104 登場! 上位個体
体感的にかなり奥に入ってきたと思うけど、未だ僕らは上位個体に出会えていない。
そこでこの森でよく散歩をしているケトスに聞いたところ「大体歩いた感じだと今は森の半分くらい、上位個体や群れの長クラスはもう少しで出てくるよ」らしい。
もう少しとはどれくらいなのか。そして、群れの長とはなんぞや。
僕が思っているよりこの森は危険らしい。なんで王国からこんなに近いのに広大かつ危険なのだろうか。
「――それはこの森に中位迷宮があるからだよ」
「あー……えーと……?」
なんで僕が考えていたことが分かるんだ?
「……もしかして声に出てた?」
「顔に書いてた」
「顔に……?」
そんなわけ無いだろう。
まぁ……中位迷宮。つまりはダンジョンがこの森にあるということだ。
(ギルドで学んだ気がするけど、今のところ用事はないと思ったから忘れてたか)
ダンジョン周りには強い個体がいるらしいから、それかな。
オークは通常個体の時点でホブゴブリンと同程度だ。それがゴロゴロといるのが普通とか、とんでもない世界だ。森に殺人鬼がウロついているから、とか。通学路に変質者が出ているから保護者同伴で、とか。そんなレベルじゃないだろう。
そんなオークの上位個体となるとゴブリンキングと同程度かそれ以下くらいになるだろうし……。
「……あ~怖い怖い」
「なに、クラディス。ビビってるの?」
「そりゃそうさ。僕は一般人だぞ、怖いしか勝たないよ。まぁ、でも……上位個体は見ておきたいかな、今後のために」
「腰抜かすかもね。大きいから、アイツら」
「特にオークとかは顕著にデカくなるから」
二人に言われた言葉をもやもやと想像させながら後ろを付いて行った。
どれくらい大きいのだろうか、喋ったりするのだろうか。そういえば、ゴブリンとホブゴブリンには結構な体格の差があったよな――……
『ヴォアアアアアアアア!!!!!!!!!』
「!??」
静かだった森が瞬時にピリピリと振動する。
木がざわめき、ケトスが放った稲妻のような衝撃音だった。
「なんっ……だ、これ!?」
最初は何の音か分からなかった。だが、それが魔物が放つ咆哮であると気が付くのに時間はそうかからなかった。
両手で耳を塞ぎながら体勢を低くしていると、二人は辺りをキョロキョロと見回す。
――ピリッ。
すると膨大な魔素が『魔素感知』の範囲内に入ってきたのを感じた。
「これ、この、魔素……って」
さっきまでのオークの比じゃない。それの何倍も大きく、凶悪な……!
大きすぎて魔素を発するオーラのようなものが『魔素感知』ではとらえきれていない。
「お~、ようやくお出ましだね」
「低くてお腹使って出してる声だからオークの方かな?」
「フォレストウルフはもっと犬って感じの声を出すもんね」
「そうそう」
悠長に二人が会話をしている間にも、メキッ、ミシッっと木々を押し倒しながらこちらに近づいてくるのを感じる。オークの上位個体が来るであろう方向を見て、小刀に手を当てていると……。
――ピリッ。
別方向から同程度の別の魔素の魔物が高速でこちらに近づいてきた。
「別のっ――」
『オオォォォォォォン!!!!!』
『ヴォアアアアアアアア!!!』
共鳴するような二体の声が耳を刺激する。
オークの声は自分らの縄張りを誇示するような声。フォレストウルフはこちらを警戒しているようなモノが混じっている気がした。
そして僕が屈んでいるとその二体は現れた。
「おおぉ、二体とも出てきた」
「探す手間が省けて良かった」
二人の声が聞こえ、森の奥から出てきた二体の魔物を見上げて……口が閉じなくなった。
「……ぁ、おお、きい」
目の前のオークの上位個体から、通常個体よりも何倍も濃密な魔素を感じる。
手に持っているのはケトスが持っている剣の二倍くらい大きい斧で、それを振るう腕なんか僕の腕の五倍とかはありそうだ。
フォレストウルフの上位個体は以前より感知範囲が広くなった『魔素感知』の距離一気に詰めてきたことを考えると、ケトスと同程度の足の速さであるかそれ以上であると推測出来る。
こちらを敵と認識し、ボトボトとヨダレを垂らす二体の魔物。
僕達を交互に見るその目はこちらの様子を伺っているように思える。
大きく、気配が違う。強そう。圧倒的な強者感。
「これが、上位個体……」
「ねっ、デカイでしょ。上位個体って」
屈んだままの僕の肩を二人はポンと叩いた。
「さぁ、頑張ろう。クラディス」
「うっ? あ、うん」
二体の実力を調べるために『鑑定』を走らせた結果。
――個体名:進化個体・オーク
――個体名:上位個体・フォレストウルフ
「進化個体……って――」
思わず口にしてしまい咄嗟に口を塞いで二人のほうをチラ見すると、気が付いていない様子。
それにしても最初から進化個体かよ、とオークに警戒するような目を向けていると、ケトスがその前にスッと入ってきた。
「じゃあ、僕はオークを相手にするよ。二人は狼の方をよろしくね」
と言う姿は、まるで僕が怖がっている相手を分かっている様子。
ニコリと笑って駆け出したケトスの後をイブが目で追ってこちらに手を差し出してきた。
「じゃあ、ボクたちはウルフ退治を頑張ろうか」
「わ、わかった……!」
「いい返事だね――よし、行こう!」
僕も置いて行かれないように頑張らないと……。




