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128 テスト開始




「以前話した通り、仕上げじゃから今日は量が少なめで質が高めになっておる。一体一体に注意を向けて立ち回ってみせるんじゃぞ~」


「ふぅ…………。わかりました」


 すっかり落ち着いたティナ先生は普段通りに戻って場を仕切り、仕上げを始める前の確認をしてくれた。


 手持ちの武器は本数を増やして6つの短刀が腰の小物入れ(ポーチ)に入っている。収納袋の要領で手に召還ができるようになるまでには少し練習が必要だったが、慣れたら直に腰に下げるよりはるかに便利だった。


 服は普段通りの訓練着を着て、右腕には訓練でできた怪我を覆うために包帯を巻いている。

 再度深呼吸をして竹林の方に意識を向けると、ティナ先生の足音が響き、それが合図となり僕の訓練の仕上げが開始された。


 しばらくは魔物(モンスター)が出てくる様子はなく、お互いに様子見をするような時間が流れると、森の奥から一斉に僕目掛けて僕の握りこぶし程の大きさの石が投げられた。


 投石って、いつの戦い方だって話だ。

 飛んでくるモノを全て躱して、避けきれないものは小刀で切って体に当たらないようにした。しばらくその時間が続くとピタっと投石が落ち着いて、再び何もない時間が流れる。

 

「どう考えても一体や二体じゃないよな?」


 投石が横に幅広く展開しながらのモノだったので、複数の個体が連携を取りながら攻撃をしてきたのは少し考えれば分かることだった。

 気配や殺気を感じるところに目を向けながら小刀を手の平で器用に回しながら進んでいくと、視界に収まるギリギリの上の木の枝が不自然に軋んだのを感じた。


「っ!!」


 危険を感じてその場から飛びのくと、次の瞬間には僕がいた場所に大きな斧が深く刺さっているのが見え、背筋に冷たいのが走った。


 斧を手にしていたのは僕よりはるかに大きく、ゴリラというよりもオラウータンのような体躯をしている大きな一つ目の魔物(モンスター)。毛皮や肌は黒く、腕や脚の筋肉は黒い肌からでも分かるほどゴツゴツとしていた。

 コイツ、いつの間に僕の上を取っていたんだ。


(気配を消していた……?)


 だとしたら、投石はコイツが僕に気づかれないように意識を背けるためのモノか。


『ヴィィァァアアアアァッ!!!!』


 刺さらなかったのを悔やむように鳴き、斧を地面から引き抜いて地面に引きずるような持ち方でこちらに近づいてくる。

 投石があった森の奥から気配が消えているのを確認して、目の前のウッグにだけ集中するようにした。


 斧で地面に線を作りながら近づいてくるウッグの歩数に合わせて後ろに後退していくと、歩幅は向こうの方が大きいから自然と僕とウッグの距離は縮まっていった。

 大きな瞳に僕が映っているを確認し、分かりやすいように僕は右足、左足と交互に後ろに引いていく。

 その動きに合わせてウッグが大きな一歩を踏み出したタイミングで、引こうとしていた足を前に振り子のように出した。

 後退ばかりだと勝手に思い込んでいたのか、ウッグは反応に遅れ、重心が中途半端なまま武器を構えるが腰が入っていない状態だ。


「頭がいいと思っていたけど、こんな簡単なのに引っかかるのか」


 僕が懐に詰めるまで一秒もなかったが、ウッグ何とか力任せに斧を振り下ろした。


(早いには早いけど……当たらないな)


 落ちてくる斧を目で捉えながら体を捻って躱した。


「その太い腕、落とすぞ」


 僕から外れて地面に着いた斧を振り上げようとしていた腕を小刀で切り飛ばし、武装を解除させた。そのままスルっと、踏ん張るために大きく開いている股を抜けて背後に回って僕は高く飛んだ。

 弱点とか知らないけど、恐らくここらへんが構造的に……。


「弱点だろっ!」


 右手の小刀を逆手に持ち替え、僕の倍はある体のうなじ目掛けて深く抉るように差し込んだ。


『ヴァアアアアアッ!!!!??』


「うわっ……と」


 すさまじい声を上げて腕を振り回し始めたので、背中を蹴って遠目に着地をした。

 そこから首を両手で覆いながら地面をのたうち回ったウッグだったが、すぐに動きが落ち着き、大きな目を閉じた。


「死んだ……?」


 確認のために近くによってみるが、出血の量で生きてはいないだろうと思って近くに落ちていた血が付いている斧を拾い上げた。


 これを振り回していたのか……ふむ。


 少し軽く振り回してみるが、僕でも十分扱えそうなのを確認して筋力が付いてきたのを実感した。


 ……前は木刀すら持てなかったっていうのに、いまは本物の小刀を腕に負荷なく扱えているからその時点で成長しているのは何となく分かっていたけど、これだけの大きな武器を持てるっていうのは嬉しい。


「強くなってる……明らかに。でも、僕は今、どの程度にいるのだろうか」


 斧をブンっと空気を切り、音を鳴らすほどの速度で振ってみると体も斧に持っていかれはするが、扱えそうだ。

 これが使えるなら、小刀じゃなくてティナ先生が使っていた細い剣か刀でも良さそうだ。小回りが利くなら何でも扱えそうだけど、やっぱり二本持ちをずっとやってきているから両手に何か持っておきたい。

 テストが終わったらティナ先生とナグモさんに提案してみよう。


 斧の刃先を見つめていると、ズズズッとウッグの死体が森の奥に入っていくのが見えた。


「……え、へ? 動いた……?」


 よく見てみると、死体の足を何者かの手が握って、持って運んでいるように見えた。


(死体回収……ってことは先生か?)


 先生の方を見てみるが、こちらを見ているままだったから別の何かだと分かった。斧を地面に刺して小刀を手元に召還をすると、それは奥から一斉に姿を現した。


「……なるほど」


 姿を見せたのは五体のウッグ。それぞれ前の三体は大剣と大斧と素手で、奥にいる二体は袋に石を詰めて腰に携えている。

 仲間が倒されているのに激怒しているのか、息が荒く、目が充血している。


「こいつらが本隊だな」


 呼吸を整え、相手の出方を伺う前に攻撃を仕掛けていった。

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