2-14. 祭の誘い
oβt期間最後の週末。
俺たちはラストスパートをかけるためひたすら上位の狩場を周り続けた。
結果として土曜のうちにはキャラレベルカンストを達成。日曜が終わる頃にはmoniを除いた4人が2次クラスを二種類ずつマスターしていた。
『やはり隠しクラスというだけあって経験値テーブルも少し厳しいみたいですね』
マギカリドゥスは他の2次クラスとは経験値テーブルが異なっていることに加えて、最大レベルも50に引き上げられていたので土日いっぱい使ってもマスターできなかったが、それでもその強さを発揮するには十分すぎるほど育てることは出来ていた。
正式サービス開始までにカンストさせるのは難しいかもしれないが、それでも魔法職としては現状トップクラスの実力を誇っているだろう。
『レベル上限50ってのもあるしな。まあ何にせよmoniのおかげで狩り効率がかなり上がったよ。ありがとうな』
『なんですか、急に人の機嫌を取るような事をいいだして。熱でもあるんですか? 強制ダイブアウトされますよ』
『いや俺だって感謝くらいするんだが……』
『A4はいつもは捻くれてるけどたまに妙に素直な時あるよね』
ラフまで俺のことをからかうようなことを言いやがって……。
これからはもっと厳しくしてやるか。
『でも私が火力出せるのはうかさんのおかげでもありますね。魔導書なんてレア装備手に入れてきてくれましたし、杖もプレイヤーメイドの良いもの仕入れてくれますし』
『魔導書は完全に捨て値で売られてたやつやでー。現状使い道ないみたいやから今後のアプデで高騰する思うて買い占めといたんや。それにうちは仕入れてるだけで金はきちんともらっとるしwin-winやで』
『それもそうですね。今後もうかさんのお店にはお世話になりますよ』
moniの言う通り、うかには本当に世話になっている。
俺たちが装備更新のために時間をかけて露店を回ったり、生産職に直接依頼しにいく手間を掛けなくて良いのはこいつが全てやってくれているおかげだ。
商人を名乗っているのは伊達じゃないってことだな。
委員長 To:A4 『今いいかなー?』
狩りを終えて精算しつつ雑談していたところ、委員長からwisが入った。
また検証の依頼でもしにきたのか?
A4 To:委員長 『ちょうど精算中だから話すくらいなら出来るぞ』
委員長 To:A4 『おーよかった。実はA4君たちのPTに頼みたいこと……じゃないんだけど、ちょっと用があってねー』
A4 To:委員長 『俺たちのPTに用?』
どうも単なる検証の依頼とは違うみたいだ。
PT全員に関係しそうな話なので、一応PTチャットで委員長からwisがきていることを伝えておく。
委員長 To:A4 『うん、実は他のPTの子から顔繋ぎを頼まれてね。会ってあげてくれないかな?』
A4 To:委員長 『いや、意味分からんが。会ってやるメリットはなんなんだ?』
委員長 To:A4 『メリットかー。正式サービス開始後に取り残されないようになること、かな? 会わないデメリットは正式サービス後に置いてけぼりを食うことだね。まーあとは楽しいお祭に参加できないこともデメリットかな?』
こいつはつまりあれか、何らかの同盟関係を結ぼうっていう申し出が他のPTから来てるってことか?
確かにこのまま1PTだけでやっていくのはいずれ限界が来る。
委員長を通してある程度情報は貰えるとは言え、直接やり取りできる奴らが多いほうが有利なのは当たり前の話だ。
俺たちから情報を提供することで相手が得する場面ももちろんあるだろうが、取引をした結果有利になるのは取引をしている二人で、取引の場に立てなかった残りの連中はどんどん不利になっていく。
現状で圧倒的トップというわけでもないんだから、ここは素直に応じたほうがいいかもな。
それに正式サービス開始後と限定している以上……おそらくこれは単なる同盟の話じゃなく、新規実装されるクランシステムに関わる話の可能性が高い。
それなら尚更話を聞いておくべきだろう。
A4 To:委員長 『わかった。会おう。いつどこに行けばいい?』
委員長 To:A4 『お、即断即決! 今からでも大丈夫なら今からかな? とりあえず向こうにオッケーもらったって伝えるから、集合場所とかはそのあとメッセージするね〜』
◆ ◆ ◆
「やあ、はじめまして。僕の呼びかけに応じてくれてありがとうね」
指定された場所に行くと、俺たち以外にも3PTほど集まっていた。
1PTは呼び出してきた連中だろうから、残り2PTは俺たちと同じように声をかけられたんだろう。
どういう基準で選んでいるのかは……まあ委員長推薦だろうな。
「僕の名前はチャック。今回みんなに集まってもらったのは他でもない。クラン結成について打診をしたくて声をかけたんだ」
やっぱりクランの話か。
「ここに集まっているのは委員長が推薦するほど優秀なプレイヤーたちだから当然分かってると思うけど、クランシステムが実装されたらクランに加入していないプレイヤーはどんどん置いていかれることになる。情報共有、育成支援、狩場争い、アイテムの融通。あらゆる面で人数が多ければ多いほど有利になるし、そのメンバーの質が高ければ高いほどますます有利になっていく」
まあ、当たり前のことしか言ってないな。
「つまり何がいいたいかと言うと、僕達でクランを作らないかって話だよ。クラン結成の条件はまだ公開されてないけど、そこまで難しいものじゃないだろうし。ああもちろん、馴れ合いをしようって意味じゃないよ? せっかく全員トップを狙える実力があるんだから、クランとしてトップを目指したいって話さ」
要するに各自で活動して所属クランが分散することになったら競争相手が増えて面倒だから、強い連中で固まっちまおうぜって話か。
全員が委員長のお墨付きってことは情報の価値を分かってるってことだし、俺たちと同じくらいかそれ以上にガチでプレイしてるってことだ。
悪い話じゃない。むしろいい話だ。
「で、すぐにクランに入るかどうかを決めるのは難しいだろうし、obt終了前に一つ派手にパフォーマンスをしようと思ってるんだ。それをやった上で、加入するかどうかは決めて欲しい」
委員長が言ってた楽しい祭のことか?
「で、何をするかなんだけど……ボス狩りツアーをやるつもりだよ」
チャックがそういった瞬間、それまで静かに耳を傾けていたこの場にいる全員が息を呑んだような気がした。
ついにボスに手を出す時がきたのかと。
フィールドボス、あるいはエリアボスなどと呼ばれる存在がいることはトレイラームービーの時点で示唆されていたし、実際最近になって何箇所かで存在が確認されたばかりだ。
ただし、確認したプレイヤー曰く強すぎて戦いにならなかったと。
そのプレイヤーがそれほど強くないというのもあったが、しかしそれを抜きにしてももう少し装備が整ってからじゃないと厳しいんじゃないかと判断して誰もまともに狩ろうとしていなかったところだ。
そのボスを狩る。しかもツアーと言うからには何体か狩るつもりなんだろう。
これに参加して討伐に成功すれば、堂々と乙のトッププレイヤーを名乗れるはずだ。
「一応この前軽く偵察してきたんだけど、合同でかかればいけそうだと僕は判断したよ。さすがに単独PT撃破は時間がかかりすぎてきつそうだったけどね。
さて、この楽しいお祭に参加したくないPTはいるかな?」
チャックのその声かけに反応するような連中がこの場にいるわけもなく、全員参加でoβtの締めくくりをすることがここに決定した。
[委員長メモ]
「魔導書は左手に装備するサブウェポン。杖は右手なので同時に装備できる」




