13 第一異世界人は命の恩人でした
何が起きた……?
僕を襲おうとしていた狼の悲鳴の前に聞こえたのは……男の人の声?
姿を確認しようと目を開けようとしたら、男の人の背中に一瞬視線が持っていかれたけど、すぐに僕の横に落ちている狼が真っ二つにされている姿に目がいった。
「うっ……」
狼の死体を見ていたら吐き気を込み上げ、咄嗟に手で口を覆った。
人が、狼を倒した? そんな、ことって。
すると、僕の体はひょいっと軽々しく持ち上げられて、胃がひゅんっとする感覚が襲った。
「ちょおっ……ううぅ」
「坊主は迷子かって聞いてんだ。どっから来た、近くの村から走ってたのか?」
「その……」
「難しい質問じゃねぇと思うが――って、お前……」
言いかけると男の表情は笑顔から徐々に強ばった表情へと変わっていった。
僕は持ち上げられている状態で何も出来ず、当然表情が変わったのに少し頭の上にハテナが浮かぶ。
「僕の顔……なにかついてます?」
男は目を開きこちらをマジマジと見つめて、口を開いた。
「おまえ……その目――」
「この! ばかムロ!!!」
――バチィン!!
「ってぇぇっ!!」
何か言いかけた男の人をすごい速度で走ってきた女性が思いっきり叩いた。
うわ、すごく痛そう。
持ち上げられている僕の体もゆらゆらと反動で揺れた。
「んだよエルシア!!」
「んだよ! じゃないわよ。突然車から身を乗り出したと思ったら、子供が襲われてるとか言いだして、走っていくんだから。」
「襲われてたから走ったんだろ!」
「えぇ、襲われてたら走るに決まってるわ。でもこんな夜にこんな遠くのことが分かるわけないじゃない。辺りも暗くてまだ目もなれてないって言うのに!」
僕は明るい時から暗くなる時までここにいたから目は少しは見えるが、かなり暗いのには変わりない。
雲が月を隠してしまった場合、僕でもぼんやりとしたシルエットが見える程度だ。
「何言ってんだエルシア、子どもはここにいるだろ」
突然、持ち上げられた状態のまま、体が横に振られた。
「えっ!」
「あ、どうも……背中のままですみません」
「幼い男の子? その子が襲われてたっていうの?」
初対面の相手に背中を向けたままというのは失礼だと思ったのだが、しっかりと脇腹をつかまれているので反対方向を向こうにも向けない。
「はい、その。この度は助けていただいて――」
「えー、ちっこい。かわいいーー!」
「ひっ!?」
女性の声が近づいてきたのを背中で感じる。
かわいい……僕が??
エルシアさんが近づいてくる音が聞こえたと思うとムロさんはニヤリと笑って、今より高く持ち上げた。
「は!? ちょっ、ムロ! なんでっ! 降ろしなさい!」
高く持ち上げられた僕の下で、飛んだり背伸びをして掴もうとするエルシアさんが見えた。
学校で身長高い子が身長低い子のモノを取って、とれるものなら取ってみろという光景そのものだ。それを僕でできるほどの身長差が二人にはあった。
その様子に目を向け、ムロさんはケラケラと笑った。
「エルシア、お前コイツを食うつもりだろ」
「そんなわけないでしょ!」
「食う勢いだったぞ」
「私、人食べたことないわよ!」
「当たり前だバーーカ」
「バカですって!!? このデカブツ!!」
僕は完全に蚊帳の外だな……ついていけない。
その後もエルシアさんはムロさんに軽いパンチを何回も浴びせ、そのたびに僕の体が揺れた。
二人はどんな関係なんだろうか。RPGといえば……冒険者とかなのかな。
「おーい、ここにいたのか」
二人の言い合いをしていたら遠くからまた違う男性の声が聞こえた。
声が聞こえるとムロさんとエルシアさんもそちらに目を向けたので、僕も何とかして後ろを向こうと体をひねった。
すこし見えたのは暗い道を照明を持ってこちらに向かってきている男性の姿。
「こんな所に子どもなんていない……と思うのだが」
ムロさんは少し息切れしながらこちらに向かってくる男性に向けていた目をこちらに向け、なにかよからぬことを考えている表情をした。
「レヴィ、投げるぞ」
「は?」
ブンッ。
「――え」
投げるぞ、と聞こえた時には僕の体は既にムロさんの手から離れ、宙にあった。
ビルの二階ほどの高さにまでぶん投げられ、そこで始めて女性の顔と照明を持っている男性の顔を確認できた。
エルシアさんの頭上を超え、体勢は頭が下の方に位置しそのまま落下。
「うわぁぁぁぁ!!!」
とっさに宙を泳ぐように手をくるくると回し、必死に減速しようとするが上手くいく訳がなく。
落ちる落ちる落ちる!!! 力強すぎ!! って今はそんなのどうでもいい!!
自分の顔の前で手を交差させ力を込めて、落下しても顔を守るように――……
「……ぇ?」
地面にぶつかってもいい時間が経過しても当たらないぞ?
恐る恐る目を開くと、地面との距離が数メートル程あった。
 




