1-6. 精算を終えるまでが狩りです
『とりあえず精算かな?』
オルタニアに帰還した俺達はまず、狩りで入手したドロップ品を処理することにした。
準備を整えるにしてもまずは金に変えないとなにもできないからな。
全員でパーティインベントリを開いて確認する。
パーティを組んでいる場合、特殊なものを除いてドロップアイテムは全て一度このパーティインベントリに入れられることになる。
この中身はパーティリーダーが分配設定をした後、過半数が承認した場合のみ分配が確定、個人インベントリに移動するようになっている。
もちろん設定次第ではレアアイテムだけPTインベントリに移動だとか、完全自動ランダム分配、自動順番分配、そもそも使用しないなどと変更できるが、俺達は序盤は資産を共有しようということで事前に合意しているので、確認しやすいように初期設定のままにしている。
『A4っちー、どれを残すべきなのん?』
『とりあえず装備品であるシルクハット2個、ブーツ1個は使うから確定だろ。
あとはジェントルボアの新鮮な血が52個か。これも残しだ』
『それは何に使うものなんですか。ただの素材のようですが』
『ああ、こいつは疑似真髄を作るのに使う。真髄は教えたよな?』
『激レアドロップで、装備に特殊効果を付与するアイテムですね』
『それの劣化品が擬似真髄。mobの固有ドロップを一定数集めてNPCに持ってけば疑似真髄を作れる』
『なるほど、繋ぎ装備用の強化アイテムですね』
装備品にはスロットが設定されていて、その数まで真髄を付与することができる。
真髄はステータスが上がったり、与ダメージの上昇や詠唱時間の短縮など、多種多様に存在するが、いかんせんその全てのドロップ率が極めて低い。
具体的な値は定かにはなっていないが、数千体狩って一つ出るかどうかってところだ。
そして、この真髄の単純劣化品がmob素材を集めて作る疑似真髄。
効果は真髄に劣るが、つけないよりつけたほうが当然強いし、繋ぎ装備にあんまり高価な真髄をつけたくないというのもあるから、作れるなら作ったほうがいいという感じだ。
『あとは戦場の記憶・残滓も1個出てたか。こいつは運がいいな』
『これは何に使うんー?』
『これは装備の強化だな。しばらくは使わないがなるべく集めておきたい。
市場に金が流れ始めたら売ってもいいしな』
戦場の記憶は装備品の強化アイテムだ。
真髄とは違い、単純にその装備の数値が上昇していく。
5個までは成功率が100%だが、それ以降は一定確率で失敗し、その場合装備が失われる。
とはいえ序盤はなかなか手に入らないだろうから、使い所が難しいのが悩ましいところだな。
『あとは横入りでちょくちょく狩ったアンガービーのドロップだが……ハチミツと毒腺は残しておくか。ハチミツは何かと生産の素材になりそうだし、毒腺は疑似真髄の素材だ。
そのうち市場に流すほうが儲かる』
『じゃあそういう感じで問題ないかな?
残すアイテムはA4に持ってもらって、売るアイテムはボクが受け取ってNPCに売るね。
承認よろしくー』
『おっけい〜』
『承知です』
『了解』
さて、次は装備の購入か。
最低限必要なのは俺の新しい片手剣とmoniの杖、あとはカズーの盾に、疑似真髄を使うためにスロット付きの防具か。
ジェントルボアの疑似真髄が装備できる部位は何だったかな……。
先に交換してくるか。
『売ってきたよー。約27kvってとこだったよ』
『サンクス。俺は疑似真髄交換してくるから、三人はマーケット見に行ってくれるか?』
『わかった。もう出してる人いるかな?』
『さてな。それも含めて一回見ておく必要がある。出てなきゃ知り合いに声かけてみるわ』
『マーケット! このゲームのマケって確か現地販売式だよねえ?
最近の作品は掲示板式ばっかりで味気なかったからちょっと楽しみっ』
カズーが楽しそうにしているが、その気持ちはすごくよく分かる。
システムで一括検索できるのは確かに便利なんだが、どうもMMOらしさが感じられないんだよな。
どうせリアリティを感じられるVRMMOなんだから、商売相手がそこにいるってのがわかったほうがいいとは思う。
とりあえず俺の方は疑似真髄だな。
行き先はポーションでもお世話になった研究所だ。
[ザジー]『君も僕の研究に協力してくれるのかい? それなら素材を持ってきてくれれば疑似真髄を作ってあげるよ!』
[ザジー]『おお、早速素材を持ってきてくれたんだね。どの疑似真髄を作るんだい?』
というわけで研究所で怪しげな研究をしている男、ザジーに話しかけ、疑似真髄を作ってもらった。
ジェントルボアの場合は50個でいいので、ぎりぎり足りた形になる。
アンガービーの方は全く足りないな、うん。
さて、手に入れた疑似真髄を見てみよう。
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ジェントルボアの疑似真髄
攻撃力+15
種別:真髄
装備箇所:腕
重量:1
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序盤の武器一本分の攻撃力上昇を期待できる、非常に優秀なアイテムだ。
この存在も、最初の狩場を決定する一要因になっていたのだ。
で、俺が忘れてた装備箇所は、腕か。
腕なら確かスロット付きのライトグローブが近場で落ちるはずだ。
なんとかなるだろう。
『こっちは終わった。マーケットの方はどうだ?』
『さすがに誰もいなかったよ。ちらほら見に来る人はいるんだけど、出店料がまだきつそう』
『まあそうだよな。俺たちでようやく27k手に入れた程度だもんな』
『A4っち、どうするん? 店売り装備買ってくる感じ?』
『そうしよう。カズーの盾と俺の片手剣、moniの杖だけ新調できればいい』
『そのへんはボクが見繕っとくね。A4はどうする?』
『俺は知り合いに声かける。ライトグローブが必要だからな』
『ああ、例の彼女だね。了解』
さて、wisでも飛ばすかな。
この時間ならまだ繋いでいるだろう。
[!] TIPS
■ パーティインベントリ
個人プレイとは違い、パーティではドロップアイテムの分配でトラブルが起きやすい。
これを解決するためにO2で用意されたシステムである。
以下のような特徴を持っている
・分配を確定するまで、誰の所有物でもない
・分配はリーダーのみが可能で、メンバーの過半数の承認がなければ分配は確定しない
・分配は一括で行ってもよいし、何度かに分けて行うこともできる
・パーティインベントリを使用しない/レアアイテムのみパーティインベントリに移動/完全自動ランダム分配/自動順番分配といった使用に関する設定変更が可能
・パーティインベントリに対する入金が可能。これによってパーティインベントリ内のアイテムをメンバーの誰かが購入し、購入したお金を全体に均等配布することができる。
・パーティインベントリにアイテムやお金が入っている時、リーダーによるメンバーの強制追放ができなくなる。自発的な脱退は可能
・パーティインベントリの中身はメンバーなら誰でもいつでも閲覧可能