126 その頃、アサルトリアでは
お久しぶりです!!
クラディスがハインストへと誘われて、直接ではないが断っている時、別のところではあることで大盛り上がりをしていた。
そこはデュアラル王国の中部と西部の中間ほどに構えてる大きな血盟アジト。表札のようなものに大きく『アサルトリア』と書かれている。
建物の外にも盛り上がっている声が漏れ出て、近隣に住民は苦笑いを浮かべていた。
「だーかーらー、話聞けよ飲んだくれさんよォ!」
「飲まねぇとやってられねぇだろ!? そんなことよりお前も飲めよムロォ!」
「少し前に飲んでやったろ……ったく酒臭ぇ。いつまでもそんな浮かれてると足元すくわれるぞ」
「もっと浮けば足元すくわれてもコケねぇってことか! ダッハハッハ!!」
その建物内、大きな酒場のような場所で血盟員の半数が昼間からお酒をラッパ飲みして、泥酔状態になっている。
約2週間前に行われた血盟報告会で順位がTOP5に入ったという報告を受けた血盟員と血盟主は大盛り上がりに大盛り上がりで、毎日のように酒を開け、血盟の経費がそこに使われた程だ。
既にマーシャルや血盟を担う上位冒険者達は徐々にクエストに行きだしたというのに、中位と下位の冒険者が酔い潰れているようだ。
ちなみに今潰れてるのは、血盟1酒癖が悪いエルシアだった。
胸元がはだけ、顔が真っ赤になってジョッキを振り回している。
「お~ぉ、やっとるなぁ。昼間から酒かぁ~」
「あ~! マーシャルさァァァん! そりゃ、もう! 楽しくやらせてもらってまス!」
「いーぞ、好きにやっとけ~」
「あっざーす!!」
二階からゆっくりと手すりに手をかけて階段から降りてきたマーシャル。血盟主の登場に血盟員たちはさらに盛り上がった。
「ガツンと言ってやってくれよ、エルシアがこんなんだったら他の血盟員に示しがつかねぇ」
「ハッハッハ、喜べる時に喜んどかないとな? 今から気張っていたらもたないぞ~、くそ真面目のムロくん」
「はぁ~……」
「なんでそんなイライラしてるんだ?」
「そーだぞー、どーしてたムロぉー」
ヨロヨロな状態で近づいてきたエルシアの頭に手刀打ちを食らわした。
「いったぁ~」
「おまえが闘技場に出たいって言ってたからだろうが、忘れてんじゃねぇよ」
「あれぇ……そんなこと言ってたっけ?」
「てめぇが、『金がねぇ金がねぇ』って言ってたから、闘技場に出て勝ちゃあ金が出るって話をしたら、意気揚々とのって来た。忘れてんじゃねぇ」
「……? あー、言ってた言ってた~!」
「今日がそれの締切だ、早く行かねぇと締め切られるぞ」
「うぇ、なら行かないと!」
「そんなフラフラなヤツが離れてる闘技場までどうやって行くつもりなんだ? 手は貸さねぇからな」
「私を甘く見るなァ? こう見えて意識はハッキリしておりますぞ」
「よく言うよ」
机に出された水を飲みながら、一緒に飲んでいた血盟員に大好きなお酒を渋々と移動させて、飲み足りない様子のエルシアはなんとか酔いを戻そうとし始めた。
それを見て上げていた腰を降ろすと、マーシャルが頭をペシペシと叩いた。
「……なんすか」
「苦労ものだねぇムロもレヴィも、あまり手を焼くようならエルシアとパーティを解体してもいいんだぞ?」
「何を今更。扱いには慣れたから解体なんかしなくていい」
「中位のエルシアと、上位のレヴィ、中位最上位……いや、上位に上がったばかりのお前。下位だったエルシアの経験を積ませるために組ませたが、そろそろ組み替えてもいいかもな」
「良いって。それに、俺らには拾ったガキとの約束があるからな。今解体されたら困る」
「へぇ~そうかいそうかい。そういうことなら無理強いはしないさ――で、だ、ムロ」
後ろに回っていたマーシャルが、両手のひらでムロの頬をぎゅっと押さえた。
「ムグッ!?」
「そのエルシアに言っていた小遣い稼ぎの話、もっと聞かせてくれよ」
◇◇◇
ムロのお小遣い稼ぎの話に食いついたマーシャルは、ムロから話を聞いてより一層興味を持ったらしく、大体の話を聞き終わった後には「面白そうだ、敵倒してお金もらえるなら私も参加するぞ!」と乗り気になった。
「乗り気なのは全然構わないが、参加費が割と高くてだな。負けた場合はそれなりに金欠になるが」
「そんなの構わん、勝ちゃあいいんだよ。な、エルシア?」
「そっのとーりであります! へへ」
「ほら、エルシアもこう言ってるぞ」
酔いがまったく冷めてないエルシアと肩を組み、左右に揺られながら大笑いする二人にムロは頭を抱えた。
「しかしムロよ、私が参加した場合はどうなるんだ? 名前とかが出るのか?」
「いーや、闘技場は基本匿名で参加出来る。だから胡散臭い人が毎回出てくる、俺は実名登録してるがな。顔とかも全部隠すような被り物をしてもいいみたいだ」
「ふん……そうか、なら尚更出ないとなっ」
エルシアとの肩組みを解いたマーシャルは机の上に立って、泥酔してる血盟員とそれを見つめてる者に聞こえるように、
「私とエルシアとムロは、闘技場に行くぞぉ!!! お前等も見にこーい!!」
と声高々に叫んだ。
その言葉を聞いた血盟員たちは「オオオオオォォォォッ!!!!」と声を上げ、拳を突き上げた。
「いや、だから……金どうすんの、連日の宴会でみんな金欠だろって」
「そんなもん、血盟の経費から落とす!」
「うっわ……聞いたかよお前ら、いいのか? 血盟主が私欲のために血盟の金使うってよ」
「そんなのいつもの事だから気にしねぇって」
「あぁ、いつも散々経費使ってくれるからなぁー」
「だらしがない血盟主だ、だけど――」
「「「そんな些細なこと気にしない!」」」
「よく言ってくれたクソガキどもぉ! さー飲め飲め――っ!!」
せーのと声を合した訳でもないのに息のあった言葉を言い、それに乗っかったマーシャルは酒飲みの集団の席に飛んで行き、お酒を飲みだした。
その様子を近くの壁にもたれかかりながら黙って見ていたレヴィが笑い、ムロの隣に来て座った。
「まぁ、マーシャルの息抜きにも付き合ってやるのが血盟員の仕事だろうな」
「お前まで言い出したらこの血盟はいよいよ終わるな」
「上の人らも言ってることだ、今更言っても仕方がないだろう。汗かいて頑張って、たまにある休日で全力で遊ぶことを体現したような人だからな。それの血盟員だ。同じような者が集まるだろう」
「お前は違うと信じてたが」
「クラディスのおかげで色々と考え方が変わってな」
「あのガキ……」
「なになに、クラちゃんの話~?」
「エルシア、酔いはさめたか?」
「だーいぶ、ちょっと気分がいいくらい」
「……まぁ、それくらいなら大丈夫か」
「ほろ酔いが一番最高であります!」
隣に座ってビシッと敬礼したエルシアを見て、再度頭に手刀打ちをクリーンヒットさせた。
「で、ムロはなんで闘技場に参加するんだ? 少し前にも参加していたと思うが」
「いやなに、闘技場の階級が上がってようやくアイツと戦えるんだ」
「アイツ?」
「あぁ、闘技場で無敗の記録を更新してるちっさい子どものことだ。レヴィも知ってるだろ? 727番のこと」
「あぁ! 知ってる。『転生者』って言われてる少女の事だな?」
「そいつが、この試合で見納めになるんだってよ。理由は知らねぇが、奴隷の階級が一つか二つ上がるらしい」
「奴隷か……専門外だから全く分からんな」
「公にされてない情報だけどな~。まぁ、そんな感じだ。1回戦ってみたかったから、今回のは金がなくなっても参加してみたかった」
そう言うと、酒を飲んでいたマーシャルと隣で寝かけていたエルシアの首根っこ捕まえて大きく揺らした。
「吐くっ……! 吐くっ!!」
「ムロォ! なんだ貴様コラァ!」
「今日が闘技場の締切だっつってんだろ!!」
叫び散らす二人を一喝し、背中を押しながら血盟拠点を出ていった。
これだけ見ても、ムロがこの血盟における重要な役割を果たしているのがよく分かる。普段こそそういった素振りは見せないが、陰で気苦労しているタイプだ。
それを頬杖をつきながら見送ったレヴィは、冬季休業中に行くダンジョンの準備をするためにギルドへと向かった。




