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102 変な癖がついてたみたい


 

 目的の場所へと向かっている時間で、ケトスとイブは最初の時のようなピリピリした雰囲気はなくなったように思える。まだ「ケトスさん」「イブさん」って敬称がついたままだけど。

 それと同時にイブが受けてきてくれたクエストの紙を見させてもらった。


 そこには『討伐対象:オーク上位個体(グレーター)とフォレストウルフ上位個体(グレーター)』と書かれていた。


 上位個体(グレーター)って脅威度が軒並み高くなる奴のことだ。普段は通常個体(ノーマル)ばかり相手にしているから、上位個体(グレーター)ってホブゴブリンとかゴブリンキングくらいしか戦ったことが無い。冒険者の階級(ランク)がそこまで高くないから仕方ないか。


「一応このクエストって白金等級(プラチナ)とか金等級(ゴールド)向けに出されてたヤツだから、ちょっとクラディスには荷が重いかもね」


「……そんなに強いの? いけるかな……」


「クラディスならへーきへーき――イブさん、クラディスってすぐ凹むからマイナスなこと言ったらダメだよ」


「そうなの? ごめんね、クラディスなら大丈夫!」


「今更遅いよ、あー不安になってきた」


「ほらね」


「ほんとだぁ」


 こんな感じで僕をいじってくる。年齢的にも二人の方が年上だから僕は扱いやすいのだろう。嫌な感じはしないが、この二人にも子ども扱いを受けてるのがつらい。

 そうして他愛のない会話をしながら森の中に進行していくと、僕たちが止まった場所はまだ来たことがない場所に着いた。

 『魔素感知』で感じていた魔物(モンスター)を視認すると、僕たちは草むらに一旦隠れて顔を覗かせた。


「……オークだね」


「五体くらい?」


「そうだね、普通のオークがここにいるってことは、上位個体(グレーター)も近いかも」


 小声で話す僕達の目の前をずしずしと歩いているのは、巨体な体、豚面の顔、手には丸太サイズの棍棒を持っている魔物(モンスター)。それが目の前に2体と、後は『魔素感知』で把握できる範囲に3体の計5体いるのが分かる。二人もソレは分かっているようだ。


「一撃が重たい系か……気を付けないとな」


「オークはこの森の序列で言うと上から数えた方が早いけど、今のクラディスなら一人で余裕で倒せるよ」


「じゃあクラディスのお手並み拝見タイムだ」


「……何言ってるの?」


「イブさんも乗り気みたいだから、とりあえず目の前の2体はクラディスが倒すのに決定ー」


「やったー!」


「いやいやいや、おかしいと思う」


「いけるいける」


「ボク、応援してるよ!」


「応援されても困るよ」


 一緒に来た2人の言葉に押されて、本日初めの戦闘を任される雰囲気になった。

 イブが思ったより行動派だったのにビックリした。会ったばかりの人にゴリゴリ言ってくるのはこの世界ならではなのか。この世界に来てから人を見た目で判断をするのは良くないことだとよーく分かった。


「はぁ……わかった。2体を相手に戦うよ。だけど少し待っててね……初手は慎重に行きたくて」


「じゃ、クラディスいってみよー!」


「頑張れクラディスぅ!」


 2人にクギを刺して目の前のオークの隙を探そうとしたら、声を大にして催促してきた2人の声が辺りに響いた。


「ちょっ、は!? そんな大きな声は……!」


 ストップをかけようとしたら、周囲を警戒していたオークの目はしっかりとこちらを捉えたようだ。広い平原からこちらに歩いて向かってきている。


『ヴォォォオオオオオオオオオオオッ!!』


「ほら! もう!! あー!!」


 二人について少しくらい悪態をつきたかったが、こちらに向かってきているオークに対していつまでも草むら(ここ)にいる訳にもいかず、自分のペースでやりたかったのに、すっかりとペースが狂わされたまま僕はオークに向けて駆け出した。


「ほんと、いつも狂わせて貰ってばかりだよ……!」


 二人に聞こえるように愚痴りながら、真っ直ぐオークとの距離を詰めていく。


 とりあえず……は、首筋の柔らかいところにでも攻撃をするか。


 オークは中型の魔物(モンスター)ということもあって小型の魔物(モンスター)より動きが遅い。

 その代わり一撃が重たい。だけど、一撃一撃の間の時間(インターバル)が長いからしっかりと位置と間合いを把握していれば何ら問題がない。向こうの攻撃が当たらなければいいのだ。


 振り下ろしてくるオークの棍棒――もはや木の幹のようなサイズだが――を目で追いながら体を傾けて軌道上から外した。


 その速度なら攻撃は当たることは無いかな。

 向こうの攻撃を避けつつ地面を蹴って首筋に刄を立てた。


「えっ、硬っ!!!?」


 小刀が思うように差し込めず、ぷよぷよの皮膚の下にある何か硬いものにあたった。


 豚って脂肪に見えてすごい筋肉らしいから、そういうアレか?

 首筋に攻撃を加えた後、オークが棍棒を振り回したからそれに当たらないように着地し、その後の攻撃も避けながらぼんやりと計画を考えていく。


(筋肉でも柔らかい部分があるよな? 何処が柔らかい? 肉付きが薄い所……とか)


 そう思って緩急をつけて後ろに回り込み、膝裏を狙って切ろうとしたのだが、それでも刄は通らなかった。


「どこが柔らかいんだオークって」


 アレコレ考えながら攻撃を加えていると、楽しそうに僕の戦いを見てる2人の姿が目に入った。


(ほんとうにいい先輩達だな)


 もちろん皮肉だ。

 何が面白くてそんな笑顔で見てるんだ? 子どもの運動会を見に来た親の様な表情で……。


「ねー、なんでスキル使わないの~?」


「スキル……? ほんとだ。あぁ、そっか」


「ね、やっぱり気づいてなかった」


「スキル使わず戦うのに気づかないってヤバいね」


「僕とクエストしない日は、スキルを使わずに夜まで魔物(モンスター)と戦ってるらしいから、多分それだよ」


「うわ。あ、だから2日に1回はベッドで休ませてって言ったんだ」


「う、うるさい!! ちょっ! 僕は真剣だから!!!」


 くそぅ……ティナ先生との訓練の習慣というか癖がこんな所にまで来てる。

 だって、スキル使ったら怒られるし……まぁ、使ったことないし、怒られたこともないけどさ……。訓練の日は『魔素感知』も切ってるし、魔素も一抹すら出さないように心がけてるんだから、仕方なくないか?


 もはやスキルを使わない状態に慣れてるまである。


 恥ずかしさから耳まで赤くなるのを感じたが、そんな僕に無防備にも近づいてきたオークの柔らかい口内に『衝撃(インパクト)』を撃つと、綺麗に頭部が弾きとんでいった。


「スキル有りだったらこんなにも違うんだな……」


 オークの方を見つめていると、森の少し奥から足音が近づいてきているのを感じた。それに対して『火槍(ファイアランス)』を5つ、僕の周りを囲うように置いた。


「――って、あ。やべ」


「へぇ、クラディスって魔法使うんだ」


「そうそう、魔法練習中してるみたい。魔導書読んでるし」


「えー、面白い! 面白い! ボクそういうの好きだなぁ~」


 しまった……、ケトスと一緒にいたから普段のように魔法を使ってしまった。

 あぁぁぁぁ……なんだか今日は調子が悪いぞ。突然家に少女が転がり込んでいたという人生で一度あるかないかのイベントに遭遇してから頭がパンクしている気がする。


 ……まぁ、イブもなかなか寛容というか、変人みたいで安心した。


「はぁ……イブの横にいる人は、剣闘士(ウォーリアー)のことを練習中だもんね」


「うわ、普通にバラした」


「おあいこでしょ」


「面白いのが二人……」


 ケトスがしかめっ面をしているのに向けて舌をベーッと出した。ざまぁみろだ。

 最悪なことをしたと思いながらも、そのまま自分の周りに火槍(ファイアランス)がある状態で、オークが木々から離れて何もない平原(コチラ)に近づくのを待った。


「よしよし、そのままこっちに来い。」


 魔法陣を自身の前に置いておいて、文字(ルーン)をいつでも書き足せる状態にしておく。

 そして、ズシズシと思い足音を立てて十分に距離が近づいてきたのを確認すると、僕の周りに置いていた火槍(ファイアランス)文字(ルーン)を書き換え、オークの周りに置換した。


「お!」


「わぁ!」


『ヴォッ!?』


 後ろとオークから間の抜けた声が聞こえた。

 突然自分の周りに大きな火槍(ファイアランス)が出てきて囲んできたんだ。驚くのも無理はない。

 そのオークが何か行動を起こす前に、真ん中(オーク)目掛けて火槍(ファイアランス)を五方向から突き刺した。

 暴れて周りに火が移らないように場所は選んだつもりだったが、念のために僕は駆けた。案の定、火が燃え盛っている状態で走り出そうとしていたから、首元へ空中のボールを蹴るような蹴りを与えて横転させた。


『ヴォォォオオオオオオッ……』


 その場に倒れこんだオークはしばらくバタバタと体を動かしていたが、体全体を火が包むと全身が焦げて焼豚になった。



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