1-2. チュートリアル 1/2 -この世界の俺-
三度目の暗転を抜けた俺の目の前には、見知らぬ天井があった。
ここは……オープニングマップか?
その身を起こし、周囲を確認する。
どうやら何処かの部屋のベッドに横たわっていたみたいだ。
随分と手狭で、あまり手入れがされていない部屋だな。
とりあえずベッドから降りて部屋の中を観察しようとする。
その瞬間、モノローグが脳内に響いてきた。
(ここは一体どこなんだ……?
自分は一体何を……?
なんだか頭がぼーっとする。
自分が何者なのかすらもわからない。
この部屋に何か手がかりがあるだろうか)
更に続けて、視界の端にクエスト開始を告げるウィンドウが表示された。
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チュートリアルクエスト1『あばら家の調査』
が開始されました。
・ノートを調べる 0/3
・金属板を調べる 0/1
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なるほど、これが正式なシナリオ導入で、同時にチュートリアルの開始でもあるってわけか。
プレイヤーは見知らぬ部屋で目を覚ました記憶喪失の若者って感じなんだな。
cβTのときとは全く異なるチュートリアルに驚きはしたものの、開発者インタビューでも仄めかされていたことを思い出してすぐに納得した。
俺が知っているチュートリアルは非常に簡素なもので、事務的なシステムウィンドウに操作方法だのなんだのがつらつらと表示されていき、指示通りに操作するだけのものだった。
きっと開発段階で細かい世界設定などを知られたくなかったんだろうな。
とりあえずモノローグの指示通りに部屋の観察をしてみる。
部屋にあるのは小さな机と書棚、天井に吊るされた照明、あとは色々と入ってそうな道具箱ってとこか。
机の上にはノートが置いてあるな。
あれがクエストに指示されているオブジェクトだろう。
早速ノートを手に取り、ノートを開いてみる。
すると視界にテキストウィンドウが表示された。
内容はこうだ。
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ようやく冒険者登録ができた!
これで今日から自分は一人前の冒険者だ。
いろんな大陸を周って、世界の謎を解き明かすぞ!
冒険者の証であるプレートは大切にしなくちゃな!
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これでノートを一回調べたことになるみたいだ。
書いてあるプレートってのは横においてあるこれか?
こっちも調べてみる。
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アイテム名:認識票
冒険者であることを認められたものに与えられる身分証。
『A4』という名前が彫られている。
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(俺の名前はA4っていうのか。
それに冒険者か……。
まあ悪い気はしないな)
また勝手にモノローグが流れてきた。
なかなか演出が凝ってるなあと思いつつ、どんどん進めていく。
ノートはあと2回調べる必要があるからな。
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やってきた小さな島で遺跡を発見した。
中を調べてみると、何やら不思議な光を放つオーブが置かれていたんだ。
ちょっと怖かったけど、ここで立ち止まっちゃ冒険者じゃないと自分を叱咤して、試しにオーブに触ろうとすると……何か不思議な力が自分の身体の中に流れ込んできたんだ!
オーブについて、調べた結果を記録しておくことにする。
オーブから流れてきた力を使ってみると、自分の中に過去の誰かの記憶が流れてくるような感覚があって、その人が持っていた特殊な能力や技能が使えるようになりそうなことがわかった。
記憶は四人分確認できた。彼らのことをまとめてクラスって呼ぶことにする。
そして、クラスを自分自身に適用することを、クラスチェンジって呼ぼうと思う。
クラスチェンジをしてみると、驚くべきことに自分の基礎能力までもが上がってしまうみたいだ。
これはすごい発見かもしれない。
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おー、システムの説明をこういうふうに物語風に説明していくんだな。
これなら興味がそそられるからしっかり読むだろうし、リアルの俺じゃない、このゲーム世界で生きているA4っていうキャラクターになりきるRPGってことがストンと理解できるな。
お、クラスチェンジの操作が開放されたみたいだ。
通知が表示されたと思ったら、今度はゲーム的な解説用ウィンドウが表示された。
物語調で大筋を示しつつ、詳細はゲームらしく解説していく。
このバランスが没入感を損なわなくていいね。
とりあえずぱぱっと事前に決めていたクラスにチェンジしておこう。
初期クラスの選択肢は全部で四つ。
前衛のソードマン、物理遠距離主体のアーチャー、後衛のマジシャン、そして支援のクレリック。
俺が選ぶのは、ソードマンだ。
その初期ステータスはこんな感じになる。
==Status==
キャラクター名:A4
キャラクターレベル:1
クラス:ソードマン Lv0
MHP: 120 MSP: 38
力 : 7
敏捷 : 30
器用 : 1
魔力 : 1
体力 : 5
運 : 0
攻撃 : 21 + 0
魔攻 : 6 + 0
防御 : 6 + 4
魔防 : 3 + 0
移動 : 3
CP: 0 / 0
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敏捷だけやたら高く見えるけど、これは誰でも30だ。
cβT時代に検証した感じ、移動速度っていう項目が敏捷10ごとに1上がるようになっていて、この値を3にするために敏捷が30に設定されているというのが判明している。
だったら移動速度の数値を3+敏捷/10にしろよって話でもあるんだが、これにも理由があるから後で説明しよう。
他の項目については……今は気にする必要はない。
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他にも各地の遺跡で同じようにオーブが見つかるかも知れない。
そしたら冒険者として強力な武器になるし、なにより自分の目的でもある“この世界の謎”を解き明かす手がかりになりそう。
今日の調査はこれくらいにして、明日からは頑張ろう。
なんだか慣れないことをしたから妙に疲れを感じるし、街に戻るのも面倒だしたまたま見つけたこのあばら家で寝ちゃおう。
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チュートリアルクエストクエスト1『あばら家の調査』
が完了しました。
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チュートリアルクエストクエスト2『調査の準備』
が開始されました。
・好きなクラスにチェンジする 1/1
・道具箱を探して、使えそうな物を手に入れる 0/1
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ノートを調べ終えると、クエストが完了すると同時に次のチュートリアルクエストも開始された。
ノートの内容についてはまあ語るまでもないだろう。
要はこのゲームの要である、クラスシステムについてのフレーバーだ。
各地にあるオーブを手に入れることで、新しいクラスが解放される。
俺たちプレイヤーはそのクラスをどんどんマスターしていくことで、キャラの強化ができるってことだ。
この辺が他のゲームと差別化される要素でもあるわけだな。
クラスは安全な場所でなら自由にチェンジできるから、ソードマンをマスターした後にマジシャンをマスターして魔法剣士っぽいビルドもできるし、上位クラスに進んでいけばもっと様々な状況に特化したクラスが出てくるから、時間さえかければ“俺が考えた最強の冒険者”に誰でもなれる。
ま、もちろんいろいろ制限はあるわけだが、それも後々語るとして。
ストーリーの導入はあらかたすんだみたいだし、こっからはさっさと進めていこう。
チュートリアルをさっさと終えてしまおうか。
[!] TIPS
■ Oblivion Online
空中に浮遊する無数の大陸を冒険し、世界の謎を解き明かしていこう、というストーリーのMMORPG。
当然フルダイブ対応VRゲームである。
公式略称はO2。
MMORPGの原点回帰を謳っており、昨今の高自由度ハイリアリティ路線から逆行、コンテンツ量は時代に見合うだけの膨大さを誇るものの、原則としてそれら全ては開発側で用意された組み合わせのみしか存在しない。
ゲームらしさとリアリティがもたらす没入感の調和を目指したコンセプトはゲーマーたちの注目を浴び、それなりのユーザー数を獲得することになった。
システム的な特徴としては、自由に変更可能なクラスシステム。
各クラスのレベルをあげることで習得可能なスキルやアビリティは他のクラスに変更しても使用可能であり、これらを自由に組み替えて個性を出すことが可能。
その他ゲームらしさを表現するためのシステムがいくつも用意されており、例えばフルダイブにもかかわらず自動操作を可能にするオートアタックシステムなどは賛否両論あるものの、これ自体はこのゲームの本質をよく表現しているなどと言われている。