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146 引き取り





「これで落札できたんですか?」


「最低掛け金の出てる金額が変わったので、できたと思います」


「よかった……ありがとうございます」


 お金で助けるっていうのはやっぱり気が引けるけど、これしか手が無かったから仕方ない。奴隷商人に殴り込みをする実力は無いし……。

 というかなんでさっきの人の方が最低掛け金が高いの? あの人の方が強いとは思えないのに、何か理由でもあるのかな。

 オークションが終わったことで貴族達も残っていた一般客もぞろぞろと退場をしていったから、その流れに僕達も着いて行った。



      ◇◇◇



 闘技場から大金を受け取った後に端末に表示された場所に少女を引き取り向かうと、闘技場から少し離れた場所で小さな建物だった。

 そこに時間通りに着いて顔を覗かせると商人のような格好をした男性が出てきて、こちらを見ると微笑んできた。


「あなたが座席番号D-136番のお方ですね? この度はご購入誠に感謝致します」


「なにか手続きなどはありますか」


「まぁまぁそう焦らないでください」


 糸目を少し開き、こちらを品定めするような目を向けてきた。


(うわ、この人苦手だ)


 商売人の中でも奴隷商人ってダークな部分に居る人だろうから、こちらもあまり下手に出ずに振る舞う必要があるな。


「……見たところ冒険者でしょうか、なぜあの奴隷を買おうと思ったのですか?」


 一目で冒険者って言ってもらったの初めてだ。少し真面目な顔をしていたら僕も冒険者に見えるんだ、よし。


「あの子に興味があっただけです。それ以上の詮索は止してほしい」


「ですが、歳もそこまで高くありませんし」


「不満ですか? 僕なんかには売れないとでも言いたいんですか?」


「……いえ、中々肝も座っているようだ。いいでしょう――おい、連れてこい」


 奥の部屋から闘技場で戦っていた時の格好で少女が連れてこられた。身近で見ると僕より少し小さい。


「お客様は奴隷を買うのは初めてですか?」


「えぇ」


「そうですか! なら少し説明をさせてもらいますね」


 ジャラっと首輪を並べて、1つずつ指をさしながら説明を始めた。


「お客様にはこの中から一つだけ、隷属の魔法が刻印された首輪を選んで貰うことにしてます。その種類がこちらから――自分の命令を背いたら苦痛を与える首輪、起爆ができて殺傷能力がある首輪、主人に手を出そうとしたら首が締まる首輪、任意で体を拘束できる首輪どれになされます?」


 全部危なっかしいものばかりじゃないか。

 起爆って……やりすぎだ。

 顔が引きつりそうになったが、何とかポーカーフェイスを保つことに成功した。


「……選ばないという手段はないんですか?」


「ありませんね」


「では『体を拘束』でお願いします」


「分かりました。では名前を刻みますのでファーストネームを教えて下さい」


「クラディスで」


 僕が名前を言うと首輪に小さく文字を刻んで行った。

 少し待っているとその完成した首輪を少女の首へと装着し、鍵を閉めてこちらに渡してきた。


「はい、これで手続き完了です。お疲れ様です」


 虚ろではあるが警戒をするような目を向けてくる少女。何か声をかけようとしたら商人に背中を押され、コケそうになりながら僕のところに来た。


「おい、あまり乱雑に扱うな」


「あぁ、すみません。長い間ウチにいたので、悪気があるわけではないのです」


「……ごめんね。外で人が待ってるから、そこに行こう」


 ここではまだ奴隷商人の目があるからいろんな話は出来ない。

 軽く会釈をし、少女を連れてその部屋から出ていこうとした。


「またのご利用を、クラディス様」


 店の外まで出て頭を下げて見送る商人だが、どこかいけ好かない雰囲気がある。ああいう腹の底が見えない人は苦手だ。

 首輪に何か細工とかされたりしてないよな。


「……『鑑定』」


 ▶︎名称:身体拘束ノ首輪

 ▶︎効果:付けられた対象の身体を拘束する魔法が刻印されている。首輪の下部に書かれた主人の命令によってそれは発動する。

 

 本当にこれだけか? 特に不純物とかはなさそうか……。

 少女の首輪を触っていると、怯えたような表情でこちらを見ているのに気づいてパッと手を離した。


「ごめんね、ちょっと気になって」


「いえ……」


 相変わらず、こちらを警戒しているようだ。

 そりゃあ警戒するよな、自分と変わらないくらいの目線の人に買われるんだもんな。でも変にオジサンとかおばさんとかじゃないからそこまで怖くないような気がするけど……んー、どうしたらいいんだろう。


「あなたが……わたしの、あるじ……ですか?」


「……! うん、そうだよ。今日からよろしく」


 顔を上げて聞いてきた少女へとニコッと笑って返した。


「――クラディス君おそーい――って、わー!! 本当にあの強い子だ」


「あ、実物は結構小さいんですね」


「お待たせしました」


「それはそうと何事もありませんでしたか?」


「多分……大丈夫だと思います」


 ああいう闇が深そうな部分に触れる機会はもう来ないだろう。


 これだけ文明が進んでいるのに奴隷なんて制度は間違っているし、どんな理由であれ奴隷にされるのはおかしい。それも奴隷にされる理由の一つが転生者が原因だって言うんだから尚更おかしい話だ。

 戦闘奴隷や通常の奴隷の全てが転生者に疑われていると言うことではないが、この子はその疑いが掛けられていた。実際は転生者ではなかったというのに、それが理由で殺されそうだったのだ。


 この子には辛い思いをさせてしまったな……。


「ね、この後はどうするの?」


「……」


「クラディス君?」


「え? あ……、とりあえずこの子の服とか日用品とかを買いたいと思ってます。幸いお金はまだ余ってるので」


「靴とかもボロボロですしね」


「新しい家族が増えるっていう体で色々買っていこうかなって思ってます」


「じゃあお買い物だね! 私も行っていい!?」


 女の子だからペルシェトさんが来てもらった方が色々分かるな。ついでに僕も色々買っておこうか。


「ペルシェトさんがいたら心強いです」


「やったー!」


「ナグモさんはどうします?」


「私は……少し気になることがあるので、ここで私は別れますね。すみません」


「いえ、今日はありがとうございました」


「じゃあゴーゴー! まずは靴屋さんだ! それじゃあ裸足と変わんないからね!」


 ペルシェトさんに連れられて買い物に向かった。

 振り返ると、ナグモさんは止まったままこちらに手を小さく振ったので頭を下げた。



 



 その日の残りはその子の身の回りの物を買うことに使った。

 ペルシェトさんが中心になって選んでくれたものを買っていったのだけど、永遠と申し訳なさそうな顔をしていたから時々「遠慮しないでね」と声をかけていた。

 この子の名前も決めないといけないし、これからの生活しやすい環境を整えなければならない。

 幸い、訓練のことは「クラディス様がしたい時にやりましょう。とうにレベルは達したと思いますし」とのことだ。


 チラッと横を歩いている少女のことを見てみた。

 ……結構かわいい顔をしてるんだな。戦ってる時はすごくかっこよかったけどこうやって歩いてたら普通の女の子だ。


「……あの、なんで、しょうか……」


「ううん。なんでもない」

 

 この子の目、エリルにも少しだけ言ったが……昔の自分のような目をしていた。


 希望すら諦めているような暗く、海底の底のような諦観の目……。


 戦闘奴隷の人たちが昔の僕なんかよりも劣悪な環境にいたのは無知な僕でも想像することができる。だけど、他の奴隷の人達には感じられた『心の支えとなるモノ』や『縋るモノ』が、この子からは感じられなかった。


 それが本当なのか、本当であるならどうしてそうなのか。そのことについて僕はまだ分からないけど、生きることに希望や縋るモノがないんだったら僕はこの子に楽しく生きてもらうために全力を尽くそう。そのために時間を使おう。


 僕がこの世界に来てしてもらったこと、ムロさん達やギルドの人達、友人たちにしてもらったことを僕がこの子にするんだ。今度は僕がする番だ。


「クラディス君と、えーと、めちゃつよの子! 次は布団!! はーやーく! 日が暮れちゃう」


「今行きます! ごめんね、もう少し買い物に付き合ってもらうことになりそう」


「……わたしのことなど構わずともいいです。わたしは――」


「何言ってんの、構うに決まってるじゃん。それよりも早く行かないと本当に日が暮れちゃうよ?」


 これはお節介なのだろう。

 ただの僕の自己満足にすぎないのだろう。

 それでもいい。僕はただ、生きることは楽しいことなんだと分かってもらいたいだけだ。

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