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133 小さな分岐点




 デュアラル王国のARCUS第四地区に占める領地は三国の中で最も多い。

 兵力は言わずもがな、提携している個人の冒険者、血盟の総数も他の二国と比べて多い。だが、そんなデュアラル王国が頭を悩ます存在がいた。


 それは領地を与えられている貴族だ。


 デュアラル王国の領地といっても全てが王国の管轄ではなく貴族が領主として認められている部分が多い。具体的な区分けは頻繁に変更されるわけではなく、どこの領地をどの貴族が持っているかは明らかであった。


 その多くの貴族の中で特段権力を有す存在が二つあり、その二つの貴族のことはこの国に住まう者から“二大貴族”と呼ばれている。

 その二つのうちの一つは王国に協力的な態度を見せているのだが、もう一つの方は協力的といえず、常に王族に対して反抗的な態度を示していた。


 その協力的でない貴族の名前はロバート公爵。


 王国設立時から長く王国と共に在った貴族で、デュアラル王国壁外の領地の四分の一程を有す貴族であったのだが、現在の公爵へと爵位継承される一代前……およそ100年程で協力的な態度が一変してしまった。

 王族に匹敵するとも言われている貴族最高位の公爵が有する領地は広大であり、そこにはデュアラル王国程の規模ではないが小国というには大きく、そこに住まう民も多い。そのような所が他の王国や他の勢力へと通じてしまうのは必ず避けたいことであった。

 

「主人、手紙が届いていたそうです」


 絢爛豪華な内装の大きな部屋。


 その空間には、執事姿をしている男性が二人とこの場にふさわしくない質素でボロボロな身なりの男性、そして椅子に座り資料を仕分けしている白髪で中肉中背で書類の文字を見るために眼鏡をかけている齢60歳程になるロバートがいた。


 肌着の男が持ってきた手紙を手に取り、開けてみると、その手紙には闘技場への招待の通知と入場チケットが同封されていた。


「あぁ……そろそろだったか」


「今回はご参加になられますか?」


「……いや、やめておこう」


「では、そのようにいたします」


 出された招待状を突っぱねて処分を任せると再び資料に目を戻した。

 しかし、何か思い出したように部屋を出ようとしていた男に声をかけた。


「あいつは、今回参加するのか」


「あいつ……とは、以前館にいた、あの戦闘奴隷(童女)のことでしょうか?……参加する奴隷のリストには……いました。出るようです」


「参加か。そろそろ取り決めた定数へと達するだろう。今回は何回目だ」


「30と書かれていますが」


「規定数、か……予定変更だ。参加するようにしておけ」


「分かりました」


 シルクという男が部屋から出ていったのを確認し、資料に目を戻す。

 



 ロバートの館には執事やメイドと同数程の奴隷が館に置かれている。

 その奴隷の中でも比較的に安価で取引される通常の奴隷よりも高い値段で取引される戦闘奴隷の方が割合は大きかった。


 その戦闘奴隷にも序列が存在し、大きく四つ区分けがされている。

 一番下は四等級から始まり、一番上は一等級と言う扱いを受け、一番上の戦闘奴隷になると数千万から億単位の金が動くことがある。


 そして封書を持って部屋を訪れた男、これはロバートの館に置かれている数十人いる戦闘奴隷の中でも様々な役割が課せられており、この館内の中でも直接ロバートの部屋を出入りできる権利を持っていた。


 この男の名前はシルク。

 この戦闘奴隷は主にロバートの周辺の警護を任せられていた。十数年に渡ってこの館にいる一等級戦闘奴隷だ。


 手に持っていた資料を見ながら先程のシルクとの会話に出てきた童女のことを思い出し、ロバートの口端が上がった。


「それにしても、アレも見納めか……そうか、クククッ」


「公爵、月末は予定が入っていますが」


「分かっている。だが、元々館にいた我が子のような童女の最期を見に行かないとな。下位貴族との会談など適当な理由を付けて延ばさせるさ」


「では、得意先への卸しはどういたしましょう」


「絞れ」


「……承知いたしました」


 スケジュールの確認が終えた後、空いている手で口に手を持っていき込み上げてくる歪な笑いを堪えようとした。手紙を持ち、長い廊下を歩くシルクもまた口端を釣り上げた。



 ――退屈を嫌う者達の中に一通の封書が届き、それは月末に『優秀な戦闘奴隷の最期を見ることができる』という娯楽に変わった。


 二大貴族の一人は喜んでスケジュールを開け、他の貴族も自分たちの暇を紛らわす一時的な催し物であるという認識に過ぎなかった。


 その観戦をする権利を少年は手に入れた。


 そして【転生者】と噂されている少女の身柄を確保するために全力を尽くしてきた。

 

 その結果が分かるのは、月末の闘技場だ。

 



      ◇◇◇




 そのことを人が認知することができない空間……白く、どこまでも白い空間で、興味深そうに眺めている存在がいた。


「さぁ、観測者が名付けた彼は……どの道を選ぶのだろうか。神運が彼を導くのか、称号の運命が導くのか、それとも別の何か、か」


「第四創造神、先程から何をご覧になってるのですか?」


「なに。私の世界で生きているちっぽけな存在が、私の過酷な世界でどう生きていくのかというのを見て――ん、待てよ。過酷というのは少しの自虐を含んでしまうか。つまりは何が言いたいというと、そうだな、第一創造神(センパイ)の世界の言葉を使うと『暇つぶし』をしていると言ったらいいか。おぉ何とも便利な言葉だろうか。それで観測者、どうしたんだ」


「いえ、その適性者様のことを気に入っていることに関しては何も言いませんが、他の観測者から転生者が一人……」


「あぁ、そのことか、分かっているよ。だが、まだ私の世界に来たばかりだ。それにその適性者くんは特殊だから、馴染めなくとも仕方がないのではないかな。同じような転生者もいるが、その子よりなんとも人らしい反応であると思う」


「そうですか。把握をしているのなら要件はそれだけです」

 

 隣にいた黒髪で長髪の観測者は、再び第四創造神の座っている椅子の後ろ側へと戻った。


 観測者の報告後、目の前に広げている半透明のモニターのようなモノを追加で二つ出した。

 一つの画面には銀髪交じりの白髪の少年クラディスが映り、他二つは若干ぼやけてしまい顔が鮮明には分からないようになっていたが、二つとも暗い空間にいるようだった。


「さて、彼らは私が決めずとも自らの力で未来を切り開くことができるのか。はたまた、黒き底を歩くことになるのか。今、私の創造世界は無数の分岐点の始点、小さな小さな岐路に立っている。あぁ、どちらに転べど興味深い――これだから……、こうであるからこそ、創造物は愛らしい」


 第二章:少年立志編──完

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