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171 ”耐性”




 アンのスキルによって地面そのものを蹴ってぶつけられた二人は、ただの土の壁だ、切り崩せばいいと考えて攻撃を始めた。

 攻撃をし始めると感じた違和感、その正体は二人の頭の中から抜け落ちていたこの広場の特性だった。


 この場所は中位ダンジョン上の広場――壊れたモノはすぐに修復をし、ここで死んだ生命体はすぐにダンジョンへと吸収されていく、そんな場所だ。


 アンによって大地から引きはがされた一部の地面(大きな土の壁)は二人に覆いかぶさる形で落ちてきた。

 そこには重力とその重み、さらには「ダンジョンの壊れたモノの修復する力」と「死んだ生命体の吸収する力」が加わり、固体であるハズのその土の壁は堅いまま泥の様な状態に変化していき、ダンジョン上広場と一体化を成そうとしていた。


 シルク達はクラディスを助けた者の影を捉えていた。もちろんすぐに追撃をして体勢を整える時間なんぞ与えないつもりだった。

 だが、二人が壁を切り崩して外の空気に触れる頃には、一人の少女が立ってこちらを見つめていた。


「……間に合った……」


 そのアンの姿を見ると、シルクの口からは状況把握のために情景そのままの言葉が零れ、理解が進むと顔は形容しがたい表情へと変わっていく。

 ギリッと歯の軋む音が広場中に響いた。


「チィッ! もう少しでテメェの飼い主を殺せたっていうのによォ……!!」


「貴族の犬がわたしのあるじを殺す? そんなことさせない、お前等なんかに……あるじは殺させない……!」


「はははっ! 貴族の犬ぅ? じゃあ、てめぇは泥に(まみ)れた野良犬じゃあねぇか! 俺を殺してぇならやってみろよ、口だけじゃなく行動で……得意だろ? お前は俺と同じ人殺しなんだからよ……!」


 シルクの言葉にアンの目元と口角が痙攣を起こした。

 互いが互いに睨みを効かせる状況が続いていたが、先に動き出したのはアンだった。

 一瞬で爆発的に魔素を高め、十数メートルあった距離を詰める。拳殻の有効的な間合いへと強引に割り込んでいく。


「なんだァ? その距離の詰め方……ここは闘技場じゃねぇんだぞ――ッ!!」


 近寄ってきた小さな体に向かって、その主の武器を壊した時の様に魔剣を二度振り、前面に焔を起こした。

 そこにさらに重装備(タンク)の男が斧を振るうとその炎の勢いが更に増し、辺り一面が真っ赤に燃え盛る焔に包まれた。

 焔が周りの木々とアンの体を包み込んでいき、消え行く焔よりも早い速度でシルクが追加の火を燃やしていく。

 何度も振られる二人の武器、焔だけでなく斬撃も火に巻かれたアンの体へと降り注いでいた。


「終いかぁ?」


「主人が矮小だと、その従者もこの程度なんだな。気負う必要などなかったな」


 戦力をかき集めていたとしても他の多くは雑兵の扱いであり、ロバート側の本陣はこの二人だった。いくらクラディスに戦力を削られようとも、この二人の柱が折れない限りはクラディス達に勝機はない。

 自分が持つ最大の敵戦力を想定し、魔剣や重装を用意をしてきた。だが、その片鱗を見せるだけで小さな主もその従者も焔に巻かれ、焼き焦げた。


 パチパチッと火花が散る中、二人は心の中でこの戦いの決着を感じた。


「――闘技場じゃない? そうだな、確かにお前等はそのレベルにすら立てていない」


「なっ……!?」


 燃える大地の中に一つの影が立っている。その光景は二人にとっては信じられないものだった。

 喋るだけで肺が焼ける、そこに立っているだけで皮膚は溶け出す、体が燃えて悲鳴の一つでも上がるはずだ。何故、そんなところに立っていられるのか、声を震わせずに喋ることができるのか。


 アンは闘技場で火穹窿(フレアサークル)に包まれた時のように無傷の状態でそのまま進行し、火に巻かれた状態で重装備(タンク)へと手を伸ばした。


 ――火耐性ⅩⅩ……火属性無効化。

 ――熱耐性ⅩⅩ……熱無効化。

 ――虚弱耐性ⅩⅩ……虚弱無効。

 ――威圧耐性ⅩⅩ……威圧無効。


 これらはアンの持つ耐性の一部。

 この小さな体には単純な火属性攻撃であるなら無効化できるほどの耐性が備わっている。


「弱い。浅い。つまらない。くだらない……想定内の力量――」


 無効化、無効と言えども完璧に効かないという訳ではない。上位の魔法や物理攻撃はそのステータスを超えてアンの体に傷をつけることがあるのだが……。


「つまりは、雑魚だな」


 アンの体には傷の一つすらついていない。

 つまり、シルクと白金等級(プラチナ)の男の攻撃全てが、アンのステータスを超えない程度の力量だったということの証明だ。


「フンっ! ボロボロな女の攻撃で俺の装甲が傷つくわけ……」


「――首元(ここ)、空いてるよ」


 兜と大きな胸当ての隙間から手を捩じ込んでいき、その太い首にちょんと触れた。


「なっ」


 少女の柔らかい皮膚の感触が焔の熱と共に戦闘時に感じたことの無い場所から伝わってくる。

 そこでようやく男は自分の装甲が、あの時クラディスの一撃によって崩されていたことを思い出した。


「まさか!」


 本来なら首元への防御が無くなっている時点で、立ち回りを変えなければならなかった。

 しかし、彼は変えれなかった。

 クラディスの魔法やエリルの魔法すらも防ぐその防御力は、男が白金等級(プラチナ)へと階級を上げることができた理由の一つだった。


 だからこそ、自分の身を護る頑丈な装甲への圧倒的な信頼が彼の中にはあった。

 その装甲が壊されている、ましてや自分が「矮小」だと評した少年に壊されたことなど、頭が認めていなかった。

 認められるハズが無かった。


「そこは……まて、よせ……!!」


 男が振り解こうとする力など全く意に介さず、アンは手に力を込めた。


 ――バキッ。


 大きな男の大きな首の骨が折れた音。重々しく、無慈悲に広場に広がったその音は余裕を見せていたシルクの表情に一つの曇りを立ち込めさせた。


「ガキ……テメェ……!」


 力なく倒れ込む男の亡骸をシルクの一撃を防ぐ盾として使うと、多少の衝撃は届いてきたが防ぐことができた。


「……!」


 シルクの薙ぎ払いですらも重装備(タンク)の男の装備には傷一つ付かないことに気付き、アンは笑みを浮かべた。首元の装甲を壊していたのはアンの主であると想像が付いたからだ。

 クラディス(主人)はこの重装備の男を殺そうと思えば殺せた。では何故殺さなかったのかと考えていくと、自分に渡された膨大な魔素にいきついた。


 ――わたしのために、魔素を残していた。


「本当に……わたしのあるじは……」


 自分へ魔素を渡すために力を振るってなかった。

 そして、自分のトラウマを克服する機会を与えてくれたのだと解釈をして、手に持っていた男の死体を地面に投げ捨てた。


「どこまでお人よしなんだ……。いや、だからわたしはあるじのことを好きになれた。ついていこうと思えたんだ……」


 自分の後方の木の裏にいる主の方を横目で見やり、我知らずに頬を綻ばせた。


「何をゴチャゴチャと……」


「あぁ、すまないな。なに、あるじに恵まれたことを嬉しく思っていただけだ。……お前も、お前で恵まれているようだがな?」


 首元の火傷痕を指すように、アンは自分の首元に二度ほど軽く触れた。


「――ッ!! ぶっ殺す――ッ!」


 少女の挑発に乗っかり、焔を纏った剣で辺りを焦土へと変えるシルク。だが、単純な火の属性剣であるのならアンにとってはただの剣であり、焦土はただの平原に変わりない。

 気止めすることなく、シルクの元へと近づいていくアン。

 その様子に額に汗を浮かべ、全力でアンの肩へと魔剣を振り下ろした。


 ――ググッ。


「なんっ……お前、なんで……」


 剣はアンの皮膚だけを破り、止まった。


 ――刺突耐性ⅩⅩ。

 ――斬撃耐性ⅩⅩ。


 血を滲ませるだけの結果となったシルクの攻撃、その光景を見てシルクの体は思わず攻撃を止めた。


「どうしたの? ぶっ殺してみせろよ」


「このっ、化物めッ!!」


 硬直したシルクを上空へと蹴り上げ、それの追撃を空中で行い、シルクの付けていた装備を粉砕して行く。


「あの時、お前がわたしを殴れていたから自分の方が強いとでも思った? お前やあの貴族がわたしの体で遊んでくれたおかげで、わたしは強くなった……強くなれる下準備ができたんだ……!!」


「ぐっ……てめぇ……!」


「無駄、もうお前の番はこない」


 魔剣で体を突き刺そうとしてきたのを拳殻で軌道をずらし、そのまま顔面へと拳を届ける。

 シルクの鼻からは血が流れ、片目は潰れ、顔面は原型のないほど窪んだ。


「がぁ……っ、あぁぁぁぁっ!!!!」


 どれだけ叫べと、どれだけ足掻けど、アンの連撃は止まることがない。

 空中で何度も逆方向へと魔素を放出して跳躍を繰り返し、その勢いでシルクの体を高く高くへと殴り上げた。

 シルクは連撃の合間を抜って手に持っていた魔剣を振り下ろそうとした――が腕を折られ、思わず武器を手放してしまう。


「武器を落としたらダメじゃないか」


 落ちていく魔剣をアンは片手でキャッチし、30連勝を決めたの決着のように服を手繰り、男の体を下に向けた。


「クソ、クソッ! クソォッ!! なんなんだ……! なんなんだァッ!!! てめぇみたいなゴミでクズな転生者野郎は大人しくあのまま死ねば良かったんだ!! 無駄に足掻くなら俺が殺してやるッ! 奴隷らしく惨めに人生を終わらせてやる! 二人とも臓器を引き出して、ロバートの前に並べてやる――ッ!!」


 辛うじて動く腕でアンの首に触れようとする。

 その腕が首に触れる寸前に魔剣をシルクの胸に刺し込んだ。


「ああぁぁぁぁっ!!!??」


「お前の使っていた武器だ、返すぞ。わたしから先輩奴隷への最期の贈り物(プレゼント)だ」


 シルクが使っていた魔剣は常に熱を持ち、魔素を注ぐだけで火を纏う一級品だ。耐久力に難があり、20も振れないことを除けばシルクが使ってきた武器の中では一番の武器だった。


 それが、自分の体に差し込まれるとは思ってもみなかった。


 アンの魔素を吸い取り、体内で発火し、気が狂いそうな熱がシルクの体へと襲いかかる。そして徐々に落下速度が増す中、目の前の少女は最後にもう一度剣を差し込む力を加えた。


「グッ、熱い、熱いアアァァァァ――ッ!!???」


 一気に火力が増し、シルクの背中から剣の炎が抜け出て地面に届くと落下速度は一瞬だけ緩やかにはなった。

 だが、アンがシルクの体を蹴り上げた高度は大木の葉まで届くほどの高さであった。その高さから地面へと落下したときの衝撃はすさまじく、森林部分を巻き込むような広域で地面を深く窪ませた。



クリスマスだから、更新を。

よいクリスマスを。私は年末年始は勉強頑張ります。時間があれば更新をしたいと思います。

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