114 マーシャル
今日はケトスに呼ばれて昼から中央広場ではなく、ティータの血盟アジトに向かっていた。何かわかったという話をしてくれたけど、イブが言ってくれたあの情報で何が分かったのだろうか? それで本当に当たっていたとしたら名探偵ケトスだ。
朝ごはんを遅めに食べ、時間に余裕を持ってのんびりと会話しながら宿舎から東へと歩いて行っていた。
「イブとファザーがいたロベル王国ってどんなところなの? 街の風景とか」
「風景は少し違うかも、こっちの方が綺麗で色々としっかりしてるってイメージかな。治安もロベル王国の方が悪いし」
「治安が悪いの?」
「オラオラしてる人が多いんだ。だからクラディスと会った時に子犬みたいでびっくりしちゃった」
「子犬……子犬? ま、まぁ冒険者の人って全員オラオラしてるけどね。野犬って感じ」
「アハハ、言えてる」
ロベル王国は三国の中では二番目に大きな王国だ。
勉強した内容だと領土進行前にあった王国間の戦争でぺネロ王国に勝利して、属国扱いにした王国。
ぺネロの王様はそのまま続投で、国に仕える兵の一番上の元帥って人に、自分たちの王国のNo.2を置いたって話だ。
ちなみにデュアラル王国は三国の中でも大きい王国で、地理的にも協会と近く、東には王国領と魔王領に跨って広がっている大森林がある。そこには現在発見されてる2つの上位ダンジョンの一つがある。
そしてなにより北には魔王――破壊之王、東には魔王――再生之王、北東には魔王――不屈之王がいる。
他の二国より脅威にさらされている分、対抗するために一番国力を有する王国になっている。
「ケトスの血盟ってどんなところなのかなー」
「イブと行ったことなかったっけ、【ティータ】っていう血盟で、とっても強い血盟みたいだよ」
「てぃーた……【ティータ】……? なにか聞いたことある気がする」
「……あ。ケトスが僕達を呼んだ理由がなんとなくわかった気がした」
「ケトスが呼んだ理由?」
「うん、多分だけどね」
「その理由ってなにー? どんなのー?」
「違ってたら恥ずかしいから言わなーい」
「えっ、そんな分かってないと一緒だよ! だったら……。あ、ボクもわかった気がする……!」
「ははは、イブはなんだと思うの?」
「違ってたら恥ずかしいから言わなーい!」
「何それー」
「クラディスの真似をしてみた!」
笑いながら歩いて中央広場よりちょっと西寄りに構えているティータの血盟アジトに訪れた。入口の近くに呼び鈴みたいなのがあるのはケトスを呼びに来た時に知ってるから、鳴らして中の人が出てくるのを待っていた。
すると、中から普段の凛々しい寝ぐせが無いかわりに普段の私服よりぶかぶかな寝間着を来たケトスが顔を覗かせてくれた。
「あ、クラディスとイブ。おはよ。もう来たんだ」
「おはよ……って昼だけどね」
「ケトスさんおはよー」
「おはよおはよ、今日も元気だね」
「イブはいつも元気だし、僕も最近元気だよ」
「知ってる。まぁ、ちょっと待っててね」
ケトスが中に引っ込んで行って、連れて出てきたのはパジャマ姿のリリーさん。もうただの女の子だ。
金髪で褐色肌、赤目、耳が伸びているから普通の女の子ではないか。
僕とほとんど身長が変わらないのに、ケトスがいる血盟の血盟主をしてるってすごいよなぁ。
「リリーさーん起きてー、一昨日話した話」
「んぁ……あ……、あ。また会ったね、クラディス君」
「お久しぶりです。お忙しいのにすみません」
「いいんだ、気にしないでくれ……。連日の宴会でみんな二日酔いなだけだ……。私も、ちょっとはしゃいでしまってな」
顔色が少し悪くて心配をしていたけど、宴会っていうワードを聞いて心配するのをやめた。お酒飲んで辛そうにしてる人は自業自得だからな。居酒屋のバイトの接客は本当に嫌な思いでしかない。
「……そっちの少女がケトスの言っていた子かな?」
目をゴシゴシと擦りながら、イブの方をじーっと見つめた。それに対して頷くと、リリーさんも大きな欠伸をして話を始めてくれた。
「まず最初に、ケトスの説明が下手だったから改めて聞きたかったんだが、その“ファザー”って言うのは誰なんだ? 父さんのことなのか?」
「ファザーは……ファザーです」
それを聞いて、ケトスが後ろから「ほら、だから言ったでしょ」と言わんばかりにニヤニヤしている。それに気づいたのか鳩尾に肘打ちを食らわしてケトスを一発でダウンさせた。
それを他の血盟員の人が回収していったのを見てニヤけてしまった。ケトスに上下関係は無縁のモノだと思っていたが、血盟の中だったら結構先輩冒険者に可愛がられてるみたいだ。
「……で、そのファザーっていうのが暗黒森の番人なんだな? えーとだな。もしかして、真っ黒なハットを被ってた? こんな感じの。あとは耳が長くて、肌が黒くて……」
ケトスの事なんて無かったかのようにジェスチャーを混じえながら話をするリリーさんの姿を見て、イブは何度も頷いた。
「あー、分かった。君は偉いとこの嬢ちゃんだったんだな」
「偉いって……イブは貴族なんですか?」
「んゃ、違う……けど、まぁ、凄いトコのには違いないな。むしろ、そこらの貴族よりはやばいかな」
「……あなたは、ファザーのこと知ってるんですか……?」
「知ってはいるが、どうやって連絡取るかなぁ。あの爺さんと仲良い血盟主いたっけか……? 【フーシェン】……は私が嫌だな。んあー……」
「やっぱりイブって血盟員だったんだ」
「クラディスの思ってたの当たった?」
「当たってた」
「ちなみに、その爺さんはクラディス君と縁がある【アサルトリア】と私のとこの血盟より強いとこの血盟主だからな。」
「ムロさん達の所より、ですか!?」
血盟主っていうのは間違ってなかったみたいだけど、ムロさん達がいる血盟より強いって一体どんな人なんだろう。今の所ムロさん達より強いって話を聞いたのは、ナグモさん、リリーさん……そして、そのファザーって人か。
血盟アジト前で三人して考え込んでいると、なにか思い出したようにリリーさんは僕達に「待ってて」といって中に入って行った。
「……イブ、良かったね。ファザー見つかるって」
「……うん」
「イブ……?」
「あっ、うん、ほんと良かったよ~」
「? 嬉しくないの?」
「……そういうわけじゃないんだけど。なんていうんだろう。んんああ……」
「……?」
あまりパッとしない様子のイブに、僕は小首をかしげた。
「――んだよリリー。まだ眠てぇのに……」
「ここは私の血盟アジトだ。言うことを聞け」
「酒奢ったろうが!」
「それとこれとは別だろうが! それにこっちは場所を提供した。お前ンとこの血盟が掃除ができてないからって理由でな!! 少し話があるんだ。付き合え、マーシャル」
イブと話をして待ってると、リリーさんが完全に寝起きのような赤髪の人を連れてきた。
(えっ……いま、マーシャルって……)
奥からこちらに向かってくるその人の名前を聞いて、僕の体は硬直をした。
(マーシャルって……【アサルトリア】の……。ムロさん達の血盟のリーダー……!)




