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142 上位部門 最強の少女




 試合場に立つ戦士達が今か今かと待っていた鐘の音が鳴る。その音と同時に戦士達はある人物を潰すために一斉に動き出した。


『出た出た!! 今回も出ました!!! 毎度おなじみ、上位部門ンッ! 727番潰しだァ!』


 その光景はまるでエサに群がる獰猛な獣の如く。

 ものの一瞬で闘技場参加者VS727番という構図が出来上がっていった。


 賭け金一位を結託して潰すという明確な意思。


 727番がどれほど脅威であるかというのが一目でわかる行動。

 ある者は剣で切りかかり、ある者は詠唱を始めて魔法攻撃をし、事前に話をしていたのかのような連携を見せた。


 しかし、クラディス達三人と目が肥えた観客は参加者ではなく、その727番の動きに目が奪われた。


 それは、本当に一瞬の出来事だった。


 自身を取り囲む参加者の群れ。その後方に構えていた魔導士(ウィザード)ほぼノーモーションで高威力の近接攻撃を繰り出したのだ。

 顔面に攻撃を当てられた魔導士(ウィザード)は場外へと吹き飛び、何が起こったのか分かっていない状態のまま気絶をしてしまった。


「わぁー! はやい!」


「スキル……使ってないですよね……?」


 ペルシェトとクラディスは感想を声に出し、それを聞いたナグモが笑った。

 スキルを使わない状態で、クラディスの最高速よりも数段早い動きで、最高威力の攻撃よりも高い一撃を放つ少女。


(これなら、転生者と言われても納得だな……)


 クラディスはその動きに無言で釘付けになった。


 727番の初動の位置目掛けた集中攻撃は虚しく空を切った。

 それだけではなく、既に自分達の後方に移動していて一人を倒していた。

 その事実に戦士達は焦りを覚えながらも躍起になり、次々に襲いかかって行った。


『ここで掛け金4位の剣闘士(ウォーリアー)ドルロ!! どうしかける!!?』


 大きな鉄球を持っている大柄な男性が727番への攻撃を繰り出し、鉄球で足場を抉った。

 その闘技台を壊すほどの凄まじい攻撃。だが、ここは上位部門であり、素早い動きの727番には当たるはずもない。

 振り下ろされた鉄球に足を乗せ、そのまま腕から登っていき顔面までたどり着いた少女はドルロの首を蹴飛ばしてよろめかした。


「ぐぬぅ!!?」


 その男の苦し紛れの掴みを躱して、背中を蹴り、場所を移動すると727番目掛けた攻撃がドルロの胴体部に当たり大男は気絶に追いやられた。


『同士討ちキターー!!!!』


 実況の男も体裁を忘れて叫んだ。


「チョロチョロしやがって……!」


「どこ行きやがった!?」


 開けた空間だと言うのに一瞬目を離した瞬間に消えて、周りの戦士達から悲鳴が上がる。


 これに参加している冒険者は一級の冒険者ではないにしろ、レベルは450を超え、727番が参加していない闘技場での優勝経験がある者もいる。

 そんな相手にも臆せず、少女は魔法を詠唱する後方の防御の薄いところへ一撃を加え、体勢が固まる前に崩すことを第一に考えて動いていた。


「次は、あいつ」


 参加者の中でも比較的防御が薄そうな後方にいる弓持ちを見つけ、両手を振った勢いで飛びかかった。


 その男はこちらに標的を絞って来た727番に向かって矢を一気に放つ。

 すると、空中で回転して地面に低姿勢で着地し場所を移動していった。

 そこから何度も放たれた矢は少女の体掠めることすらできなかったが、行動の制限は出来ているように見える。


「僕が気を引いている内に……っ!」


 少しでも727番が呼吸を置こうとするのなら、自身を狙っている後方火力支援の弓士(アーチャー)魔導士(ウィザード)の攻撃が体を捉えてくる。


「……めんどくさい」


「そこ、だっ!!」


 すると、少女の動きに食らいついて来ていた軽装剣士(ライト・フェンサー)の男が背中へと刃を突き立てた。

 その攻撃を低姿勢の状態からさらに背中を屈め、横に体を捻り、両手を地面について男の顎に足を伸ばした。


「そんな攻撃くらうかよっ!!」


「そう」


「なっ――ぐっああああっっ!!?」


 男は伸びてきた足をとっさに躱した。

 しかし、横を通過した足が方向を変えて足で首を締め付けるように絡ませられ、少女の股が顔面に来る形……肩車の反対のような状態になった。

 少女は自身の腹筋を使い、空中にあった体を男の近くまで持っていくと男の頭を両手で持った。


軽装剣士(おまえら)は耐久力が低い」


 太腿(ふともも)脹脛(ふくらはぎ)で首をキメたまま思いっきり両手での首を回すと、バキッ! っと首の骨が折れた音が鳴り、男は口から泡を吹き出した。


「――囲めッ!」


 倒れる男から離れて地面に足をつこうとした瞬間に魔法が発動され、少女は炎穹窿(フレアサークル)に包まれた。

 軽装剣士(ライト・フェンサー)を巻き添えにした中級魔法は近くにいるだけで大火傷を負いそうなほど熱を持ったまま広範囲へ広がった。


「よしっ!!」


「お前ら! 魔法の解除時に追撃だ!! 構えろ!!」


 ゴオオオッと燃える半球の火属性魔法の周りを残っている十数名の参加者は囲み、魔法の勢いが落ち着くのを待った。その魔法を発動していた魔導士(ウィザード)にアイコンタクトを送るレイピア持ちの男性。

 そして、ぶわっと炎が消えた瞬間に中にあった人影に一斉に戦士達は襲いかかった。

 

「……はぁ」


 ――刹那、男の周りにいた参加者の首があらぬ方向に曲がり、体が炎に包まれたのが目に入った。


 炎が移った戦士は体を床に打ち付け消化を試み、蹴りをくらった者は地面に伏し、起き上がってくる気配はない。

 闘技台が黒く焦げている中心地、そこに立っているのは服の端は燃えているが……ほぼ無傷の727番だった。


「なんで……! おまえ、直撃だったはずだぞ!!」


「耐性」


「くそっ、やっぱりこいつは本物の転生者……っ!!」


「落ち着け! 数で囲めば勝てる!!」


 周りの参加者に呼びかけをしようとしたが、その中から少女に向かって走り出した男がいた。


「もうやめだ!! 俺は、【転生者(こいつら)】にダチを殺されたんだ!! 俺の手で殺してやる!!」


「馬鹿、止せ!!」


 感情を露わにした男の何も考えずに突きだした剣は最小の動きで躱され、足払いをして後ろで狙っていた弓士(アーチャー)とぶつけさせられた。


「ぬぁあっ!??」


 弓士(アーチャー)の腹部に剣が刺さり、男の胸部に少女に向けていた矢尻が刺さった。

 お互いにすぐに引き抜こうとしたが、二人もろとも少女が作り出した衝撃波で場外へと飛ばされてしまった。


 もはや序盤に見せていた連携など見る影もない。

 感情的になったが最後、着々と一人ずつ削られ、甘い行動をすると咎められて同士討ちも少女の戦術に組み込まれて行く。


「このっ……調子に乗るなよ、ガキ!!」


 微塵も疲れてない様子の少女に対して堪忍袋の緒が切れたのか、先程まで固まっていた人達が動き出した。


「乗ってない」


 指示系統を感情の濁流が呑み込んでいくのが分かる。

 男の感情的な行動を皮切りにそこからは統率が取れてない集団が連携から抜け出し、暴れ回るだけだった。

 全て727番の思うがまま戦況は支配されて行く。

 少女は攻撃を当たる寸前で避け、受け流し、カウンターが来ないタイミングで腹部に攻撃を捻じ込み、吹き飛ばす。


「ハァハァ……。こいつっ! 強すぎる……!」


「やっぱり……【転生者】なんだ。こいつ……本当にっ」


 勝手に絶望している男と女の言葉について「あなた達が人との戦いに慣れてないだけ」と呟いたが、声は届いていないようだ。


 その後も少女はこの場にいる者の癖を見抜き、気配や殺気を確認し順当に数を減らしていった。



       ◇◇◇



 少女が脳内で戦う相手の特徴や弱点を考えながら攻撃を繰り出していると、最初20人程いた参加者は二桁を割った。

 周りにいる参加者も息が上がって行動が単調になってきた、そろそろこの戦いに終わりが見えてきたという頃。


「はぁはぁ……動き回りやがって……!!」


 悪態をつく男を無視して目をキョロキョロと見渡して地面を蹴っていると、自身を囲んでいる5人のさらに向こう側から大剣を地面に突き、いままでの戦いを観戦している者がいたことに気付いた。


「……?」


 その男はジッと見ていた相手がこちらに気づいたのに気づき、笑った。


「727番、直に見ると本当に強いな」


「……気配」


「消してたよ」


 その男は気配を消してい戦いに一切参加せず、数が減るまで待っていたようだ。

 自分の大剣の柄頭に両腕を置き、その上で顎を置いてリラックスをしている姿。

 その男の存在に回りの参加者達も気が付いたようだ。


「なんだお前……さっきまでいたか?」


「最初からいたぞ。お前等がそこの嬢ちゃんにしか目が無いみたいだったから離れて見てたわ」


「……おじさんここら辺の人より強い」


「おじさんは前線で気張ってるからそこそこ強いよ」


 鞘に入ったままの大剣を持ちあげて、鞘から剣を抜いた。

 その様子を見ていたクラディスはようやくその男の存在に気づいたようで、飲んでいたお茶を吹きかけた。


「む、む、ムロさん!? なんでっ!? ずっといました……?」


「気配を消して数が減るのを見てましたね。闘技台の人は全員気づいてなかったようですし」


「気配ってそんな、え、だって……」


 自身の恩人達がこれに参加していることに驚きを隠せないようだ。

 レヴィや他の一部のメンバーは観客席で自分の所の血盟員の戦う姿を観戦をしているのだが、それすらも気が付いていない。

 クラディスは口を拭って落ち着くと、場内に意識を戻した。


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