1-5. ポーションがぶ飲みレベリング
オルタニアから出て歩くこと30分。
道中で遭遇する雑魚mobを適当に蹴散らし、目的地に到着した。
そこは初心者用フィールドから2マップ先の、10-20くらいのレベルが適正となるマップだ。
ここまでたどり着くまでにキャラレベルが3に、クラスレベルが4まで上がっている。
もうこのレベルまで上がってしまえば必要なスキルも充分な強さなので、手に入れておいたポーションも合わせればゴリ押しでレベリングができてしまう。
さて、わざわざこんな遠くのマップまで来た理由だが。
初期フィールドの経験値が10前後であるのに対し……俺達がやってきたマップは、なんと取得経験値一匹あたり80前後。
主食mobのHPも60前後だったのが700前後とかなり高くなっているが、そちらは何の問題もない。
とりあえず俺たちの狩り風景を見てもらおうか。
『【プロヴォーク】! おっけぃタゲ固定したよん』
タンクのカズーがヘイトスキルである【プロヴォーク】を発動し、狩対象であるジェントルボア――シルクハットをちょこんと載せた猪型のモンスターだ――を釣りだすと同時にタゲを自身に固定した。
それを確認した俺達はすぐさまそれぞれの行動に入る。
『了解、【ファイアボール】キャストします』
『SPあるから【バッシュ】4発いれとく』
『それならA4に【マイトアップ】いれとくね』
『把握。【ファイアボール】3発に抑えます』
現在のメイン火力となるのはマジシャンであるmoni。
彼女はタゲ固定を確認すると同時に詠唱を始める。
一方俺はサブアタッカー。
moniのSP消費を軽減するため、ファイアボール一発分の火力を叩き込むことを伝える。
必殺のバッシュ連打だ。
また、支援職であるクレリックのラフは俺に向けて攻撃力アップのバフをかけてくれる。
こいつはレベル5にすると攻撃力を割合で10%、さらに固定値で25増加させるという優秀なバフだ。
このおかげで初心者武器で戦えてると言っても過言じゃない。
『倒したらすぐ次つっておけ?』
ジェントルボアからの攻撃を躱したり喰らったりポーションを飲んだりしながら、カズーは目の前の猪を倒したあとの行動を俺たちに聞いてくる。
狩りのテンポを崩さないためにはこういうコミュニケーションはとても大切だ。
『次まではいけます。その後SP休憩欲しいです』
『承知之助!』
そんなこんなで、俺達はひたすら狩り続けていく。
さて、この狩りがなぜ成立していて、どの程度うまいのかを少し解説しよう。
現時点でmoniのファイアボールの威力が一発最低170ダメージ。
詠唱とリキャストタイム合わせて約5秒に一発打てるので、moniだけでも25秒で倒せる計算。
さらに、俺がバッシュで一発最低50強でて、これが2秒に一回くらいの間隔で攻撃できるから、一体あたりにかける時間は20秒もない。
その上、このマップは初期マップに比べ人がかなり少ない。
俺らと同じようにスタダ狙いの連中が少し居るくらいで、許容人数に比べればかなり余裕がある。
何よりこのマップは湧きがいい。
ジェントルボアはノンアクではあるが、ある程度固まってポップしているので、タンクのカズーが遠距離からプロヴォークで釣り、フルボッコにし、倒し終わるころにはプロヴォークのリキャストタイムも終了してるのでもう一匹釣って、を延々繰り返せる。
時々SP休憩をはさみつつでも、一分間に2−3匹倒せる計算。
それに対して初期フィールドは……湧きの取り合いでせいぜい一分間に多くて5、6匹倒せればいいくらいだ。
単体の経験値が8倍近くあることを考えれば、この旨さがよく分かると思う。
ざっくりと時給計算したところ……4人PTで、ボーナス等含めてもキャラ経験値7kちょい、クラス経験値は9k程にもなる。
ちなみに初期フィールドの方だとキャラ経験値で約2300程度だ。
ああ、一応言っておくとジェントルボアの攻撃はソードマンでも二発連続で直撃貰うと床ペロ、つまり死ぬ。
それに不意にアクティブのmobだって紛れ込んでくることがある。
だから間違っても適正以下のレベルでソロで来ちゃいけない。
タンクが機能して、被弾した場合にきちんとすぐ回復できる状況が作れていて、横湧きに対処する余裕があって、なおかつ充分な速さで狩れる火力が揃って、やっと狩りが成立するレベルだ。
ハイリスク・ハイリターンの狩りってわけだな。
二時間とちょっと、大体300体ほど猪を狩り続けて、ようやく目標レベルに到達した。
キャラクターレベル10。
クラスレベルで15だ。
ここまでくればレベリングはさらに加速する。
なぜかって?
そりゃあとあるコンテンツが解放されるからさ。
分かるやつには分かるだろう。
インスタンスダンジョンだ。
序盤のインスタンスダンジョンは他の狩場に行く理由がなくなるほどに破格の旨さなわけだが……。
まあ、そっちに行く前にまずは死に戻りして街で準備を整えますか。
帰還魔法? そんなのまだ取れないよ。
帰還アイテム? 資金の乏しい初期になんでそんな無駄遣いしなきゃいけないの。
デスペナ? 初期なら経験値10%とか誤差でしかないよ。
それじゃみんなで仲良くジェントルボアに突っ込んで、はい床ペロ〜。
[!] TIPS
■ mob
moving objectの略称。
言葉通り動く物体を意味しており、広義には村人などのNPCを含めた、敵性キャラクターなどプレイヤー以外の自律行動するユニットを称する。
狭義には村人NPCは除き、敵性キャラクターのみを指しており、オンラインゲームに置いてmobと言ったらもっぱらこちらの意味で使う。
厳密な話で言えばNPCにも敵性キャラクターは含まれてしまうため、mob=敵キャラ、NPC=村人っぽい奴ら、という感じで使い分けるのが一般的である。
尚、敵キャラクターのことをモンスターと言うふうに総称しないのは、敵対するのが魔物だけとは限らないためである。
なお、漫画などに出てくるモブキャラクターを意味するモブと言う言葉とは綴りこそ同じであるものの、語源は異なっている。
モブキャラクターを意味するmobは英語で群衆の意味。
■ PT構成・ロール
PTプレイにおいて、ロールというものが重視される。
ロールとはその言葉の意味の通り、PTにおける各プレイヤーの役割を意味している。
メインロール
タンク:敵の攻撃を集め、耐える。タンクが死ぬことは許されない。
アタッカー:敵にダメージを与える。とにかく高いdps(秒間ダメージ)を出し続けることが要求される。
ヒーラー:PTメンバーを回復する。タンクが死なないよう、的確なタイミングでの回復が求められる。
サブロール
クラウドコントローラー:敵の妨害を行う。タンクが抑えきれない敵がアタッカーに流れていかないよう、スタンなどの行動阻害を用いて適切に処理する役割。
バッファー:味方に対するステータス支援。強化によって戦闘を優位に運ぶ。
デバッファー:敵に対するステータス阻害。弱体化によって戦闘を優位に運ぶ。
基本的な構成としてはタンク1、アタッカー3、ヒーラー2となる。(1-3-2構成)
各ロールは基本的には自分の役割をまっとうすることを最優先とする。
また、それぞれはサブロールを兼任することが多く、その場合はメインロールとしての貢献度がやや低くなるだろう。
構成例としては、
メインタンク
サブタンク・クラウンドコントローラー・サブアタッカー(近接物理)
アタッカー(遠距離物理)
アタッカー(魔法)
メインヒーラー
サブヒーラー(バッファー・デバッファー)
などといった具合になる。
挑戦するコンテンツに合わせて、構成は臨機応変に変えていくのがいいだろう。
■ 時給
一時間でどれくらい稼げるかを表した値。
お金にも使うし、経験値にも使う。
廃人にとって何より大切な数値。
時給が1%でも伸びるならどんなことだってする。と思う。
実際に1時間狩りをして測る場合もあるし、10分など時間を区切って計測した後、それを1時間続けた場合の数値を時給とする場合がある。
あくまで参考値なので必ずこの値になるとは限らないが、普通は近い値に収束する。