138 中位部門 掛け金一位
「『火槍』! 行けっ!!」
「火槍? ここ中位部門で下級魔法かよっ!! おいおい、俺は下位部門に出たわけじゃねぇよなぁ!」
「ヒイッ!!?」
黒いローブを羽織っている青年が撃った魔法を避けた軽装の男は、片手に装備していた円形の盾で青年を場外へと弾き飛ばした。
これで周囲の掛け金が低い者はいなくなり、掛け金上位のモノしか見えない状況になった。
この中位部門の参加者には、ただレベルが高いだけの者が多く存在している。
レベルと実力が見合わずに本業で食っていけなくなった者がまぐれで大金が手に入ると浅い考えを抱き、闘技場に参加しに来るのだ。先ほど場外に飛ばされた魔導士もそのような参加者の一人だった。
「ちゃんと勉強してからこいよ、良い子ちゃん」
そのような人が思い描くような一発逆転のような物はそうそう起きない。
それに、この男のように場外へと出すだけで済ませる者ばかりではなく、躊躇なく殺そうとしてくる者もいる。
ここは闘技場。法が適応されない場所だ。それ目的で来ているような人間が出てきてしまうのも仕方がない。
――マーシーが端で戦っていた間、反対では別の戦いが白熱していた。
そこには掛け金の上位の者が一堂に会する事態になっていた。
観客の視線も必然と集まり、実況の男もそこを中心に声を出すように。
そして、闘技場の実況者が取り上げていた上位入賞者予想の一人もそこにいた。
戦闘奴隷1003番
出自:ぺネロ王国、ハイド街
レベル:およそ200
闘技場上位入賞回数
下位部門:1回
中位部門:初出場
奴隷ということもあって周りから標的にされ、開始の鐘の音が鳴った時から多くの参加者に囲まれていた。
だが直ぐに脱落するどころか、戦闘不能になった参加者から武器を奪いながら連戦をしていき、見事と言える立ち回りで生き残っていた。
彼の危機察知能力はこの部門に参加している他の戦闘奴隷より秀でていると言っていいだろう。彼のことを詳しく知る者は「以前は傭兵として戦っていただけはある」と評価をした。
当然、その周りの上位の掛け金の参加者の猛攻もすさまじく、観客の視線は釘付けになっていた。
……しかし、彼らの猛攻むなしく、一発の魔法で事態は急変した。
「ねぇ、もうお終い?」
「グッ、アァッ!!!!」
「戦闘奴隷の1003番さんだっけ? 瞳の色は剣闘士系か。ふむふむ、でも魔導士のボクに力勝負で負けるってどうなの? さすがに、まだ何か隠してるでしょ?」
順調に数を減らしていった1003番を中心に発動された大規模な爆発。
耐性のない者は四肢が飛び散り、耐性があった者であっても行動不能になるほどの威力が高められている者だった。
1003番も魔法陣が自身の足元まで範囲が及んだのに気付くとすぐに円の外にでようとしたが、間に合わずに爆発を受けてしまった。
『おおぉ!!! 大勢の参加者が睨み合いを利かせている中! そこに魔法をぶつけたのは掛け金1位のペリカだぁ!!!』
「お前が……ペリカ、か……!!」
「そうだよ。アレ? 戦闘奴隷の中でボクって有名なんだ。嬉しいなぁ」
「……あぁ、有名さ……だって、貴様は……グッァ」
喉を握られ、まともに声が出ない1003番の言葉を聞いてペリカは嬉しそうな顔で微笑み、片手に持っていた杖を地面に着き魔素を高めていった。
「『火よ、我に仇なす敵を焼却する力を与え給へ、我が望むは槍、敵を貫く槍である』」
「何を、してっ……」
「僕の二つ名通りさ」
屈託のない笑みを最後に見せ、1003番の体に下から9本の火槍を差し込んだ。
「グアアアアアアアァァァァァァッァァアッッ!!!!!?? 熱い!! 熱いッッッッッ――!!!」
「うん、やっぱり君は耐性があるんだねぇ~刺突耐性と熱耐性かな? あとは……さっきの爆発で生きているから衝撃耐性とかか! あはっ、無かったら簡単に死ねたのにね」
燃え盛る1003番の叫び声が場内に響き渡る。
普通であるなら誰かが消化をしに動くか、術者を倒すために動くだろう。しかし、ペリカの周りには初手の爆発で戦闘不能になった者しかいなかった。それ以外の参加者は他の所で戦闘を続けているため、それを止めるために誰かが動くことは無かった。
黒焦げになった1003番がドサッと地面に落ちる音までしっかりと聞き、ペリカは踵を返した。




