0-3. Oblivion Online
次のタイトルこそは……その思いを抱き続けてもう何年たっただろうか。
次々と発表されるVRMMOに挑戦し続け、その度に俺は絶望してきた。
圧倒的自由度、究極のリアリティ。
奴らは壊れたレコードみたいに同じフレーズを繰り返す。
AI技術の発達はネトゲにもふんだんに活用され、自己学習による自動シナリオ生成や自動スキル生成など、リアリティのためにどんどんゲームらしい制限は撤廃されていった。
それらは確かにゲームとは思えないほどの自由度とリアリティをもたらした。
だが同時に、製作者すら意図しないリアルチート野郎のための専用スキルを生み出し、ゲーマーが求める平等なゲームは破壊されていく。
本来ならこういう要素は手を加えられるはずなんだが、世の流れがそれを許さない。
これこそがリアリティだと世間は擁護し、マジョリティが認めるなら金のために運営会社は看過する。
それが気に食わない少数のゲーマーは、涙をのむしかない。
俺のように。
嫌なことは忘れて新作ゲームでも探そうと考えARモニタを表示すると、視界の端で通知が光っているのに気がついた。
この通知は……Agoraか。
Agoraというのはいわゆるソーシャルネットワークサービスだ。
VRAR時代に突入後、いの一番に名乗りを上げたそれはまたたく間に従来型の同種サービスたちを駆逐し、全世界でシェアNo.1の座を勝ち取った。
ネット弁慶である俺ももちろんアカウントをもっており、趣味の合う仲間とは時々やり取りをしている。
もっぱら独り言をつぶやくばかりではあるけどね。
で、誰から何のようだ?
Agoraごときでいちいちフルダイブする気にもならないので、そのままARモニタを拡大する。
ああ、こいつからか。
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:ラフ
@トンヌラ LBOクリアおつー。ついでにおもろそうなゲームみっけたよ
:トンヌラ
@ラフ おつあり。リンクくれ
:ラフ
@トンヌラ ほいこれ。今回はまじで期待できるよ ->link
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このラフってやつは俺のネトゲ仲間でありとても趣味の合う、腐れ縁のフレンドだ。
もちろんネット上だけのな。
さっきLBOを引退したってつぶやいたのに反応したみたいだな。
あ、ちなみにトンヌラってのが俺のAgoraでのHNだ。
さて、ラフが見つけてきたゲームのサイトでも見てみるか。
ラフも期待できるって言ってるし、今度こそ当たりだといいんだが……。
そのサイトに描かれていたのは、巨大な浮遊大陸のイラストと、ありがちな格好いいキャラクタの立ち絵。
この浮遊大陸が舞台になるってことなんだろう。
キャラ絵は特にいうことなし。
で、キャッチコピーが……。
「『これはリアルではない、ゲームだ。』か……随分ストレートに来たな」
これだけみて、正直なところ俺は少しだけ期待してしまった。
今までやってきたVRネトゲのキャッチコピーは、どれも似たり寄ったりで、やれ新しい世界に旅立とうだの、やれ第二の人生を体験しようだの、やれ魔物にもなれるだの、要するに自由度が高いことを言い換えただけのものばかりだった。
けれどこのゲームは違った。
まるで俺たちのような人種のために作りましたと言わんばかりのフレーズ。
ゲームはゲームだ、リアルじゃない。だからゲームとして存分に楽しめ。
世の流れに逆行するその強気な姿勢は、とても好感がもてた。
「『Oblivion Online』、ねえ。略してO2ってとこか。日本語にすれば『忘れられたもの』って感じかね。なかなか俺好みだ」
トレーラームービーを見る限りでは本当によくあるMMORPGという感じだったが……端の方に気になる記載を見つけた。
※当作品はゲームバランスに関わる全ての事項の調整を人力で行っています
これはつまり……AIで自動的にコンテンツが作成されることがないって意味だよな?
もし本当にそうだとしたら、ついに見つけたのかも知れない。
俺たちのユートピアを。
「クローズドβテストが来月開催か。これは応募するしかないな」
こうして俺は、運命を共にするゲーム、『Oblivion Online』と出会ったわけだ。
[!] TIPS
■Agora
全世界でトップシェアを誇るソーシャル・ネットワーキング・サービス。
かつてはTから始まる文字数制限投稿サービスがもっとも優勢であったが、思念接続技術が発表され、フルダイブVRやAR技術が普及した今ではそれらに対応しているAgoraに軍配があがることになった。
最大の特徴は、やはりフルダイブコミュニケーションシステム。
Agora内に作成したアバターを操作し、ルームに招待したユーザーと実際におしゃべりが可能。
また、単にチャットするだけでなく、ルーム内で一緒に動画配信サイトにアクセスして一緒に動画を視聴したり、仮想世界内でゲームをすることすら可能である。
また、フルダイブを利用せずに単にブログを書いたり、つぶやきを投稿することも可能である。
コミュニティという機能を利用すれば特定の話題に興味がある人々だけで集まることもできる。