105 苦戦! 上位個体
複雑な地形を流れるように移動し、動きを捉えるのが難しいフォレストウルフ。
体が硬く、当たったら間違いなく致命傷になる一撃を毎回繰り出してくるオーク。
一撃で森が揺れ、移動するだけで木々がなぎ倒される。
「これが、上位個体か……!!」
遅れを取らない様に僕は『魔素感知』を走らせ、少しの魔素の高ぶりすら見逃さず戦っていた。
「――クラディス! そこ危ない!」
「分かってる!」
吠える。それはもう一種の咆哮染みた声で。耳を覆わなければ鼓膜が破かれるのではないか、とそう思わせるほどの声量で。
それが二体から飛ばされ、その度に僕は足が竦みそうになる。
そこに跳んでくる鉤爪や突進、噛み付きなどの物理攻撃。そして、風属性魔法。
「魔法くるよ!」
「うん――『土壁』!!」
「ちょっ、それ、壊される!」
イブの声が聞こえたと同時、目の前に立てた土の壁が真っ二つに割れた。
「イッ――!?」
何とか身をかがめ、そのまま横へ木々を抜けるように走り出した。
次々に場所を変える僕へと不可視な風の刃が飛んでくるのを必死に避けながら、こちらも魔法で応戦。
しかし、微動だにしない。まるで何かしらの耐性があるような耐久力だ。
「じゃあ、これで……!! 『風大槌――」
「そこ、邪魔ぁぁあ!!」
「ケトスっ――うわっ!!」
上から落ちてきたケトスに押しつぶされ、魔法が不発に終わってしまった。
「もー、クラディスー!! 危ないよー」
「えっ!? だって、さっきまでオークと戦ってたんじゃ」
「飛ばされてきたの!!」
「じゃあ知らないよ!!」
はやくケトスを退かそうとしたらピリッと魔素の高まりを感じた。
――あ、これ、攻撃が来る。
すぐさま、ケトスの手を握って走り出した。その後を追うように聞こえてくる地面を抉る音は風魔法攻撃だ。
「ひぃーっ!! 当たる当たるッ!!」
「あはははー!! 戦ってるって感じする~!!」
「なんでそんなに楽しそうなの!? そういえば、イブはどこに」
「え? 一緒に戦ってたんじゃないの?」
「どっかの誰かさんが降ってきたから見失ったんだよ!!」
「――あ、ボク? ボクの心配はいらないよ~、気にしないで」
声が聞こえた方角を見ると、木上でオークの攻撃を躱しながら応戦しているイブの姿があった。
オークの攻撃の度にイブが着地した木の枝が折られ、そしてイブが新たに場所を変えている。
「心配いらないって……」
ケトスがここまで飛ばされたから、イブが臨機応変にオークのターゲットを取ってくれているのだろう。だけど、魔導士が一方的に狙われている状況というのはあまりよろしくない。
「ケトス! オークの気を引いて!」
「おーけー。オラオラ、オーク君こっちだよ――ッ!」
『ヴォォォォォッ!!?』
ダッと駆けてオークの顔面に蹴りこんでいったケトスはそのまま森の奥へ。
魔導士とは言ったが一応ケトスも魔導士だったな、と考えたところで自分の考えを否定するように首を横に振った。
ケトスなら一人で何でもできそうだから任せておこう! 今集中するべきは――
「イブ! 今のうちにこっちに!!」
木の上にいるイブにこちらへ来るように促して、両手を前に出す。
僕の言葉を聞いてジャンプした体を全身で受け止め、お姫様抱っこをした。
「大丈夫? 重くない?」
「全然大丈夫だから、魔法に集中して……!」
「わぁ、ボクお姫様だっこされたの初めてなんだよねー、お姫様の気分だ」
「なんでそんなにっ、楽しそうなの!」
「あはは、楽しいもん~!」
両手で抱えられているイブがきゃっきゃと笑う。まったくもって信じられない。
そうこうして減速した僕らの背中にフォレストウルフの風魔法が落ちて、僕は思わず飛び跳ねた。そして、岩の上に着地をしてクルリと反転。
「そんなこと良いから! 後ろからのフォレストウルフ何とかして!!」
「任せされた! 『多重水壁』」
『ギャウンッ!!!?』
視認できる限り、30つほどの水壁が一気に地面から噴き出した。
(あれ、魔素は……?)
展開する際にイブから魔素が見えなかったことを不思議に思ったが、水壁の向こう側で頓挫しているフォレストウルフの姿を見て、緊張が和らいだか、へなへなと腰を下ろした。
「足止め、成功……」
「あははー、たのしー」
「スタミナお化けかって……」
戦闘が始まってしばらく経つが、未だに魔物達はピンピンしていた。
あの戦闘狂のケトスと、森を二分割するような水壁を詠唱破棄できるイブがいるというのに……本当はもっと早く片付いていてもおかしくないはずだった。
やっぱり、薄々気が付いてたけど、三人全員がパーティー単位の動きに慣れてないんだな。
お互いの攻撃時に射線が被ることが多く、広域な魔法や重撃ができていない。
それに上位個体も僕たちが何も考えずに魔法を撃っていると、同士討ちするような位置取りをしてきている。
おそらく、賢いのはフォレストウルフだろう。オークの立ち位置を常に把握し、オークと離れたら常にそちらへ僕達を追い込むように動かしている。
狼は常に群れで動く。しかし、アイツは一体だけで現れた。普段の群れ単位の動きを愚直で獲物を追いかけるオークで代替をしているという感じか。
「……上位個体、敵ながら学ぶことが多いな」
「クラディスは面白いこと言うね~。見学しとく?」
「絶対いや」
僕がイブを降ろして話す余裕を見せていると、ケトスがまた飛ばされてきた。
「ハハハ……!!」
ザッと体勢をすぐに立て直すケトスの頭部へオークが大斧を振り下ろす。普段のケトスなら、避けてカウンターを狙う場面だ。
(だけど、笑ってる……ってことは、もしかして)
僕の予想が的中し、ゴブリンキングから奪った大剣を振り上げた。
――ガキンッ。
金属と金属がぶつかり、大きな金属音が響くとオークの斧が大壊をした。
斧の破片がパラパラと散らばり、こちらにまで降り注いできたのをイブが水魔法で包んでくれた。
そうしていると、武器が無くなったオークが苦し紛れに拳を握ってケトスに向かって振り被った。
――ガキンッ。
今度はケトスの剣が同じように壊され、続けざまに振られた反対の拳でケトスの体が宙を舞う。
「あー、あの剣気に入ってたのになぁ」
だが、何事もなかったように危なげなく着地をし、握っていた柄をポイっと捨てた。
「ケトス、一応聞くけど、大丈夫?」
「うん? あぁ、大丈夫大丈夫。むしろ楽しくなってきたよ」
「あっ、そう……頑張ってね」
僕の言葉を聞くと、ケトスがこちらを待たずにオークへと走って行った。




