという少年に向ける感情の正体は、少女の中ではまだはっきり分かっていない。
だが、この感情は、嘘ではない。偽りではない。
たとえ、居場所を掴んで離さないようにする、重苦しい女のような感情であっても。
(今の、この、主人に向ける感情はわたしのものだ)
奴隷が抱いていい感情なのか、というのは頭の片隅にも置かない。
奴隷ではなく、人として扱ってくれる主人であるから、少女自身も人としての感情を取り戻そうと出来た。
「そーしよっか―……この体勢、安心するから、このままねちゃおっか」
これもまた、わざとらしく言われた言葉。これからどうなるのかを見据えて、受け止めたような。
力強く抱き寄せられ、主人の吐息が首筋に触れる。
(幸せ、とは、このように温かいものだったか)
世界から望まれていない二人。
転生者の子。
転生者。
それがどうした。
生命を受けた、ということは生きてもいいということだ。
それが重罰であっても。
生きてから背負わされる十字架であったとしても。
生きていいと認められたことには変わりない。
本当に要らない存在なら、ちゃんと生まれないようにする。生きているというのは、誰かから必要とされているんだ。所詮はそれの大小の差でしかないんだ。
と、思えば、案外生きるのも悪くないと思う。
少女は笑った。
「どうしたの?」
「いえ。ただ、幸せだな、と思いまして」
横にいる少年の首筋に唇を合わせ、ちゅぅ、と何度も繰り返す。
優しく、口を窄め、でも少しだけ痛みを感じてほしいと悪戯心で思いながらも。
残った内出血の痕――キスマーク。
「うぇ、アン!? なにを……」
どまどまと困った様子の主人の方に細めた目を向けて、小悪魔のように笑った。
「申し訳ありません。でも、受け入れてくれたのが……嬉しくて」
「〜……ほんと、ズルいよ……アン」
「えへへ」
こんな感情は、どっちの親に似たのだろうか。
世界が変わったとしても、同じ人を愛する二人。
なんとも純愛的で、両思いで、幸せな夫婦だと思える。
だが、見方を変えるならば、二人とも依存体質であったと言えるかもしれない。
この人でないといけない。
離れたくない。
絶対に。
世界を跨いでも再び婚姻するほどの。
もし、そうであるなら、このたった一人を愛し、離したくないという少女の思いの話がつく。
――重たい女だったんですね、わたしは。
「あるじ……、あるじぃ……っ」
最初にあった恥じらいは、理性とともに消えていった。
無くなってしまえば、出てくるのは少女の本性のみ。
「すき……ぃ。すき、です……っ」
自分だけの主人であると言わんばかりに少年の首に手を回し、ぎこちなく愛の言葉を並べていった。




