098 ランクアップしてたみたい
歩けど歩けど、同じような街並み。
煉瓦造り。地面は滑らかな石だろうか。前にいた場所とは街づくりの根本から違うようだ。
その人影はただただ日が昇る方向から、日が沈む方へ歩いていた。
ここはどこだろう、と思いながら進む足取りは軽くはない。
道に迷って、しばらく経つ。一週間は経っていないだろうけども。
ぎゅるるるるとお腹が空腹を訴えるのを上から抑え、壁伝いに歩いていく。
「ぁ……ぅ」
歩く足を止めてみると昼前の人通りに酔ってしまい、逃げるように裏路地へと体を入れ込んだ。
ズルズルと壁に背中を付け、地べたに薄い尻を付けて小休憩でも……。
ツンと来たのは、顔を歪めてしまうほどの臭い。ついと視線を横に向けると、ごみ袋をカラスが漁っている姿。
「う゛っ。けほっ……けほ」
吐き気がこみ上げ、再び逃げるように向かい側の街路へ飛び出した。
同時、正面の大きな建物から年下と思われる銀髪交じりで眼帯をしている少年が出てきた。
その表情は嫌な場所に向かうような、億劫さが感じられるもの。
だが、横を通りすぎる時、何故か目に留まった。
「……ぁ」
初めて会った少年だというのに。普段はそんなこと滅多にない。
だって、少年の容姿を見つめる時間が四分の一の速度で流れるように感じることなんて初めてなんだもの。
もしかすると、運命的な出会いなのかもしれない。そんな乙女な思いを抱きながら「あ、あの……」と声をかけた。
しかし、少年は何かぶつぶつと呟きながら街中へ。
ぽつりと取り残された人影は出していた手を丸め、少年が出てきた建物をぐるりと回ってみる。
そうすると、一つの部屋の窓だけが開きっぱなしの状態。それを顎を上げながら何を思ったか、人影は立ち尽くした。
「……」
空腹。瞼が重い。疲れた。道が分からない。頼れる人がいない。
そんな知らない土地で、一瞬だけであった何故か目をひいた少年。
その子が出てきた建物。一つだけ開いている窓。
あぁ、あれくらいなら自分の体なら入れそうだ――……。
「……《風よ》」
魔法を紡ぐ《ことば》を使い、少女は自分の体を浮かせた。
◇◇◇
「なんて伝えよう……」
昨日からずっと考えているというのに、ティナ先生への上手い伝え方が思いつかない。
ぶつぶつと声に出して確認して、変更して……としているともう待ち合わせの場所に来てしまった。
「うう……」
昨日、727番という戦闘奴隷を買うという方向に決めたんですよお。だから、来月末にある闘技場に行かないといけなくてですね~。訓練日をずらしてもらえますか?
――いや、違う。絶対違う。これじゃない。
やばい。まだ、まとまってない……ってのに、と大きな岩に座っているパンを頬張っている先生を見上げた。
「あ、あの……ティナ先生。少し日程のことに対してお話があるんですけど……」
「む」
「来月末の訓練の日をですね」
「むて! むてっ!! モゴッ……ち、食べておるだろうが!!!」
「す、すみません!」
口に入っていたパンを急いで食べて、水筒で飲み物を飲んでこちらを向いた。
「……で、なんじゃ、突然」
「その、来月末の訓練日を移したりってできませんか?」
闘技場……っていうのは何だか色々とめんどくさそうだ。
だから、ここは少し濁して……。
「どうしても外せない用事が入りまして」
「来月末か、ふむ…………」
フランスパンのようなものをガジガジとしながら、一考。
そして、まとまったようでこちらを見降ろした。
「あぁ、いいぞ。なんならズラすというよりかは休みにしようか」
「ほんとですか!」
言ってみるもんだ! 言ってみるとどうってことはなかった。
先生のことを怖い怖いって思ってるから身構えすぎてたようだ。
すると、ティナ先生は森の奥を見つめて何かを確認したのか小さく頷いた。
「ただし、その前の訓練日にこれまでの総仕上げのテストをして、成長具合を確かめてみることにした!」
「テスト……?」
来月末でティナ先生と訓練をし始めて二月が経つ。その確認テストってなると……もしかして。
「そうじゃ。もちろん普段の訓練よりも何倍も酷じゃぞ。ワタシは楽しみじゃがのぉ~」
「どんな感じのを……」
「なぁに、簡単じゃ。ここで最近不穏な動きがあってな、それの原因をとっちめるだけ」
「原因……? 何かあったんですか?」
「それはナイショじゃ。じゃが、楽しいことになると思うぞ」
あぁ……死ぬな、これ。
先生がそんな楽しそうな顔で笑うときは決まって、僕にとっては笑えないことが起きるんだ。
「いやっ、まぁ……でも……。はい。それで休日になるなら……頑張らせてもらいます」
「その意気じゃな、じゃぁ今日の訓練やってくぞ!」
「はい……」
闘技場の日まで、生きてられるかな……僕。
◇◇◇
「ぜぇっ……ぜェ……。っ死ぬ……っ。」
ティナ先生との訓練を終えた後、僕は何とか意識を保ったまま、体を引きずりながらある場所へ向かっていた。
本来は家に帰って爆睡をする。そうしなければ本当に死んでしまうからだ。
だけど、今日は以前から気になっていた『訓練で倒した魔物ってお金にならないのか』という話をするためにギルドへ行くと決めていた。
「や、っと……ついたー……ぁ」
今はとりあえずお金が欲しい。訓練の日にもちょっと小遣い程度でもお金が貰えたら嬉しい。
その事をスタッフルームで話すと「止めた方がいいですよお」とのこと。
いや、話を飛ばしすぎた。ちゃんと順序を追って話をまとめよう。
一応は『ギルドはクエスト外でも引き受けてくれる』のだそうだ。
だけど、討伐証明だけだったらクエストを受けて倒した方が圧倒的に良くて、クエスト外だったら手数料とか他の費用で大体飛んで行くみたい。
それをするくらいなら倒した魔物の全身を解体する業者に持っていった方がお金がより多く貰えるから、そっちにした方がいいって話をしてくれた。
未だに最初のゴブリンの時に使ってた袋を洗って使ってるっていうのに、全身を持っていくとなるといつの日になるのやら。
「ありがとうございました……ぁ」
話を済ませ、スタッフルームから出て行こうとすると、
「あっ、待って待って。クラディスさんに伝えておきたいことがあって……」
話をしてくれていたスタッフさんが思い出したように何かを取り出した。
「クラディスさん、冒険者のランクがアップしてますよ」
「……へっ……?」
手元にある資料を確認して、頷きながら言ってきた。
この前冒険者に登録したばっかりなのに、そんなにポンポンとランクアップってするものなのか?
出口に向けていた体をギギギと向きなおし、スタッフさんの椅子の元へ。
疲れているから早々に切り上げたかったけど、ランクアップという話なら興味がある。
ストンと出してもらっていた椅子に座り、出してもらった紙を見せてもらった。
「クラディスさんがこの前のゴブリンのクエストを達成した時点で話はあったみたいですね。ランクアップの理由は『下位五階の中で突出した成績と達成率を出している』だそうです」
「……達成率100%……。でも、僕はケトスと一緒に受けてるから多少上のクエストができてるだけで、僕はそんなに秀でている訳でも……」
「実はそのケトスさんもランクアップしましたよ」
「ケトスも?」
「はい。あと噂程度に留めておいてほしいのですが、上層部もお二人のランクをもう少し上げたいみたいなんですけど、早々にランクを上げるのは他の冒険者から何言われるか分からないので様子を見るみたいですよ」
こそっと耳打ちをされ、理解したようなしていないような頭で頷いた。
「……えっと、じゃあ今の僕のランクは下位四階……か。そういえばケトスのランクっていくつなんですか?」
「それは言えないんですよ~、私たちには情報公開する権利がありませんので」
権利がない……? でも、新聞にはランクアップの情報が乗ってた気がするけど。アレは等級が上がったとか何とかだったか。具体的な階級は言えないけど、認識票の色は言えるのかな?
「そう……ですか、分かりました」
「はい、では引き続きランクアップ目指して頑張ってくださいね!」
話が終わるとスタッフさんは仕事に戻って行った。




