110 ぅ、ぁ、え?
「はぁはぁ……、ケトスっ! そいつで最後だから!」
今日受けていたのは、駆けだし冒険者には捉えられない速度で動く一角兎という白兎を規定数討伐するというクエスト。脅威度としてはホブゴブリンと並ぶかそれ以下程だから早く終わって家でゆっくり寝れると思っていた。
だけど想像以上に時間がかかってしまい、もう日付が変わってしまっている。
「よーし! って逃げたぁっ!!」
「えっ、じゃあ他のを探しに――」
「待てコラー!」
「ケトス!?」
「待て待てー!!」
「イブまで……!?」
そこから数分の追いかけっこを経て、最後は一角兎に向けた3人の魔法の内、イブの魔法がギリギリ当たり、やっとの思いで倒せれたので本日のクエストを終えることができた。
そこから王国まで帰るのに一時間はかかる。一角兎と追いかけっこのせいで永遠走っていたから、この前のオークとフォレストウルフの討伐時より疲れてしまった。
それでも何とか王国に帰り、明後日のクエストの事を話しながら夜の街を歩いて、ギルドへと報告をしに向かっていた。
――イブが僕の家に転がり込んでけっこうな時間が経った。
すっかりケトスとも馴染み、僕とも気軽に冗談を言い合えるようにまでなった。似た者同士だから馬が合うのだろう。
月末の闘技場へ向けての金銭面は予定していた金額を超えた。イブから家賃というていで貰っているお金を含めると、既に冒険者になってからイブと会う前までで稼いだお金を優に超えてしまった。収納袋の力恐るべしだ。
それ関連で、討伐個体を持っていくと買い取り額が高くなるのには二つの理由があるという話を聞いた。一つは単純に魔物からとれる素材とかが売れるからって理由。そして、地上にいる魔物の中には魔石というのが入っていることがあって、それの汎用性が物凄く高いらしい。
僕は直接見たことはないけど魔素の固まったモノと認識している。それがあった時は買い取り額が跳ね上がるみたいだからどんどん狙っていきたい。ダンジョン内の魔物は魔石を必ず落とすらしいから、ダンジョンに楽に潜れるレベルになったら金策とかは考えなくてもよさそう。
あ、でも素材が届けれないからその分少し下がるのか……。難しい所だ。
夜風に疲れた体を冷やされながらも、僕たちはギルドへ入り受付へと並んだ。
「クエスト終わりましたー」
「終わりましたー」
「これ、個体が入ってる袋です」
「お疲れ様です、個体の査定をするのでしばらくお待ちください」
「はーい」
三人で受付をして、ギルドのスタッフさんが査定をしてくれている間は適当な場所に座ってのんびりと待ち時間を過ごすのがお決まりとなっている。ケトスは夜型だからまだまだ元気そうだけど、イブはなんとも眠たそうな表情だ。
「ケトス、あれはおとなしく他のに変えるべきだったと思うよ」
「えー、だって他の一角兎の魔素は遠かったもん。だったらあれ狙った方が絶対いいよ」
「そんな小回りが利かない大きな斧で、逃げ出したのを追いかけるのはさすがに無謀だと思うけど……」
「間合いに入っても力任せに振れば解決する! だから斧は魔物がよく使うんだよ」
「そうだけど……、いや、でもあんなに小さい一角兎に対してその斧って……。あ、イブはどう思
う?」
「斧は……力任せに振るのもいいけど、突いたり、ガードにつかったり、投げたりもできる。けど……結局……弱い」
「寝ぼけてる?」
「寝かけてるね」
「眠たいです……」
ウツラウツラとして体が揺れて、傾き過ぎたらぴんっと背筋を張ってる。睡魔に負けそうな人が必死に戦ってる姿だ。
「イブ、疲れた? 大丈夫?」
「……んゃ、疲れたとかじゃなくて……単純に眠い……。体力は全然……まだ走れる」
「もう深夜1時だからねー、眠たくなるのは仕方ないよ」
「予定より長引いたからか。最初から3人で魔法使ってたらよかったね」
「クラディスが『帰りに魔物に襲われた時のために、魔法を使うのは控えよう』って言ったせいだ
よ」
「えー、僕のせい?」
「……一角兎の足が速いのが悪い」
「ほら」
「確かに。そういわれるとそうだ」
夜になると会話もなんだかよく分からないノリになっているが、なんだか楽しいからこれはこれでいい。
深夜1時といってもギルドは最後の盛り上がりを見せている。
2時に受付が閉まってしまうから、それまでに受付を終えておかないと明日に報告が持ち越しになってしまう。『当日中』『三日以内』など、日数が決められているクエストはこれを逃してしまうとクエスト失敗となってしまう。
僕らはその日受けたクエストは、その日のうちに報告をしに行っているからその点は大丈夫だ。
僕が二日おきにしかクエストができないから、次に全員揃うまでに期日が過ぎていたらいけないという……言ってしまえば僕のわがままに付き合ってもらっている状態だ。
こういう深夜に報告をする日は大急ぎでギルドに入ってくる冒険者の顔色を見るのが長い時間の暇を潰す一つの手段となっている。
「――お、あれクラディスじゃね??」
大体この時間から入ってきても受け付けは長蛇の列だから、今入って来たあの人は間に合わないかもなぁ。
「――え、どこどこ??」
受付を全部解放して対応しているけど、なんとなく1時45分くらいからがデッドラインな気がする。
「――ほら、あそこに座ってる3人の一番向こう側」
あの人はまだ30分だから間に合うか。いや、微妙な気がする、今日はいつもより列がすごいから――
「やっぱりクラディスだ」
「あいっ!??」
「はははは、おーい、クラディスだクラディス」
「待って! あと少しで受付終わるから!!」
「お、本当だった。クラディス、この前ぶりだな」
「え……あ……えっ?」
僕に声をかけてきたのは大柄な濃い茶髪の男性と、黒いローブに身を包んでいる黒髪の長髪の優しい顔の男性。それとその二人と会話しながら、受付をしているのは快活な様子を見せる軽装の装備の上に上着を羽織り、ショートな茶髪が少しぼさぼさになっている女性。
僕はこの人達を、よく、知っている。
「ムロさん……レヴィさん……」
「よっ」
「久しいな」
待ちわびていた再開ではあったのだが、なにぶん心の準備をしていなかったから出てきてくれるハズの声が詰まった。
「ぅ……ぁ、なん、ぇ?」




