112 ファザー探し
早起きをして朝ごはんを作っていると、イブがソファからのそのそと起きてきて椅子にちょこんと座った。すっかりこの部屋にも慣れたみたいだ。
服とかも僕の服が着れるみたいで、エルシアさんが買ってくれた服を着てもらっている。服の中でもフード付きの服が好きみたいで、日光に当たるのがあまり好きじゃないらしい。
料理を出したらゆっくり食べだしたので、僕もパンをかじりながら横に置いていたお金をジィっと見て考えていた。
「かお、こわい」
「え、あぁ……ごめん」
「どーしたの……?」
「ちょっと待ってね」
「ちょっとまつ……」
言葉がフワフワしているイブを置いておいて、今日までの稼ぎを頭の中でまとめていった。
大半がイブのおかげで稼げたお金だというのに、イブは自由に使ってくれていいと言ってくれた。けど、そのイブはファザーを探しているというのにほぼ毎日僕に付き合ってくれている状況だ。
(……人探しが腰を据えてできていないのではないか?)
イブは全くそういうのを表に出さずについてきてくれているけど元々迷子だし、本来はここではなくファザーって人の所にいるべきだよな。
机の上に置いたこのお金は、ほとんどイブのおかげだというのを忘れてはダメだ…………よし、決めた。
「イブ、ご飯食べたら外に出かける準備してね!」
「うぇ?」
「ファザーを探しに行こう」
僕の言葉を聞くと眠そうだった表情から変わり、パクパクと口にモノを運んですぐに着替えて準備をしてくれた。
それに合わせて僕も服を着替えて、朝早くから街へと人探しに向かった。
◇◇◇
「その人の特徴とかない?」
「耳がとがってる!」
「なるほど……他には」
「肌が黒かったかなー」
「肌が黒いっと……暗黒森の番人かな」
肌が黒く、耳がとがっているのは十中八九暗黒森の番人の人だ。
街を歩きながらファザーの話をしていっていたが、それ以上は分からないみたいだった。名前を聞いても「ファザー」という呼称しか知らず、本名は知らないらしい。
つまり、暗黒森の番人っていう情報を元に人探しをしないといけない。
場所に移動する前にケトスの血盟に寄って、同じ血盟の人に「今日はクエストお休みと伝えておいてください」と言伝てを頼んでおいた。
その後にイブが言ってくれた「ファザーとハグれた場所」に向かうために、僕たちがいる西側から中央へと出ている路面電車みたいなのを使った。車が行き交っていないから、この国の人たちはこれを使って移動をしているみたい。
向かった先はデュアラル王国の中央広場。
とても開けてる空間で、大きな映像を映せるようなモニターのようなのがその広場に構えられていた。中心には大きな噴水があって、煉瓦の道が街の雰囲気を壊さないような役割を果たしている。
所々車が通れそうな道が整備されていることから、少しなら車が出入りできるようになっているようだ。
そこは冒険者ギルドも近くにあるようで、広場には多くの冒険者がいた。
「中央広場……ここは初めて来たなぁ」
とても広い空間を見回し、モニターに映って話している人を見てどことなくスクランブル交差点の大型ビジョンを思い出す。思い出すと言っても直接見たことないし映像で見たことがある程度だけど、まさにあんな感じだ。
「あの、道を走る鉄の箱もすごかった」
「もしかして、イブってここから宿舎までの距離を歩いたの?」
「うん。途中で迷子になったって言うのは気づいてたんだけど、戻るのにもどの道から来たのか分からなくて」
「結構同じような街づくりだからね」
僕がお邪魔している冒険者ギルド……西部のギルドがこの国の本部の冒険者ギルドって言っていたけど、ここの広場に面している冒険者ギルドも中々規模が大きい。むしろこの広場があるから待ち合わせとか打ってつけなのでは? 西部の門から出ないといけないクエスト以外はここで発行してもよさそうだ。
(あ、デュアラル王国って最東部の王国だから、他の王国から来た冒険者が訪れることもあって西部ギルドが本部なのか?)
そう考えると、それのような気がしてきた。
「あ、じゃあ、あそこの冒険者ギルドでハグれたってこと?」
「うん。あそこ周りで待っててって言われたんだけど、中々帰ってこなかったから辺りをうろうろしてたら分からなくなっちゃって」
冒険者ギルドの中を覗いてみても、そんなに都合よく暗黒森の番人の人はいなかった。
来たことない場所で人探し。見つかる可能性は低いと思うけど、方法としてはこれしかないよな……?
「よし、とりあえず聞き込みをして回ろうか」
「うん!」
「昼になったら、中央の噴水に一回集合ね」
イブも僕も土地勘がないからとりあえず、集合場所を決めて聞き込みするように散った。
僕はギルドの中の人や広場に暗黒森の番人の人がいたら声をかけて行った。自分から冒険者に声をかけるのは、まだちょっと怖いけどそんな構ってる暇はない。
勇気をふりしぼりながら一人一人に声を聞いて回った。




