111 プレゼント
「そんな喋るの下手だったか? 勉強してるんじゃねぇの? 不自由になってるぞ」
「だって……え? なんで……」
「別れる時に言ってなかったか? 冒険者だから、ここに通うから会うから会うーとか」
「言ってた、けど……」
「クラちゃーん!! 久しぶりー!! って、わぁ、軽い!!! ご飯食べてるの!?」
「うわぁっ!!」
狼狽えてる僕の体をひょいっと持ち上げ、ぶんぶんと左右に上下に振り回した。
視界の変化に体調が悪く……なるよりも先に、行き先を迷っていたこみあげてきた感情がようやく口から出てきた。
「エルシアさん、お久しぶりです……!」
「おおおぉ! びっくりした!! 元気にやってるー!?」
「元気にやってます! みなさんのおかげです!」
「ならよし!! 何も言うことはない!!」
振り回され、抱きかかえられ、逆さに持たれたりしていたら周りの冒険者の視線が集まってきた。だけど、今はそんなことどうでもいい。
今は、そんなの気にしているのは勿体ないほど珍しく感情が表に出てきている。
「エルシア! こっちに寄越せ! パスパス!!」
「いやよ!! 久しぶりのクラちゃんだもの! ぜっっったいイヤ!!!」
「はぁ!!?」
「ムロは良いでしょ! それに、まだクラちゃんエネルギーを貯えているところよ!!」
「何言ってんのか分かんねぇ! いいから寄越せ!」
「んべー!!」
「その短い舌引っこ抜くぞ!」
「……二人ともはしゃぐのは分かるが、場所を考えてくれ」
「うるせぇ! この前会った奴は黙ってろ!!」
「なっ……!」
「よしよし! クラちゃんが立派にやってるって話はちゃんと聞いてたからねー!」
「ホントですか!?」
「もちろんよ!」
「やったーー!!!!」
今まで出したことのない感情と声が出た気がする。齢12歳の少年が本当にうれしいときに出す年相応のモノではあるが、僕のことを知っている人からすれば動揺は必至だろう。
そして、僕の世間体気にしない無敵タイムは突然の終わりを告げた。
再度、エルシアさんに体を高く持ち上げられると、列に並んでいる冒険者や食事処に座っている客の視線を改めて感じた。カァァァッと恥ずかしさを感じ、手足をバタバタさせるとレヴィさんが察してくれてエルシアさんに降ろすように言ってくれた。
体が地面に着く間にケトスとイブの方を見ると、手を口に当てニヤニヤしているのが目に入って来た。
……この時の僕の顔はムロさん達と会えた嬉しさと、視線の恥ずかしさで何とも言えない顔になっていたと思う。
「いやぁ~、クラディスも年相応のことができるんだね。僕は安心しました」
「うんうん。普段真面目なのにあんなにうれしそうな顔をするってね~、いいねー若いねー」
「ケトス……、イブ……」
「ほんと、いい笑顔だったよ?」
「そ、そんなんじゃないから!!」
親指を立ててグッドをしている二人に顔を見られないように手で顔を覆うとするが、余りが効果が感じられない。
嬉しすぎてついつい甘えるようなことをしてしまった……。この前の丸さんの時のような感じだ。普段の色々な感情を堪えているから、一旦はじけると爆発してしまう。
あぁ、周りの視線が痛い。食事処は酒が入った客しかいないからまだ大丈夫だけど、受付の列に並んでいる冒険者からの好奇な視線が本当にクるモノがある。
「ううぅ……」
肩を落としている僕の頭をポンポンとして、隣にエルシアさんが立った。
僕はすごく恥ずかしいと思っていたが、エルシアさんは周りの視線なんてもろともしていないようだった。
「そっちの2人はクラちゃんのお友達?」
「……ん、あ、どこかで見たかと思ったらケトスか」
「どーも、お久しぶりです」
「そっちは……うぉ、白金等級の嬢ちゃんか」
「あ、紹介します! 僕の友人のケトスとイブです。二人とも先輩で、一緒にクエストやってます」
恥ずかしさがまだ残っているから二人の方は向けないけど、両手を使って指して何とか紹介をした。
すると、僕の頭の上に手を置いたままのエルシアさんが「んん」と悩むような声を出して、ケトスを見つめている。
「……あ! ケトスってリリーさんの所のいつも寝間着の子?」
「俺も最初は格好と眼鏡かけてるから分からなかった」
「あぁ、あの少年か」
「3人はケトスのこと知ってるんですか?」
「血盟主同士が仲がいいから宴の席をよく設けてるんだ。その時に偶に会うことがある程度だな」
「それにしても、ティータのケトスと白金等級の嬢ちゃんか……こりゃまた面白いのとパーティを組んでるんだな」
ケトスが有名人だったのに少し驚いたが、以前丸さんやペルシェトさんに怒られた時に「同業者の中でも有名な人」って言ってたのを思い出した。
イブのことは知らないのかな。同年代で白金等級の冒険者ってかなり話題になりそうなモノだけど、活動拠点の王国が違うからそこまで情報は来てないのか。
「あ、そうそう聞いたぞ。クラディス。ランクアップしたらしいな」
「もう下位四階だもんなー」
「それだけ頑張ってるってことだもんね!」
「そうだな、そんな頑張ってるクラディスに私達3人からの贈り物だ」
「贈り物……?」
僕の方から手先までの長さ程の梱包された箱を渡され、紙を破かないようにと開けていくと、白い箱が顔を出した。一瞬白い箱とにらめっこをして、レヴィさんに「開けていいですか?」という視線を送ると、頷いてくれたのでゆっくりと箱を開けた。
箱の中にはベルトにひっかけれそうな四角い小物入れのようなモノと、普段使っている小刀より少しサイズが大きい刀が入っていた。
その刀……柄は漆黒で刃と柄を分ける鍔がなく、ほのかに銀色が混じっているような白い刃が伸びている。それを収める鞘には白い毛皮のようなモノが上部に付いていて、それより下は柄と同じ色をしている。
「これって……」
「ホワイトボグの短刀だ。鍛冶師に出してたのがこの前完成した」
「それと、その小物入れは小刀サイズの武器なら収納ができるやつ!」
「いいんですか? こんな、もらっちゃって……だって、え、なんで……?」
「ヒソト草の時の話、覚えてないのか?」
ヒソト草……って、まだ僕が冒険者じゃなかった時、僕がまだムロさん達と一緒に動いていた時の話か。
ほんの少し前の事なのに、あの時は衝撃が強いことばかりあったから、それらが強くてパッと出てこない。
なんだ? エリルと競争して、エリルに負けて、エルシアさんのご飯を食べてとても辛かった……? 刻印魔法の袋を初めて見たのもあの時だった――
――冒険者のランク昇格は祝わないとな。クラディス君も冒険者になって、昇格したときには何かプレゼントしよう。
――ほんとですか!
――あぁ、楽しみにしておいてくれ。
「あ。あの時の約束……?」
「そうだ。クラディスが頑張ってるのだから、私たちも約束はしっかり果たさなければと思ってな」
「うんうん! それにホワイトボグは、実質初めてのクエストの魔物だし、うってつけだなって」
「でも、僕、まだ全然強くなれてないですし……」
「あー? ランクアップ祝いだって言ってんだろ。素直に受け取った方が可愛げがあるぞー」
「僕は……もらってばかりで」
「細けぇこと気にしてたら身長のびねぇぞ?? 良いっていってんだ。ほら」
「わっ……!」
「ウダウダいうより、ありがとうの一つでも言いやがれ」
机の上のホワイトボグの短刀とポーチを投げたので、何度か手の上で跳ねたが、何とかキャッチすることができた。ズシリと僕に重さを感じさせてくる短刀と小物入れに目線を落とすと、感情がまた溢れそうになってきた。
(……本当に、僕は貰ってばかりだ)
親のような温かさで、将来への進路を教えてくれて、素直に感情を出せる存在で会ってくれる。
そして、こうして祝ってくれる。
「ありがとう……ございます」
「ハハッ、どーいたしまして」
「あ、ムロ! クラちゃんを泣かせたー!」
「こいつが泣き虫なのがわりぃ」
「クラちゃん? 大丈夫―?」
「はいっ……大丈夫です」
「よかった! じゃあ、改めてランクアップおめでとうね」
頭を撫でられながら褒められた言葉で、僕の涙腺は壊された。
僕の努力は……無駄じゃなかったんだと感じる。
「下位四階で褒め過ぎだろ~」
「ムロがプレゼントを提案したはずだが……?」
「おい! レヴィてめぇ!!」
「素直になった方がいいのはムロじゃないのぉー?」
「あーうるせぇうるせぇ。やることやったから俺はもう帰るぞ」
「えぇぇ!!? ヤダっ!! もっと話したいぃっ!!」
「ばか、あと一月待って、そん時にあって話した方がいいに決まってんだろ」
「……そうだけどぉ」
「オラ行くぞ、レヴィも」
「分かった。じゃあなクラディス」
「は……はい」
嵐のように去っていった三人。
僕はまだ涙が止まらずに短刀に涙を落としていると、ケトスとイブは呆れながらもこの状況を面白く思ったようなため息をつき、僕の頭に手を乗せた。




