2-7. ちょっとまて、強すぎないか?
「こんちゃー、君たちも飛行船クエ?」
俺たちが坑道の入り口に着くと、そんなチャットが飛んできた。
どうやら先客がいたらしく、俺たちを見つけた彼らの中の一人が声をかけてきたらしい。
「こんちは。うん、そうだよ。君たちはもう終わったところ?」
ラフが代表して返事をする。
PT内の仕切りは俺がすることが多いが、他PTとやりとりをするのはコミュ力の高いラフが一番向いている。
「そんな感じかな。あとは報告するだけで終わるだろうし」
「そっか。クエはどうだった? 難易度高い?」
「んー、遺跡に比べれば全然高いけど、この段階でここまで進めてるPTなら余裕だと思うよ。ってかちょっと気になったんだけどなんでそこの人初期見た目のままなの?」
彼は笑いながらそう言い、俺の方を指さしてきた。
目の前のPTがどんな構成なのか気になって観察しながら予想していたところだったから、少し驚いたがどうやら俺の見た目が気になるらしい。
「なんかおかしいか?」
「いや、おかしいっていうかわざわざ装備非表示にして初期見た目にしてるのがなんか面白くて……他の皆は割とおしゃれな感じなのにね」
「あー、気にしないで。彼はそういうこだわりが一番強いんだよ。何て言うか……アンチ勇者的な?」
「へえ、逆に覚えやすくていいね。いつかPT組むときになったらその時はよろしくね。それじゃまた」
単に装備情報とか知られたくないし、かといってオシャレ装備なんかに金を使いたくないから全部デフォ表示に固定してるだけなんだが……まあ他人がなんて思うかはそいつの自由か。
よく分からん奴だったが、今ここにいる時点で俺たちとそれほど育成速度が変わらないってことだ。
そのうちまた会うこともあるだろう。
『ちょっと時間を無駄にしたが、気を取り直して行くとするか』
坑道はイベント用のダンジョンで、遺跡と同じくインスタンス形式になっているらしい。
常設ダンジョンを使い回すと同じ時間帯に複数PTがきた時に面倒になるから当然といえば当然か。
内部は坑道とは思えないくらい随分広い通路が続いていて、明らかに戦闘ができるような設計になっている。
狭い空間での戦闘もまた楽しいものだが、イベントで通過するマップでそこまで難易度を上げる必要は無いだろうという考えだろう。
『来るよー、全部で四体! 【フォースアトラクション】!』
先行していたカズーの合図で坑道での初戦闘が開始された。
上位クラスであるパラディンになったことで覚えた範囲ヘイトスキルのおかげで、今までは一人で抱えきれなかった数でも問題なく支えることが出来るようになっている。
『うわ、結構痛いなあ。それなら――【フォートレススタンス】!』
続いてカズーが使用したパラディンスキル【フォートレススタンス】は移動速度を犠牲にする代わりに防御力を上昇する、タンク必須のスキルだ。
避けたほうがいい場面ではもちろん使えないが、今回のように単純に耐えればいいだけの狩りなら非常に使い勝手がいい。
『とりあえずうちが一通り属性矢うって属性調べますわー!』
『よろしくおねがいします』
遭遇したのはコボルトナイト、コボルトランサー、コボルトメイサー、コボルトアーチャーの四種類。どいつも初戦闘となるので、まずは有効な属性を調べようという作戦だ。
アーチャー系クラスの利点として、矢の種類を変えることで攻撃属性を変更できるというものがある。
即座に属性を切り替えていくにはそれなりの操作技術が必要になってくるが、うかはそんな事に手間取るようなやつではないみたいだ。
次々に各属性の攻撃が飛んでいき、そのダメージの出方でコボルトたちの弱点を明らかにしていく。
『ナイトが火属性、ランサーとアーチャーが風、メイサーは属性なしだな』
『これは私はあまり活躍できそうもない組み合わせですね……凍らせてみますか?』
『いや、まずはうかに【アローレイン】を打ってもらおう。地属性で頼む』
『了解ですー。ただ、アーチャーは遠いんで範囲内に入れられそうもないですわ』
『構わない。あっちは単体処理する感じだな』
『ほな――【アローレイン】!』
うかが放ったのはウィンドシューターのスキル、【アローレイン】。その名の通り、矢を雨のように降らせて中範囲に大ダメージを与える強力な攻撃だ。
昔からこの手のスキルはやたらと強いってのがお約束なんだが……乙ではどうかな。
スキル発動と同時に、カズーに群れているコボルト達めがけて怒涛の勢いで矢が降り注ぐ。
効果音こそ軽いものの、爆発音を幻聴してもおかしくないほどの激しさだ。
当然、浮かび上がるダメージカウンターも爽快なことになっている。
『うわあ、すごいスキルだね……ランサーなんてもう倒しちゃってるよ』
『自分で打っといてアレやけど、こりゃちょっと強すぎますわ。ナーフ確定ですわ』
『あぁ、ちょっと強すぎるな……前衛火力とかこれいらんだろ』
3秒間ダメージの雨を振らせた結果、弱点属性をついたコボルトランサーには合計18kのダメージを与え、無属性のメイサーにはおよそ11kのダメージ、そして地属性に多少の抵抗がある火属性のナイトですら8kダメージも叩き出している。
一撃で倒せたのはランサーだけとは言え、1次クラス時代とは比べ物にならないダメージ量にさすがの俺たちも驚きを隠せずにいた。
moniに至っては自分の存在意義を奪われたように感じているのか、反応すらしていない。
『よし、じゃあ次はmoni、コボルトナイトに水属性の単体火力頼む。倒せるまで打ってくれ』
『……わかりました』
うかのド派手な演出とは対照的に、moniは堅実に【アイスボルト】と【ウォーターエッジ】の二発をスムーズに繋げてコボルトナイトを討伐した。
moniの担当はこれでとりあえずよさそうだな。
『んじゃ次は……もう一回うかいってみるか。アーチャーに単体火力頼む』
『せやったらこれかなぁ。よっと』
そう言ってうかは高く飛び上がり、空中でそのまま弓を構えはじめた。
当然、その間落下はしていない。
『【エアリアルショット】!!』
ウィンドシューターのアビリティ、【エアリアル】との組み合わせスキル【エアリアルショット】。
【エアリアル】は自身のジャンプ力を最大3Mほどまで高めた上で、空中に3秒ほど滞在することを可能にするアビリティだ。
これ単体でも攻撃の回避に非常に便利なものだが、空中滞在中に打つことで威力を倍増出来る攻撃スキル【エアリアルショット】との組み合わせによりその真価を発揮する。
強烈な風切り音とともに放たれた矢は寸分違わずアーチャーの胴体を穿ち、またしても12kという高ダメージを叩き出している。
しかし残念ながら確殺とはいかなかったようだ。
『うーん、やっぱこの辺やとアーチャーでもタフなんやなぁ。追撃してもええですか?』
『ああ、アーチャーの処理は基本的にうかに任せたいから頼む』
そう言うとうかは消費SPの少ない、【ダブルショット】をひょいと一撃はなった。
『あ、倒せたね。もしかしたら瀕死だったのかな? それならちょっと次試したいことあるけどいいかな?』
『ん? ラフがそんな事言うなんて珍しいな。なんか追加で出来るバフとかあったか?』
『バフじゃなくてデバフだね。シャーマンで覚えた属性抵抗落とすスキル入れたらさっきのエアリアルショットで一撃なんじゃないかなって』
『ああ、ありそうだな。んじゃ次はそれ試してみてくれ。んで、残ってるメイサーはちょっと俺がやってみる』
戦闘時間を考えても、消費SPのことを考えても、なるべくアタッカー全員に均等に活躍させるのがいい。
それにメイサーは無属性。弱点をつけない場合は物理火力のほうが適切に処理できる場合が多いから、こいつは俺が担当するのがいいはずだ。
コボルトメイサーにフォーカスを合わせ、また自身の位置もきちんと調整した上でスキルを発動する。
――【スターグリッター】
発動直後、俺の体がまるで星になったように煌めき、高速移動しつつメイサーを斬り抜けていった。
まずは一撃。
だがこのスキルはそれで終わらない。
斬りつけながら前方に移動した体を180度回転させ、再び元の位置に戻るように再度敵の体を斬りつける。
高速二連撃スキル。それがこの【スターグリッター】だ。
単純に威力が高い上、発動も早いので使いやすいのはもちろんのこと、このスキル最大の特徴は無敵時間が発生することにある。
同じくソードマスターの【剣気練纏】というバフスキルが条件になってはいるものの、このバフは常時かけておくものなので条件を満たしていない状態はほとんどありえない。
無敵時間を作りつつ強烈なダメージを与える。前衛にとってはかなり理想的なスキルだ。
『うかの攻撃を見た後だとどうしても見劣りするな……』
『ははは、まあ後衛のほうが火力出るっちゅーのはお決まりですから』
俺としてはこの一撃で決めたかったが、メイサーはまだ健在。
与えたダメージも4.8k程度と先程までのうかのダメージに比べれば全然低い。
これでも1次クラス時代と比べればかなり出るようにはなっているんだが、防御能力がそこそこあるおかげで攻撃力が低めに調整されているのはやはり損だな。
まあでも、他にもスキルはあるから問題ない。
それに、ソードマスターにはなかなか便利なスキルもある。
今回はそれを試してみるか。
カズーは……よし、空気を読んで攻撃しないでいてくれてるな。
これなら使える。
そして俺は次の攻撃スキルを発動した。
――【セカンド・ワン】
発動直後、俺の体が再びシステムアシストにより自動的に動いていく。
今度の動きは非常に単調だ。
ただゆっくりと、無心で持っている剣を振るう。
派手さのかけらもないシンプルなモーションだが、このスキルの効果は絶大だ。
たったそれだけの動きで、4.8k程度のダメージを叩き出した。
『お、倒せたな。メイサーはこの組み合わせでいけそうだ。ちょっとSP消費が激しいがまあ回復かかってるし問題ないだろう』
先程発動したスキル、【セカンド・ワン】はこれ単独ではほとんど何の役にも立たないスキルだ。
効果は単純。対象に与えられた直前の物理ダメージを再び与えるというもの。
他プレイヤーの攻撃も効果が載ってしまうので、乱戦では非常に使いづらいがうまく調整すれば非常に強力なスキルとなる。
ちなみにアローレインのように、ヒットごとにダメージ判定が分かれているタイプのスキルとは非常に相性が悪い。
今回使った【スターグリッター】2段ヒットに見えるが実際の計算は一撃扱いだから有効に使えた、というわけだ。
『抱えるのも全く問題ないよー! もう少し増えても全然余裕ある感じ! あとコボルトは人型だね、途中で試しにカプリスキャット外したらダメージ増えたから』
『そのへんも調べてくれてたか、サンキュー』
『私はしばらくあまり活躍できそうもないので早くソーサラースキルを上げたいですね』
とりあえず坑道を進むのは問題なさそうだ。
リキャストタイムの問題はあるが、そのへんは個別処理をうまく挟めばなんとかなるだろう。
[委員長メモ]
「【アローレイン】は強力だけどリキャストタイムが長め」




