2-9. 新地方の冒険とはじめての
交易都市キャリトゥナ。この世界において重要な移送手段である飛行船を発明し、また現在に至っても最も多く保有しているこの都市は、その強みを活かして各浮遊大陸間の物流を担い、大都市へと発展していった。
中央都市オルタニアが肥沃な土地と政治の力で人々の中心となったのに対して、この都市は兎にも角にも金の力で成長を遂げた、欲望に忠実な地であると言えるだろう。
学問の街ドゥーミア。都市と呼べるほどの広さは無く、またそれほど発展はしていないものの、この地には多くの学者が集っている。なぜならばこの街そのものが生きた遺跡であり、この世界の謎を解き明かすのに重要な手がかりとなりうるからだ。
各地から集まった学者たちはここに街を築き上げ、そしてその叡智をさらなる高みに近づけるためにアカデミーを設立し、日夜研究に励んでいるという。
街の中央にそびえ立つ大時計塔はそんな彼らにとって最も興味深い存在であり、いつ一体誰がどうやって建築したのか? 本当にただの時計塔なのだろうか? 誰も整備していないはずなのになぜその機能を失わないのか? などの謎を残し続けている。
水上都市エルセスカ。もしも観光に行くとしたらどの都市に行きたいかと聞かれたのなら、10人中8人がこの都市の名前を上げるだろう。都市全体が水上に作られており、入り組んだ水路はまるで迷路のようだがその美しい景観は筆舌に尽くしがたいものがある。都市内の移動はかなり不便ではあるものの、水路を走るゴンドラに乗ってゆったりと移動するのもたまにはいいだろう。
――というのが、俺たちが飛行船クエをクリアしたことで新たに行けるようになった三つの地方、その入口となる街だ。
ちなみにこの説明は移動先を選ぶ時、ウィンドウに表示されていたものだ。
なんとなくどういう街か分かるような、分からないような。まあ街の説明なんてこんなもんか。
正直なところ、一気に三つも行ける場所が増えるとは思っていなかったから少し困惑気味ではある。
それぞれの地方がオルタニア近辺並に広がっているとなると効率のいい狩場を探すのに苦労しそうだし、そうなると少しでも情報を仕入れるために他のPTと連携する必要が出てきそうだからだ。
『さてどうするか』
『とりあえず選択肢の上からまわっていけばいいんじゃない?』
『オレっちは水上都市がきになるなー! これって多分ヴェネツィアモチーフだよね? VR系お馴染みだから乙でどんな風に描かれてるか見てみたいんだよね〜』
『私はドゥーミアですね。魔法系クラスについてどうしても気になることがあって、学問の都市というのならばもしかしたら何かヒントが有るのではないかと』
『うちはなんでもええでー。行きたい街は昼間一人でいけばええしなぁ』
『ま、PTで動くんだから観光は後にして、狩場探しを優先しよう。俺もラフの言う通り上から適当に歩いていく感じでいいと思う』
『それもそーだね。んじゃ観光は解散した後にするよん』
『了解です。私も特に急ぎではないので』
観光したいという意見もあったが、時間は有限だ。
もうすでにいい狩場を見つけてる連中がいるかも知れないんだから、あんまりのんびりしているわけにもいかない。
◆ ◆ ◆
『お、ダンジョン発見!』
『推奨レベル表記は……見当たらないな』
『どうする?』
交易都市キャリトゥナに移動した俺たちは、街をさっさと出てフィールドの探索をしていた。
出現mobは全体的にオルタニア方面に比べて強かったが、一度に出現する数が多くなかったので特に苦戦する場面もなく、サクサクと進んで今はキャリトゥナから南に出て3マップ目にきている。
見つけたダンジョンには、今まで見てきた二つのダンジョン――バーランと鉱山ダンジョン――の入り口に用意されていた推奨レベル表記の看板が見当たらず、いよいよこの地方からが本番なのだという事が仄めかされていた。
これから先は自分たちで冒険して見極めろということだ。
『まあ、入って様子見だな。ターミナルもあることだし、死に戻りしても一回くらいなら問題ないだろ』
『このマップ的には火属性のmobが出そうなダンジョンですね。水属性の強力な魔法があればいいのですが……』
moniの言う通り、今いるマップは活火山地帯になっている。だから十中八九このダンジョンは火山をモチーフにしたダンジョンだろうし、そうなれば出現mobは火属性に偏るだろう。
クリオマンサーの魔法は攻撃力が全体的に低いから、現状だと火力はうかに頼ることになってしまいそうだ。
『じゃ、入るよーん』
カズーがそういって、先導していく。
俺たちもその姿を見届け、少し待ってから入場した。
すぐに入ってしまうとロード時間がずれた場合カズーがタゲを取りそこねるからだ。
「あっ」
その声が聞こえたのと、俺の視界にダンジョン内の様子が飛び込んできたのはほとんど同じタイミングだった。
一瞬見えたのは、真っ赤に燃える世界。
まさしく火山の内部だと言わんばかりに辺り一面が燃えており、あまり太くもない道から足を踏み外せば燃えたぎる溶岩に真っ逆さま。
陽の光の届くダンジョン外よりも更に明るく、眩しい光景。
そして目の前にわらわらと群れている無数のモンスターたち。
その詳細を確かめる間もないまま、ダンジョンに入場した俺たちのもとに強烈な何かが飛んできて。
俺たちは、床に転がっていた。
『ごめん! 念話する間もなく転んだ!』
『いや、うん、まあこれは仕方ないんじゃないか……』
『さすがに多すぎですね。飛んできたのは魔法でしょうか? 敵が使うとこれほどまでに強力なんですね……』
『耐性ないときつそうだねー。そもそもレベルも足りてないかな?』
『こりゃ一文の得にもならなそうですわ』
5人仲良く床と一体化しながら、もう少し状況を整理しようとそのまま会話を続ける。
死亡してもすぐにリスポーンするわけではなく、自分でリスポーンを選択しない限りはその場に残るのでこういうことも可能だ。
ちなみにその場合、死体から幽体離脱した霊魂に自分はなっているので、移動はできないものの視界は360度回転させられる。
『えーと、確認できるmobはスコーチングプテラ、フレイムイーター、ファイアリングの三種かな?』
『そうみたいだ。名前も真っ赤だし、完全に格上の相手だな』
『属性は確かめるまでもなく火属性ですね』
参考程度にしかならないが、mobのレベルと自身のレベルとの差によって、フォーカス時に表記される名前の色が変わる。
白文字だと同格程度、青いと格下で、やや強いとオレンジになり、それ以上強くなってくるとどんどん赤くなっていく。
今の俺達のレベルが30代前半だから……まあこいつらは少なくとも50レベル以上ではあるだろう。
『ま、戻ろっか。眺めててもこれ以上得られるものはないし』
『おっけー、戻ったら次の都市いく? それとも遺跡とかないか探してみる?』
『いえ、そろそろ休憩時間ですね。もうだいぶ時間経ってます』
『じゃあ、今日はここで解散ってことで。また明日同じ時間で、次はドゥーミア集合ね。お疲れ様ー』
『了解! おつ〜』
『お疲れ様でした』
『おつやでー』
『おつ』
[委員長メモ]
「活火山マップには温泉があるらしい」




