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143 最強の少女vs恩人


 今まで見えていなかった男が突如として現れたことで男達は身構えたが、よくよく見てみるとその顔には覚えがあった。

 赤茶の髪色で短髪の180〜190程の身長、いつもヘラヘラと人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている大剣持ちの上位冒険者。


「お前……ムロか」


「俺はお前を知らない。俺が興味があるのはそこのお嬢ちゃん」


「俺らもこいつに用があんだよ!……そうだ。なぁ! 手を組んでこいつ倒してよ、金稼ごうぜ? どうせお前んとこも資金繰り厳しくなって来てんだろ?」


「はぁ? センス無さすぎだろお前。俺はただの暇つぶしとか……まぁ、そんな感じだ」


「暇つぶしだぁ?」


「とりあえず、俺はそこの嬢ちゃんと戦いたいからここに来てんだ。よいしょっとぉ……」


 大剣を振り回して軽いストレッチをしていたムロは最後に高くジャンプをして闘技台の床にヒビを入れ、レイピア持ちの男の方を見た。


「その前に、まずはお前らからだな」


 駆け出したムロに対して、レイピアのような細長い剣を構えて応戦しようとする。その後ろの2人も標的をムロに変えたようだ。


「ば、バカにするな!! 俺はレベル468だぞ!!」


「おぉ~、それはそれは、レベル上げ頑張ってんなっ!!」


 大きな剣をかざし、床を真っ二つに割ると衝撃波が男の元へと走った。それを横に避け、体の前に構えたレイピアをムロに目がけて伸ばす。


「お前も! 調子に乗るなよぉぉっ!!」


「乗ってねぇよ。なんだそれ、語彙力ねぇのか。あ、闘技場初めて? 緊張してる?」


「バ、バカにするなぁっ!!」


「煽り耐性もゼロ……っと、本当に468かぁ?」


『おおぉぉ??! ダークホースか、実況の私も気づきませんでした!! またまたアサルトリアからの出場、ムロです!!』


「おーおぉ、人気者だなぁ俺も」


 交戦中だと言うのにアナウンスを聞くために顔を上げた瞬間、3人が次々に攻撃を浴びせようとした……。だが、その攻撃を剣で作り出した風で弾き飛ばすと、さらに一歩踏み込んで大剣を振り回し、大きな竜巻を作り出した。


「コレ、最近覚えたスキル。結構痛いかもしれねぇけどレベル上げ頑張ってるんだったら……捌くことなんて簡単だろ?」


 竜巻はムロの元を離れ、男たちがいる方へ。闘技台の破片を巻き込みながら向かっていく竜巻は、細やかな粒子を絶えず含んでパワーアップを続けている。

 

「くっそ……っ、お前ら、構えろぉっ!」


 横幅目いっぱいに広がった竜巻から逃げることはできず、竜巻との正面衝突が余儀なくされた。それに対して男達ができることは同威力のエネルギ―をぶつけ相殺することだけだった。


 レイピアを持っている男は何度も空中に刺突を繰り返し、その残像を残しスピードを上げて最後に思いっきり踏み込んだ。他の魔導士(ウィザード)二人も全力を絞り出す。


「ぐっ……『七十九連撃ノ刺突セプトノヴィ・ピオーネ』!!」


「『風巨大槌イノーメ・ウィンドパウンド』!」


「『多重衝撃破(ノブル・インパクト)』!!」


 砂利や粒子が体にぶつかって血が流れ出ながら真正面からのぶつかり合いをすると、数の有利もあってか竜巻の勢いが弱まっていくのを感じた。


「――いけるっ!! まだまだぁっ!!!」


 そこからさらに追撃でスキルを発動し、完全に竜巻を消し飛ばすことができた。


「はぁはぁ……! 見たか! これが俺たちの力――」


「おぉ、良かったな」

 

 ガッツポーズをしていた男の体に無数の斬撃が届き、衝撃で後ろの場外へと吹き飛ばされて行った。


 いつの間にムロが近づいたのかと思ったが、ムロは初期の位置から動いていない。

 男たちが竜巻を消すことに力を使い、疲弊したところを狙ってムロは大剣を無造作に振り回して衝撃波を男たちに向かって飛ばしていたのだ。

 

「それにしてもスキル一つ消したくらいで盛り上がるって……どうなってんだマジで」


 完全に気を失っている男を見て、はぁっとため息をついた。




     ◇◇◇




 残った魔導士(ウィザード)の2人は奮闘をしていたのだが対人戦に不慣れな動き方が多く、それに対してムロは体をスムーズに運んで殴ったり蹴飛ばしたりと、2人相手のぎこちない連携にも上手く対応。

 時間としてはとても短く、レイピアの男を場外にしてからは一分も経たずして場内に立っているのは727番とムロだけとなった。


「おじさん、一体一だね」


「そうだな」


「おじさんは強いんだね」


「おじさんは強いぞ」


「でも、負けないから」


「そりゃそうだ、おじさんだって負けるつもりはない」


 互いに目を離さずに会話をし、武器を握る手に力が入った。

 周りの歓声もガヤも実況の声もシャットアウトし、二人だけの世界に入る。


 ――2人の集中は高まっていく。


 下手をしたら確実に一撃で終わってしまう。

 それ故に見えない攻防が二人の間に広がり、行動を制限され、ゆっくりと足を運ぶことで最適の場所とタイミングを探していっていた。


「くくっ」


「ははっ」

 

 その状況をもどかしく感じたのか、慎重だった二人はほぼ同時に動き出し、ムロの武器が届く間合いに接近。


 この戦いを観戦している多くが視認できないような速度で振られた大剣を、少女は緩急によって避け、大振り後の硬直を狙ってグイッと間合いに入った――迫る小さな体を空いている手で掴もうとしたが、鋭い蹴り上げで応対され、ムロの手の指に血が滲む。


 しかし、その程度の傷など無視し、目の前の少女の側面に蹴りを入れ込んだ。


「くっ……ぁ」


「なんだ、その程度か?」


 モロに入った攻撃で闘技台を横滑りした少女を見てからかうような言葉を投げた。それにムッとした表情を返す。


「まだ!」


「そう来ないと、な!」


 砂塵が巻き起こる程の速度で地面を蹴り、大剣を振りかぶるムロに拳殻を捻じ込もうとした727番。それに対してムロは懐に入ってきた少女の頭部へと『身体強化』を使った力強い一撃を振り下ろした。


 ――ゴッ。


「あん……?」


 手には伝わってきたのは床の硬い感触のみ。

 目の前の少女が消えたとしか思えない状況だが、ムロも伊達に場数を踏んでいるわけではない。経験に従って剣を振り上げると降下中の少女の拳殻とぶつかって金属音を響かせた。


「やっぱり上に飛んでたな。素早い奴がよく使う手だ」


 727番は拳殻に入ったヒビを見て、不思議そうな表情をしながら着地をした。

 咄嗟に受けたため衝撃を上手く受け流せなかったのだが、それ以前にムロの攻撃力が信じられないほど飛躍していた。


 手を思いっきり握り、緩め、ムロの方を向いた。


「……おじさん、スキル使った?」


 少し離れた位置に立って、こちらを向いている少女の問いかけ。


「あぁ『身体強化』を使ったな。悪かったか? そういえばお嬢ちゃんはスキル使ってなかったな……使えないのか? そんなことは無いだろ」


 それに対して普段するような挑発を混じえながら答えた。


「使わなくても勝てるから……だけど、おじさんにはちょっと厳しい――だから、私も使う」


 その時727番の魔素が急激に漏れ出たのをムロは確認した。

 それがなんのスキルに使われるものか分からなかったが、濃度が高く、しっかりと練り上げられた魔素だったのは確かだ。


「じゃあ、いくよ。おじさん」


「……あぁ、こりゃ、からかうような真似をしなかったら良かったな」


 ムロの目の前に立っているのは先程の少女だった。だが、明らかにオーラが異なり、別人のように思えた。




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