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160 忍び寄る影



 路地裏の防具屋から商店街の中にある服屋へと入って行き、衣類を新調した二人が街路へと出てきて橙色の陽光を浴びた。


 黒髪の少女の恰好は先程までの動きにくそうな服装から変わっていた。

 手の先から上腕を覆う拳殻に被らないように袖が短く、首元まで覆っている上着。動きやすさ重視のショートパンツ。ほとんどストッキングに近いような長く黒い靴下を身に着けている。その上に、白い羽織りを胸前でボタンで閉じている。

 隣にいるクラディスも同じ羽織りを羽織っているが、それ以外は特にこれと言って服装の変化は見られなかった。


 奴隷の少女、奴隷を買った少年。

 誰もそのことを感じないほど対等に仲睦まじく話をしていて、買い物袋を下げている少女の手の反対には少年の手が握られている。

 何も知らない者がその二人の様子を見れば兄妹、あるいは恋人と思うだろう。


 現に、二人が衣類を買った服屋の店主は二人の事を「カップルかい?」と声をかけて、少女の顔を赤く染めた。

 それまでに、二人の関係は初期の状態から大きく変わっていた。


 幸せな日々だ、とアンは思い。

 妹がもう一人できた感じだ、とクラディスは笑った。


 そんな二人が歩いている後を気づかれないように付いて行っている一つの影。


 一見すると、商店街の通りを行き交う冒険者や夕飯の買い出しに来た者の目に止まりそうな気もする。だが、気配を感じ取られないようにスキルを使っているのか、クラディスやアンはおろか、隣をすれ違う者にも気づかれていないようだ。

 

「……主人、頃合いかと」


 深く被ったフードの下から低い声が聞こえたかと思うと、手に持っていた球体にぽぅっと光が灯った。

 その灯によって首元の酷い火傷痕が見え、服の下から顎当たりまでで様々な醜い傷跡が次々と見えるようになった。

 その傷の上には首を一周する形で黒い首輪がつけられており、首輪の下部には『ロバート』と名前が刻まれているのが見える。

 

『……ジジジッ――シルクか、少し待て』


『アアアアアァアァァァ――ッッ!!!!?』


 ノイズ混じりに球体から、カラっとした50~60歳ほどの男性の声と必死に押し殺そうとしている女性の叫び声が近くに聞こえ、熱した鉄を何かに押し付けるようなジュゥゥゥゥッという音がしばらく続いた。


 通信魔道具と言われるモノから聞こえてくる主人以外の声や音。

 それらを聞くと、シルクの元々表情が見えなかった顔から、微細に残っていたすべての感情が消えた。

 シルクは叫び声の正体、何をどこに押し付け、それがどこの空間で行われているのかということを理解した。


 ()()()()がある音だったからだ。


 普段は冷静で、先を見据えてモノを考えることができる二大貴族の一人。


 しかし、少しでも計画に狂いがあると人が変わったかと錯覚するほど激昂し、その憤懣(ふんまん)奴隷(モノ)に当てて解消をする。治ることのない悪癖だ。

 その計画を狂わした対象こそが、今シルクが後を尾行し(つけ)ている奴隷の少女とその買主だった。


 音が止んだと思うと重いドアを開くような音の後に軽快な足音が続き、自室に戻ったロバートの声が通信魔道具から聞こえてきた。

 

『あいつはどうしてる』


「心を開いているようです、殺気の一つも感じられません。この追跡も気が付いていないかと」


『上々だ。では準備が出来次第、仕掛けることにしよう』


「戦力はどうしましょう、私だけでも屠れそうですが」


『お前だけでも倒せるだろうが、その新たな飼い主の実力が分からん。念には念を、だ。適当な人数を寄越す』


「そいつらは使えますか」


『全員が中位冒険者だ、雑魚ではないだろう。それに私が支援している先の者達だ。二人のガキを殺すことを失敗するような真似はしない』


「承知いたしました。例の手はずの方は」


『家が分かっておるのだろう? その帰路で仕掛けろ。人の目に触れてもいい、どうせ誰も何も手を出せない。何者かの介入があったとしても、それ用の数も準備をする』


「分かりました」


『いい報告を待っているぞ』


「はい」


 プツンと通信が切れて通信具から光が失ったのを確認すると雑嚢へとしまい、二人の追跡をやめて反対方向へと足を運びだした。


「ようやくだ……ようやく」


 無表情に不気味な笑みが現れた。



      ◇◇◇



「音を立てないようにね」


「分かりました」


 今僕とアンがやっているのは下位階級のクエスト。

 アンは少し前に冒険者登録をし、下位五階の冒険者となった。僕の階級も下位三階に上がり、あと一つ上に上がることになったらプレートの色が変わる。その時には冒険者ギルドで昇給審査というのがあるらしい。

 タルトさんとトニーさんのお店で買った防具にも慣れ、アンが選んでくれた服もなんだかんだ言ってお気に入りになっていた。


「レッドキャップ……いないね」


 ゴブリンの亜種に『レッドキャップ』という種族がいるらしい。今回はそれの討伐クエストに来ていた。

 ゴブリンの中でも最も隠密性が高く、音もなく近づいてくるっていう魔物(モンスター)だ。脅威度はオークと一緒ほどなんだと。


 隠密ということは『魔素感知』や『気配感知』も効かないのかもしれないので、細心の注意をしながら探している。


「いつどこから出てくるか分からないから気を付けてね」


「……」


「……アン?」


『グッフゥッ!!?』


 返ってきた声に驚いて後ろをみると、アンが真顔で魔物(モンスター)の首を握りしめていた。

 それは赤帽子を被った細身のゴブリンだった。


「……えーと」


 ……アレ? ギルドで聞いた見た目と一緒なんだけど……。


「ソレ……どうしたの?」


「はい、ずっと上からついてきていたので、倒しておきました」


「あぁ……そう……」


 こうやってしれっと凄いことをやってのける姿を見ると、伊達に闘技場の最高連勝記録保持者ではないなと思う。

 僕なんかレッドキャップが僕達の上をひそかに渡り、狙っていたことに気付けなかったし……。

 それこそ闘技場で否が応でも培われたスキルなんだろうなぁ。


「あるじ! こんな魔物(モンスター)のことは置いておいてレッドキャップを倒しに行きましょう!」


「あはは……、今日はもう終わりだね。そいつを袋に収納しよう」


「? わかりました」


 防具の感想や使用感の話をしていっている間に、そこまで大きくはない刻印魔法の袋を購入しておいた。イブやケトスが持っているどれだけでも入るみたいな無尽蔵のモノではなく、僕が勝った袋は精々オークが10体入るか入らないか程だった。


 それでも全然使えるから凄いよな……コレ。

 アンのお手柄でクエストが早く終わったから、はやく切り上げて帰ることにした。



空き時間にちまちま書いて行ったから、ちょっと文章が変かもしれないです……。

見直して、できる限り見やすいように書き直そうと思います。

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