167 不愉快極まる
僕の瞳を見た三人は目を大きく見開き、体を斜に構えた。
「紫の瞳……っ!!」
「『身体強化』――ッ!!」
大柄な重装備な男とシルクの間にいた軽装備の金等級の男は土煙を上げるほどの脚力で足を踏み込んだ。
「おい、早まるな!!……チッ、あの馬鹿」
我を忘れたかのような鬼の形相で目の前まで近づいてきている。
攻撃は横に構えて僕から見えないようにしている細い剣で……力任せの一撃だな。
研ぎ澄まされた殺意だけど、僕はもう油断はしない。
「死ねえぇぇぇッ!!」
「……物騒、だね」
喉元まで届きそうな剣を真下からの『火槍』で防御し、同時に後ろに20本余の発射体勢が整っている『火槍』を発現させた。
「なんて本数……だが、舐めるな! 転生者をこの手で殺せる二度とない機会なんだ。これの逃すわけには行かないんだあぁぁっ!!――体、もてよ……! 『能力向上』ォッ!!」
軽装の男が発動したスキルは今まで見たことも聞いたこともなかったけど、身体機能の上昇を見ればすぐに分かった。
足が早い、力が強い、生半可な魔法だったら効かない
(肉体の能力が全て上がっている……? 差し詰め『身体強化』の上位互換のようなスキル……)
撃ち出した魔法攻撃を避け、僕に体を捉えさせないように機敏に動きまわる。
防御と攻撃の『火槍』を捌くその技量は、おじさんが金等級であることを物語っている。
「ヌウゥゥゥッ!!!」
(まぁ……スキルに差があるのなら技術で上回ればいいだけだ)
「なんだぁ!? 転生者さんよォ!! その程度か!??」
「……うん。ようやくできた」
金等級のおじさんが僕の火槍を捌いている間、僕はあることに挑戦していた。
魔素をあまり使わない火槍で時間を稼ぎつつ、同時に頭の中で魔導を用いりながらあるモノを簡単に作り出していく。
「……? なんだ、足元に線が……」
座標指定、軸、魔素ではなく、結界のような薄い膜を貼る。
それは、治癒魔法でペルシェトさんが見せてくれた技術の応用だった。
「捕縛結界」
対象の足元から正六面体の薄い膜を作り出して、閉じ込めた。
「なんっ──!?」
必要な知識が圧倒的に不足をしてるから耐久力などは皆無に近い。だけど、おじさんの頭の中で事態の処理が終える時間があれば十分だ。
それに「捕縛結界」って適当な名前を言ってみたけど、ただの包んでる膜だ。結界って言えるモノじゃないし、そもそもそんなスキルがあるのかすらも知らない。
「これは……! おい、お前ら!!! 助け――」
男が何かする前に、立方体に張られた膜内を僕の魔素で満たした。
「『座標衝撃』」
結界内で起こった大爆発は膜を突き破り、辺りの地面をクレーターへと変え、戦闘不能にまで追いやった。
座標指定をするだけの時間を作れればと思っていたけど、何とか出来るものだな。
クレーターの中心で気絶をしている男の方を冷ややかな目で見つめ、呆れたような表情を浮かべて見せる。
「僕に勝てるとでも、ほんとうに思ってたのか」
いかにも悪役のように、仮想敵のように、言葉を言い振舞う。
そうしながら残った二人をチラッと見てみると、こちらをじっと見て動かない。
「……ただの人が、僕に勝てる訳がないだろう」
もう一度同じニュアンスの言葉を言って二人の方をチラッと見てみるけど、相変わらず動くことは無かった。
(できれば動いてほしかったんだけど、無理……か、無理そうだな)
僕が自分らしくない虚勢を張ってみせている理由は、体がそろそろ限界だし、僕が転生者だと知ることで攻撃が単調になってくれるんじゃないかって期待をしていたからだ。
一人は単調になってくれたけど無理だったか、長引けば長引くほど僕に不利になってくるっていうのに。
でも、数は減らせれたから上出来だな。
「……なるほど、だからお前はアイツを執拗に庇う訳か。要は、転生者同士の馴れ合いだったってことか……」
「話が分からないヤツだな。アンは転生者じゃないって……」
喋り始めたシルクの発言を訂正しようとすると震えている手で剣を幾度か振ったのが見えた。
攻撃だと思って咄嗟に身構えた……のだけど。
「……はっ?」
斬撃は僕の方には飛んでこずに戦闘不能の状態で倒れていた三人へ飛んで行っていて、まだ生きていた三人の止めを刺していた。
なんでわざわざ仲間を殺した……?
「不愉快極まる……!! アイツのやってきたこと、アイツが転生者だったと知ってお前がどんな顔をして、何を言うのかが気になったが……これほどまでに時間を潰されたと感じたことは無いッ!!」
転生者じゃないって……っていうか、いや、その前にさ……。
「……苛立ちから仲間を殺すような人間の方が、何もしていない転生者よりも罪を犯しているとはなぜ思えないんだ?」
「黙れ。もう転生者の戯言は聞かねぇ。どうせ、お前とアイツを殺すのには変わりねぇからなァ!? この際、転生者かどうかはどうでもいい……初めに言ったことだ、権力に逆らうのは懸命じゃねぇってな……!」
転生者は悪だと怒気を含みながら声を発し、自分は人を易々と殺す。
戦争時の大戦犯は悪いことをした、許されない! と言いながら仲間を殺す……。
(さっぱり理解できない、どういう神経してるんだ。サイコパスめ)
もう、これは常識的に考えられない話……刷り込みというか、洗脳に近い形で「絶対的な覆らない諸悪の根源」的な立ち位置に【転生者】は置かれているってことだな。
というか、そもそもあの男と冒険者はどういう関係なんだ?
話を聞く限り、結構なクズな貴族に仕える戦闘奴隷と【フーシェン】の中位冒険者。その二つが直接の仲間じゃないということは、大元がそのロバートって貴族で……。
「おい、一つだけ聞かせろ。小僧は……自分が転生者だといったな」
「……? あぁ、そうだけど」
「貴様らは何故、この世界を混沌に落とそうとする。異世界という所からくるお前等は何故、この世界を歪めようとするのだ」
白金等級の重装備の男が問いかけてきた。
何故って言われてもさ……僕は普通に過ごしてるだけなんだけど……。
「この世界を歪めるつもりなんて僕達にはない。僕達は普通に過ごしたいだけなんだ。僕より前に来た転生者は……この世界にとって悪でしかないと思う。だけど、僕やそれ以降にこの世界に来た人やその領土戦線に参加してない転生者は、ただ普通に過ごしただけなんだ」
「……そうか」
お、通じた……?
白金等級のおじさんが納得してくれたら、もしかしたら風向きが変わるかも――
「つまり、自分たちの過ごしやすいようにこの世界を壊すつもりか」
……全然変わってないじゃないか。
住みやすいようにこの世界を壊すってなんだよ。そんな世紀末な世界からやってきたわけじゃないよ。
「いや、だからさ……」
「もういい、お主らがやりたいことは分かった。もう言葉を発さずともいいぞ。やはり、根本的な会話が成り立つことはないようだな」
こっちのセリフなんだけど。
転生者は人間としてじゃなくて、戦闘民族とか気狂いとかそういう印象操作でもされてるのか?
「はぁ……そんなにやる気満々なら、さっきのお仲間さん三人が来た時にやれば良かったのに」
「勝手に突っ込んで勝手に負けた雑魚なんて必要ねぇ」
「先の三人は最初から戦力に含めていない、ただの埋め合わせだ」
「それに、俺は意見が変わった。今までみたいな子どもの遊びみてぇな戦いは終いってことだ」
二人は今まで持っていた武器を収納し、新たな武器を召喚した。
禍々しい形をした赤黒い刀身の長剣を持ったシルク。
両方に刃があり、歪な紋様が描かれている見た目に威圧感がある大斧を持った重装備の男。
「全力だ。こっからは全力で相手してやる」
「小僧を殺せば、先人たちの無念は少しは晴らせるだろう」
直情的な怒りではなく、静かな怒り。そこには油断や焦りなどが見えずに慎重さが見て取れる。
二人の殺気はそこらの魔物には比べ物にならない程、大きく、純粋なモノだった。




