2-4. 最低最悪のパーティ
ああ、あのとき俺はよくキレなかったなと自分のことを褒めてやりたい。
誘われたから臨時で入ったパーティ。
あれは本当に最悪の体験だった。
いや、臨時なんてのはあんなもんだってのは頭では分かっているんだが、しばらく快適なパーティ狩りをしていたせいですっかり忘れていた。
まずはじめに俺がちょっと嫌だと思ったのは、PT加入直後に堂々とオープンで自己紹介をはじめたことだ。
乙ではプレイヤーネームはデフォルトで見えないようになっている。
PTに入るかフレンド登録するかでシステム的に正式に関わり合いを持ったとき、初めて見えるようになるのだ。
それは無用なトラブルを避けるためでもあるし、そもそもPKのないこのゲームで名前なんて見える必要ないからという理由もあるんだろう。
とにかく、システム的に名前が見えないんだから本人の許可なく人の名前を言いふらすのはマナー違反と言える。
それをよくもまあ、オープンで人の名前を呼んでくれたもんだ。
あいつらが自分の名前をペラペラ言い出すのは構わないが、初対面の俺の名前をバラすのはよくないだろう。
その時点での心象は最悪だったが、狩りさえ始まってしまえばそんなことは気にならなくだろうと思っていた。
いくら構成が悪いとは言え、曲がりなりにも二日間で15まで育て上げたんだ。
それなりに動けると踏んでいた。
ところがだ。
狩りを始める前に、指示出しをしているのは誰かと聞けば誰もそんなことはやってないとか言うし。
俺が前を歩くって話なのにあのアイって女はやたらと俺の近くを歩いているし。
その時点で俺はもう、こいつらはパーティプレイってもんを理解してないなと悟ったね。
そりゃ熟練してくれば誰かが指示を出さなくてもうまく連携できるかもしれないが、自分の体を動かしてプレイするVRゲームでは一人ひとりの視野が非常に狭くなるから、想像以上に連携を取るのが難しい。
だから全体を見て要所要所で指示出しをする担当を決めておくのがセオリーなんだが、そんなことすら知らないと来た。
それにタンクである俺の近くにいたら、前から来たmobのタゲが必ず俺にくる保証がなくなってしまう。
戦闘陣形への移行にも時間がかかってしまうし、仲良く遠足しに来てるわけじゃないんだから移動中に気を抜くなんて言語道断だ。
とはいえ、俺も大人だ。
まだ狩りが始まったわけでもないし、堪えることにした。
そして初戦闘が始まったわけだが……これがもうひどかった。
その時、俺はまだホプライトにチェンジしただけの状態だったからヘイトスキルが【プロヴォーク】しかなく、二体同時にタゲを固定することが出来なかった。
だからあのアイって女に一体任せたわけだが、なぜかあいつは俺が【プロヴォーク】をかけたゾンビに【プロヴォーク】をあてやがった。
一応既に2発程殴りを入れていたからタゲは流れなかったが、しかしその時点でスケルトンが完全にフリーになってしまったことになる。
直後にスキル攻撃を入れてタゲを回収したみたいだが、ダメージ量が低すぎて当然ヘイト値もまともに稼げていない。
あれではパイロが魔法を放った瞬間に後ろに流れていくのは目に見えていた。
にもかかわらずあの下手くそはタゲを固定できたと安心しきって、大声でもう攻撃していいなんて抜かしやがる。
挙句の果てにあいつは俺からどんどん距離をとっていくから、【ファイアレイン】で二体同時に倒せなくなってしまった。
慌てて俺はゾンビを単独撃破する方針に切り替えたわけだが。
つーかパイロの男も状況を見てなさすぎる。
明らかにタゲ固定に失敗しているのに【ファイアレイン】を使うとかいい始めてるし、仮に固定できていたとしても判断がおそすぎるし。
あれだけ時間があるなら先に俺が抱えているゾンビに一発【フレイムランス】あたりを入れておいても良かっただろう。
メインタンクとサブタンクが一体ずつ抱えている状況でサブタンク側から優先して処理するのは理にかなっているが、余裕があるときに何もしないのなら優先度をつけている意味がない。
ああでも、ハンターの男の動きは悪くなかったな。
つーかあのパーティはハンターの男とプリーストの女のおかげでなんとかなってる節がある。
あの時も足止め用の【バインドトラップ】がなければパイロ男がスケルトンに取りつかれてグダって死んでた可能性が高いし、さり気なく俺がゾンビを抱えているところに攻撃用の【フローティングマイン】を投げ込んできて、処理を手伝ってくれていた。
プリーストの女は目立った動きはしていなかったが、俺と下手くそランサー女の被弾状況を冷静に判断して、無駄なく【ヒール】や【ハイヒール】を使い分けていたように思える。
その上俺がスケルトンに攻撃するとき、すぐにその動きを理解して光属性付与魔法である【アスパージョン】を差し込んでいた。
いやこうして改めて振り返るとあの地味そうなプリ女なかなか素質あるんじゃないか?
とにかく、あの初戦闘以降、あいつら――正確にはランサーとパイロの二人――を信用するのは完全にやめた。
基本的に戦うのは【トーント】を覚えた俺がタゲを固定できる2体まで。
3体目が湧いてあの女に任せることがあっても、常に視界に入れておいてフォローが出来るようにしておく。
タンクではあるが自分でも火力をしっかり出して戦闘を長引かせないようにする。
これを実行することで、俺はなんとか自身の精神状態を保つことが出来た。
いつまで経ってもゴミランサーは位置取りがおかしいままだし、ぼけぼけパイロは何も考えてなかったが。
つーか一時間狩りしてまだ目標レベルの15に達してないのか……。
やっぱオーク森はうまいんだな。
残りの分は適当にIDでも周ってくるか。
20IDならすぐ達成できるだろ。
[委員長メモ]
「ハンターは器用貧乏な上に罠代がしんどいので不人気」




