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158 防具屋さん




 その後はアンが先導してくれて裏路地を通って行き、数分後には開けた空間に出た。路地裏だと言っても決して治安が悪いという雰囲気はなく、隠れた名店のような雰囲気がある場所だ。

 建物は質素、建物と建物の間から差し込む日差しで少し光って見える。

 なぜかこの空間だけ地面がコンクリートではなく、土でできていて建物の周りには少しだけ狭そうに木が生えていて、殺風景な色に緑を足してくれている。


「し、失礼します~。開いてますか……?」


「おぁ……お客か。いらっしゃい」


「お! 客!? どんなのどんなの!?」


 扉を開けて入ると、中には人族(ヒューマン)のオジさんと鉱人(ドワーフ)の少女がいた。

 受付台に肘をついてぼぉっとしていて身長が高く、顎髭が雑に貯えられている白髪なのが人族(ヒューマン)で、お客側と店員側を隔てる木の板の下から覗いてきていて、少し弾力がありそうでモチッとしてるのが鉱人(ドワーフ)だ。

 僕達の三分の二ほどの身長で、なんとも可愛らしい。


「おぉ、冒険者か!」


「こら、タルト。お客さんに向かって失礼な口をきくんじゃない」


「うるせぇ! お前がこんなところに店立てたからだろ! ド阿呆!」


「すみませんねぇ、偏屈な奴なんで」


「私はお前より年上だぞ!!?」


「見た目はちっさいだろ――あぁ、どうぞ入ってくださいな」


 人目を憚らず会話をしてくれているこの二人は、ギルドの人に聞いた話だと三国の間にある鍛冶師(スミス)の街から出稼ぎに来ている駆け出しの中でも優秀な人達。

 最近、冒険者ギルド側が提携する鍛冶師(スミス)の一覧の中に入ったらしく、おすすめをしてもらった。


「それで、今日はどんなご用件で?」


「防具が欲しいんだ。僕と、この子の」


「あーすまん。その前にお客さんの戦闘スタイルを聞いていいかい? 忘れてた。大事なことだ」


「あ、あぁ……僕がこの二本の小刀で戦って、この子は拳殻で戦います」


「ってなると軽装か……だったら胸当てと腕当てが最低限だな、金は?」


「一応、僕の階級が付ける装備の価格帯の物が買える程度には」


「よし、ならいい。裏に倉庫があるから自由にみるといい」


 先ほど鉱人(ドワーフ)の少女が覗いていた場所から入って行き、奥へと進むとずらっと防具があった。


「おぉおお……」なんだかこういうのって興奮するな。


 工房というのか? 職人さんの作った商品がいっぱい並んでる。


(防具でこれだから武器屋なんて行ったら興奮して一日中時間を潰せそうだな……男の子だし)


 そうしていると、サイズ感はまちまちだが、僕とアンのサイズに合いそうなのが奥の棚に並んでいるのが見えた。

 胸当てと言ってもそれなりに形状が異なるみたいだ。弓道に使えそうな物、胸だけの物、胸だけでなく腹部まで伸びている物、あとは……これは剣道の防具みたいだな。これはやめておこう。


 アンも目移りしているようで、防具の強度を試すようにコンコンっとノックしている。


 人族(ヒューマン)の男性は椅子に座ってのんびりと盗まないかを監視しているように思える。あまり見られている状況での買い物は気が乗らないけど、セキュリティ面を考えると仕方ない。


 そういって、自分たちに合うサイズの防具を見ていくと奥の方に箱に入った物が見つかった。 


「箱に入ってる……。すみませんー、コレも売り物ですか?」


「ん、あぁ、そりゃ売り物じゃねぇ」


「そうですか……」


 箱に入ってる防具を見ると、シンプルで素材が金属や鉱石とかではなく布のようなモノで作られていた。

 他の防具より面白いし、動きやすそうで合うと思ったんだけどな……。

 少しその防具のことが気になり、他の人から見えないと知っていながらコソコソと『鑑定』をやってみた。

 すると、名前こそ『布で作られた胸当て』とかだったけど、効果の欄に更に興味がそそられた。


 ――効果:衝撃耐性、刺突耐性が刻印されている。効果は薄い。


 『効果が薄い』という文字が『鑑定』で見えたことが今までなかったから、少し困惑したけど、おそらく刻印魔法の仕方とかそんな感じだと思う。

 こんなの見てしまったら他の防具より、これが気になってしょうがない……。

 

「あのぉ……」


「あ! それ、私が作ったヤツじゃん!」


「……タルトぉ、店番は?」


「へんっ! 誰も来ないからいいだろうが! 冒険者君、それ気になるのか?」


「気になってます、だけどコレ売り物じゃないって……」


「はぁ? ……おい、トニー。おい、こっち向け」


「……売り物……に近い物です」


「てめぇ……、アタシの代わりに店番してこいや」


「うぃっす……」


 まさに幼女という体型で、倍はある身長の男性を威圧するのはさすが鉱人(ドワーフ)といったところか。

 

「よしゃよしゃ、お目が高い冒険者お二人さん。試着させたげるからこっちおいで」


 手招きされ、防具が入っている箱を持っていくとサササッと防具を付けてくれて、腕を回したり走った時の揺れなどを試させてもらった。

 あまりきつく締められている感覚ではなく、重みもあまり感じないのにズレもしない。守れる範囲はそこまで広くないし死角からの攻撃には対処できないかもしれないが、正面からの心臓部への攻撃は防げれそうだ。


「……あのぉ、これ、刻印魔法されてますよね」


「おおっ、わかってるねぇ。そう、今練習中なのさ。だからアイツに試作品扱いされたんだけどね」


「なるほど……」


 練習中だから、効果が薄いという文字が『鑑定』に出てきたのか。


「まぁ、アタシは駆け出しだからねぇ。装備は作ったことはあるが、実際に着けてもらって使用感を聞いたりするのはまだやったことがないんだ」


「そうなんですか? 凄く良い物だと思いますけど……布で作るっていうのが凄く面白くて、惹かれました」


「布で作るのは悪くない、が、どうしても強度の部分で金属と比べ劣ってしまってね。そこの兼ね合いがこれまた難しいんだよ」


 大きな槌を肩に置いて話すタルトさんを見て、ピーンっとひらめいた。

 久々に地球での知識を生かす時がきた。

 商品をお勧めする時やお勧めされる時にする手法を思い出しながら、タルトさんにズイッと近づいた。


「タルトさん」


「ん……? わっ、なんだ、近いな」


「僕達が装備して使用感を伝えるので、そこを改良していくというのはどうでしょうか?」


「……はぇ?」


「お客に装備をしてもらったことが無いって言ってましたよね。直接お客を意識して商品を作るっていうのはとても大事なことです。特に、これら防具や武器は実際に使われ、人の命を守る物です。だからどれだけタルトさんのように卓越した技術を持っていたとしてもそれが使う人へと合わなかったら惜しいです! タルトさんのこの作品は軽装の僕達にとても合ってます! 僕たちの意見を次の防具の改良の際に生かしてもらえたら、作品作りがより良いものになると思いませんか?」


「お……? おぉ……」


「ですが、鍛冶師(スミス)さんは自分が自信を持った作品を使ってほしいというプロ意識があると知っています。自分の作品で使用者の命が落としてしまったら……と考えたら非常に心苦しいものだと思います。なので、今回はお試しということで特別価格で提供していただくというのはどうでしょうか?」


「とくべつ……かかく……とくべつ……?」


「そうです。タルトさんがお作りになられたこの防具……僕にはこれから花開く蕾に見えました。タルトさんの才能をさらに高め、世に発信していくために、まず僕とアンがそれの実験台になるということです」


「アタシの作品が……世に……?」


「です。タルトさんの着眼点と技術は素晴らしいモノです。そこに僕たちの使用感の話が伝わるとさらにいいものができると思うんです!」


 最後にグッと手を握って、にこっとほほ笑んだ。

 言いくるめると言えば言い方は悪いが、嘘は言っていない。それに、タルトさんは幸せそうな――僕の言葉の意味を理解してなさそうだが――顔をしている。


「う、うむ!!! よし!! 良いぞ!! 何言ったかは知らんが、冒険者君と君にこの防具を託そう!」


「おぉ……買い上手だねぇ」


「あ、トニーさん」


「もう名前覚えてるし……はえぇこった」


「おい、トニー、話聞いてたならいいだろ?」


「俺は全然大丈夫だ。タルトが成長してくれるならこっちとしても大歓迎さ」


「ということだ、少年少女。頼んだよ?」


 その後、僕とアンの布の胸当ての値段を相談して払った。だいぶ割り引いてもらって予定よりお金が余ったから、アンの拳殻を買うことにした。

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