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138/550

136 レベル差なんて関係ない



 闘技台の上からまだ戦闘が続けれそうな人をチラッと後目で確認しておおよその人数を確認したエルシーは、前で斧を豪快に振り続ける男の攻撃をギリギリで避けて顎目掛けて蹴りを繰り出した。


「ぐおっ……!」


「おじさんそろそろ当てないのー?」


「当てらないからっ! こうして振ってるんだろ!」


「そんなんじゃ一角兎(アルミラージ)にも当てれないよぉ」


「うるさい!! じゃぁ、これならどうだ……『腕力増強』『身体強化』!!」


「じゃ、私も『脚力増強』『身体強化』!」


「ガアアアァッ!!!」


 ――男が振った斧が体に触れる寸前に、エルシーはコンクリートでできた地面を蹴り、背後に回った。

 

「おりゃー!」


「ぐおぉぉお!!??」


 よろける体勢のまま力任せに振った斧は中央の戦闘奴隷に悪戯に虐めていた男の背中に深い傷を負わせた。

 周りの参加者はギョッとし、観客は「おおおおおおおおぉぉっ!!!!!!」と体を乗り出した。


『場内の端から中央まで、まるで自分の道かと言わんばかりの猛進撃!! 参加者番号24番のカーターと、112番エルシーです!!』


「テメェっ!?? 何すんだ、この重装備(チキン)野郎!!」


「邪魔じゃぁ! 背中が切れるようなお前が悪かろうが!!」


「はぁっ!!? 何を」


「邪魔じゃと言うたじゃろうがぁっ!!!」


 再度力任せに振った斧の風圧で、男たちは飛ばされて場外に落ちていった。場内に残ったのは10人もいなくなった。

 先ほどまで自分に攻撃を浴びせていた男がいなくなったが、相変わらず泣き止まない戦闘奴隷にカーターは苛立ちから斧を闘技台に思いっきりついた。


「やかましい! 傷を負うのが嫌なら場外へ走ればよかろうが!!」


「だ、だって、そんなことしたら、あいつらにまた怒られるから……!」


「なら知らん、成果を出して良い引き取り先を見つけてもらうんじゃな」


 自ら進んで奴隷になる者などいない。

 何故なら奴隷に対しての認識は大体『人間の形をしたモノ』のような認識だからだ。よっぽどの善者か、ましてや人権団体のような場所に身を置いていなければ、世間一般的に消耗品として扱われる。


 だが、近しい者にそういった境遇の者がいたり、直接会話する機会があったり、傭兵のような戦闘奴隷と共に要人警護や警備などをやったことがある者は奴隷に対して酷く扱う者は多くはなかった。


「傭兵さん優しいんだね~」


「ハンッ。小娘が、何を勘違いしているか知らんが……喋る暇があれば早く攻撃をしてこい」


「疲れるから嫌よ、それに人を切るのは目覚めが悪くなりそうで嫌なのよね。私は冒険者だからさ、魔物(モンスター)とか遺跡探索してたいの」


「じゃあこれに参加せずに、そうしておけばよかったじゃろう」


「ははは、お金欲しいもん。おじさんと一緒だよ」


「違いないな」


 エルシーと重装備の男が話すのを盾から顔を覗かせて戦闘奴隷は見て、他の参加者は一対一という状況で戦っている中、既にボロボロの状況で自分が何ができるかを考えていた。

 そして、キンッキンッと刃物と刃物がぶつかる音の中、何かを決したような表情で歯を食いしばった




      ◇◇◇




 周りの観客が残り少ない参加者達を応援している声を聞いていると、本当に賭け事の世界のように思える。

 掛け金の割合や、どういった感じで配当金や払戻金のようなモノの計算がされているのか分からないけど、ここまで大きな所になるとしっかりとしているのだろうと思う。


(競馬? 競輪? それとも競艇か?)


 賭け事には疎いし、そういった所に立ち寄ったことが無いから想像しかできないが、この場にいる観客たちは僕の乏しい想像力で想像していた賭場と大体同じ雰囲気を作り出していた。

 自分が賭けた対象が上位に食い込みそうな時の盛り上がり方は三者三様、席から立ちあがる、手に持っているモノで膝上を叩く、一点を見つめ食べ物や飲み物を口に含む。


「僕には、やっぱりまだ早かった……」


 観客席の雰囲気や場内から聞こえる叫び声や血飛沫、人同士が戦っている姿というのは見ていて面白いとは思えない。魔物(モンスター)同士が戦っている姿ですらモヤモヤするというのに、人であったなら尚更だ。


「それに、さすがにレベルが10倍も違ったらまともな試合にならないのは分かるだろうに……」


「そういうのを楽しみに来場する客層がありますから」


「……ほんと、いい趣味だとは思えないですね」


「そうですか?」


「そうですよ! だってあんなにボロボロにされて、レベル的に勝てるわけないですし」


「まぁ、そういわれたらそうですね……」


 戦闘が行われてる場内を見つめると、壊れかけている大きな盾で身を隠しながら何かをしようとして魔素を練り上げている戦闘奴隷の姿が見える。

 顔も痣だらけ、服はもはや服の役割を果たしていない。防具はつけていたのかは最初から見てないから分からないけど、胸当てすらつけていない。


(それにあのフードの人……やっぱりエルシアさんだった)


 お金稼ぎに来ているみたいだけど、見ていてすごくハラハラして仕方ない。

 強いから心配はいらないとは思うけど、あの重装備の人の攻撃が当たってしまえば、細い軽装の体はただでは済まないだろうし。


「……レベルって、なんだと思いますか?」


「レベル……? いまいちよく分かってないです。だけど、高い方が強いんじゃないんですか?」


「そうですかね、本当にレベル40の人は450に勝てれないのでしょうか」


「少なくとも、僕は勝てれないと思いますけど……」


「普通に考えてそうですよね。でも実は私、あの戦闘奴隷の子のこと知ってましてね……。この戦いはあの子が勝つと思いますよ」


「で、でも10倍も違うんですよ!? その前にお知り合いだったんですか?」


「直接的な知り合いではないです。彼が元冒険者だったってだけですね。最近見なくなったと思ったら、こんなところいるから驚きましたよ」


「あ、そういわれたら私も見覚えあるかも……ワットとかなんとかって名前でしたっけ」


「ワット君であってますよ。んー、何があったんですかね」


「あの人、そんなに強いんですか?」


「見ていたら分かりますよ」


 人に埋もれながらもなんとか凌いで満身創痍にも見える男を見た。そうすると、先程まで人に揉まれ慣れてない手つきで盾を使っていた男が武器と盾を放り投げしゃがみ込んだ。

 ナグモさんは「あの子が勝つ」と言ったけど、僕はとてもそうは思えない。あの絶望の状況を打開する策は……。


 ――次の瞬間、闘技場に青白い焔がチラついたと思うと、場内全域に青黒い炎の9つの巨大な柱が出現した。


 残っていた参加者たちはみんな戦闘不能になるほどの傷を負うか、場外へと追いやられてしまった。エルシアさんもギリギリの所で回避すると場外へ出れたようだった。


『出た出た出た!! アレは1193番の十八番だ!! アレを食らってしまうと、さすがの参加者も立っていられないっ!!』


 魔法の衝撃が観客席まで届き、僕らだけでなく他の観客の髪の毛は風で煽られた。

 観客席と闘技台の間には何重にも障壁が張られていて矢とか魔法、熱のようなモノはこちら側には届かない。けど、すごい衝撃だ。


「なんですか……アレ」


「あの子のとっておきというか、切り札のようなものですねー」


「――んにゃぁぁー! 髪の毛がぁぁー!! セットがぁあぁ」


「あの子は澄んだ魔素で詠唱も早い。でも冒険者の階級は低く魔導士(ウィザード)としての知名度も低い、それであれほどの魔力と魔素だから勘違いでもされたんでしょうね」


「……【転生者】とかですか……?」


「おそらくは」


 先輩の【転生者】の存在は教えられているが、同期の【転生者】がいるのかどうかっていうのは分からない。いないと断定できないから、いるかもしれないと心構えをしていた方がいい。


(エリル、どうだった?)


(はい、あの人もそうなんですが、他の奴隷の人も称号を持っている人はいませんでした)


(【転生者】はいないってことかな)


(そうですね……単純に一部の魔法に秀でている人だったのだと思います)


 この世界で人を【転生者】だと見抜く方法はコレと言って確立されていないという話は聞いたことがある。

 それこそよっぽど魔素使いに長けた人が使う『鑑定』のようなモノがない限り、断定はできないのだろう。ステータスボードも他人に見せることはできないってなると、この世界にとって【転生者】の基準って結構曖昧なんじゃないか……?


「あの子いいわね!」


「何言ってんの! 私のものよ!」


「私はもう少し大人な方がいいわね……」


「しかし一撃で倒れてしまうなら、価値はそれほど高くないな」


 試合を見終えた観客席から1193番を値踏みするような気持ち悪い目が向けられる。

 その1193番は、退場口の方にふらふらと歩いていたが俯けに倒れたのがチラッと見えた。スタッフのような人に中に引きずるように運び込まれていった。


「魔素ロストですね」


「あんな大きい魔法を使えば、40前後の人の魔素量では足らないですからね」


「派手でしたもん、ぶぉぉぉおっって」


 ペルシェトさんが参加者と奴隷が戦っている様子を左右に揺れながら覗いていたのが見えていたから、興味が無いと言っていたはずだけど結構楽しんでたみたい。

 髪の毛をいつの間にか元に戻していたので、僕も上がり気味の髪の毛を手で元に戻るように直した。


「午前の部はあとひとつですね。一度休憩を挟むようなので、飲み物でも買いに行きましょうか?」


「そんなこともあろうかと僕は3人分の飲み物を買ってきてますよ!」


「おっ! 奇遇! 私も買ってきてました!」


「あ、私だけ買ってない感じですか。なんだか申し訳ないですね」


「いや! ナグモさんは動かなくていいですよ~。お茶でいいですか?」


「アイスコーヒーもありますよ」


「選べれないので2つともいただきますね」


 色々思うことはあったが、下位部門が終了した。

 メインは727番さんが出る上位部門だけど、それまでに727番さんを買えるほどの資金を得なければいけない。


 上位部門で賭けるのはよくないか。29連勝をしている人がいる部門で賭けるのはさすがに。


 だったら、その前の……中位部門が最後のチャンスだ。



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