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164 応援要請




 しばらく歩いていくと、男の魔素は別方向へと進み出したのを確認した。


(こんなにハラハラする鬼ごっこは初めてだ……)


 木にもたれ掛かり、気配を全力で押し殺して肩の全回復を図る。


「どこだークソガキ。出てこいよー? すぐ殺したりはしねぇからさァ! 楽しんで殺してやっから出てこいよ!!」


(結局殺されるんじゃないか。何言ってんだ……それで出てくるわけないだろ)


 あいつとの実力差は明らか。

 これは……気合だけでは解決できない問題だな。


「あと忠告してやる。あんまり外行くなよ? お前を転移させたガリ勉どもが丁寧に結界を張って、魔物(モンスター)がこの場所の認識が出来ないようになってる。外に出て魔物(モンスター)に食われるくらいなら俺に殺されろ。そっちの方が「人のため」だ。好きだろ? てめぇみたいなヤツは人のためって言葉がよぉ」


 声が少し遠いところから聞こえる。

 なるほど、認識阻害……ね。だから僕は魔物(モンスター)の魔素や気配を感じなかったのか。


(……言われてみれば、確かにここより数歩向こう側には半透明の膜のようなモノが見える)


 だったらそれこそ……鬼ごっこ、いや隠れ鬼ごっこか。あいつから見つからずに隠れ続けたらいいってことじゃないか。

 少しハードルが下がったと気を緩ませ、足元を見つめていた視線をふいに上げた。


「…………え」


 息が漏れるように声が出て、目の前に広がる事を理解するために思わず体が止まってしまった。

 だって、僕は『気配感知』と『魔素感知』を十分走らせていたハズだったんだ。

 僕が視線をあげた先――木上の数人の男。


「いつの間に……っ」


 男達の存在に気づいた時には遅く、体を動かそうとした瞬間、槍と剣が僕の体を貫いた。


「ぐっ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!??」


 僕は痛みのあまりに地面に倒れ込み、悲痛の声を上げた。

 

「ハッハァ! ざまぁみろ!!」


「結界外からずっと見てたぞ」


「シルクが上手く注意を引いてくれてたからな」


「……ふむ、認識阻害はすごいな」


 目の前の四人の男達が口々に喜々として言葉を発した。


「おい、シルク。もう分かってないフリは止めてこっちに来い」


 一人が声をかけると、遠くからシルクがこちらへ歩いてきた。


「なんだ、お前らもう来たのか。つまんねぇ」


「この依頼はお前の主から直々のものだからな。気張って思わず手が出ちまった」


 痛みに耐えながら見上げると、月明かりに照らされた男達の首元には金等級(ゴールド)のプレートが三つと白金等級(プラチナ)のプレートが一つ見えた。

 冒険者、それも中位のベテランたちが……なんで……。


「あんた達は……一体」


「俺ら? 俺らはなぁ……、言っていいか?」


「いいんじゃね? どうせこいつ死んじまうし」


「カカカッ、だな――おいクソガキ、これが見えるか?」


 軽装剣士(ライト・フェンサー)のような格好をしているスキンヘッドの男の右腕には刺青が入っていた。

 太陽のようなマークの下にある骨――海賊を彷彿とさせるようなデザインだ。

 どこかで見たような……。だけど思い出せない。


「それが……」


「お前さては(もぐ)りだな? ま、そんな奴でも【フーシェン】って名前くらいは知ってるだろ?」


「ふー……しぇん……」


 十数日前から、その血盟の名前を歩く先々で聞いていた。


 そしてその血盟の名前が言われる時には必ず添えられていた言葉――『上位から落ちた大血盟』。


 以前から「素行が悪い冒険者が集う大血盟だ」ということを丸さんやペルシェトさんから話を聞いていた。多くの冒険者を持つ血盟であるからこそ、数での有利で最も多くのクエストを達成している血盟……。


 そうだ……、初めてギルドに来た時。ムロさんに声をかけられる前に、こちらを見ていた酒の席にいた男たちも同じような刺青が――


「そんなつまんねぇ話しなくていいだろ」


 シルクが僕の腰に刺さった剣を踏み、グリッと回した。


「グッあぁぁぁぁっ!!!」


「お前、いい声で鳴くなぁッ!」


 頭がおかしくなる程の痛みが僕の体を走る。

 叫ぶ僕の横に座って、シルクの顔に恍惚の感情が現れる。

 そんな二人を囲むように男達は立ち、カタカタと笑った。


「シルク、もう殺すのか?」


「そんなつまんねぇことするかよ。自分が買ったくそ女のことをよーく教えて、自分の犯した罪の償わせてからゆっ〜くりと殺すんだ」


「はははっ、悪趣味だな」


「お前らはそこで見てな、絶対に手ぇ出すんじゃねぇぞ。……コイツで遊んでいいのは俺だけだ」


 そう言うと、シルクは僕の頭を持ち上げ力強く地面に押し付けた。




      ◇◇◇




 クラディスが瀕死の状態にある中、人と人の間を抜ってギルドにたどり着いた。

 ギルド内へ入ろうとすると、外で見知った顔を2つ見つけた。

 

「白髪、二つ結い……。あるじが……!」


 コケながらも服を掴み、縋りながら()れかけの声で懇願した。


「えっ、アンちゃん……?」


「あるじって……クラディス様がなにか」


 そこに居たのはナグモとケトスだった。

 二人とも私服に身を包んで、ギルドの前で世間話をしていたようだ。


「近くの森で……襲われてる!」


「襲われてるって……」


 息切れしながら言われた言葉を聞いていると、少女が来た道から憲兵が追ってきているのをナグモは視認して、自分の後ろへと隠した。

 

「場所は」


「大きな木があるとこ、広くて……。そうだ、白髪、お前が誘って薄緑の魔物(モンスター)と戦った所……!」


「ナグモさん。イニシアの森の中位ダンジョンのとこです」


 普段の少女の態度からは考えられない程の焦りようで事の重大さを推し測った。


「ダンジョン上広場、か。少し遠い……」


「はやくしろ! あるじが闘ってるんだ、一人で――くそっ! 要件は伝えた、とりあえず着いてこい!!」


 二人の了承を得ずにアンが待てずに走り出したのを見て、二人は一瞬顔を見合わせたがついていくことにした。

 アンはスキルを使用して駆けていき、その鬼気迫る威圧で街の人々が思わず道を開け、最小限の動きで憲兵から逃れていく。

 既に体力は限界に近い。しかし、自身の限界など気を遣う頭などなかった。


「……嫌な予感が的中したのかもしれません」


「嫌な予感、ですか?」


 そんなアンの後ろをついていくようにスキルを軽く使いながら、二人は地面を蹴った。


「あの子の以前の主は、ロバート公という貴族だったんです」


「ロバートって、二大貴族の? じゃあ、そいつがクラディスを襲うように取り巻きに指示を出した……」


「えぇ。それに、あれだけ強い子が今まで買われてなかった理由も貴族絡みらしいですし」


「……なんで、そんなことをあなたが知ってるんですか。一ギルドスタッフのあなたが」


 疑うような目を向けてくるケトス。その頬に人差し指を当てた。


「んぐっ」


「ははっ。ただ、声の大きな女性がいたってだけですよ」


 ナグモは闘技場終了後にクラディス達と別れた後、貴族がまとまって話しているのを見つけて話を盗み聞きをしていた。

 トッポエ卿とその他の貴族の会話、闘技場から少し離れた場所で聞いた話だ。


『あの少女(727番)は一度ロバート公爵に買われ、売られた。そして、少女(727番)を貴族たちは買ってはならないと言われている。ロバート公爵の癇癪に触れたのだ、アレに関わると無事では済まないだろう』


 貴族はいつも傲慢で、怠惰で、強欲だ。下手に関わると本当に面倒臭いことになりかねない。

 ナグモは薄ら笑いを浮かべながら遠くを見つめ、「知らなくてもいい、めんどくさい話です」と付け加えた。


「……貴族絡みなら相手は強いですか」


「まぁ、強いでしょうね。クラディス様は成長しましたが、少しばかり相手が大き過ぎる。でも……私的には負けないと思いますよ」


「……何か根拠でも……?」


「え? だって、クラディス様は私の生徒なので」


 ケトスはその一言を聞くと目を見開いて、呆れたように口を曲げた。

 ナグモもまたそのケトスの表情を見て、口元を緩ませて前を向いた。

 そうして少女について下り坂を下っていくと門が見え、門兵がバタバタとしているのも目に入ってくる。


「あー……出国手続きはどうします?」


「そんなめんどくさいの、今はいらないでしょう。怒られたらその時に謝ったら良いんですよ」


「あはは、不良だ」


「そうじゃないとやってられないですよ――速度、上げますよ」


「リョーカイっ」


 門兵が混乱している隙を狙い、三人は上手いこと抜けていって森へと走っていった。

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