2-3. 誘ったのはいいけど、大丈夫かなあこの人……
「ま、まあみんな誰でもクラスチェンジしたての時期はありますし、すぐ上がりますから大丈夫ですよっ」
こんなことを言ってみたものの、私は正直やっちゃったかなあと思っていた。
土曜日にこのゲームをみんなとプレイし始めてから三日目。
カインが情報収集を頑張ってくれたおかげで結構スムーズにレベル上げが出来て、そろそろ遺跡を卒業していろんな狩場を見てみたいねってみんなで話をしていた矢先のことだった。
ここまでは私が前衛で、苦戦することはあったけどそれなりに上手く狩れていたんだけど、さすがに上の狩場目指すなら専業のタンクがいたほうがいいって話になったんだ。
だから今朝から街を歩いて、ソロでホプライトをやっている人を見つけたら声をかけようと思っていたんだけど……。
その声をかけた人っていうのが、まさかホプライトなりたてだったなんて。
よくよく考えてみれば服装も初期装備のままでプレート装備をしていないんだから当然といえば当然なんだけど、その時の私は朝から声を掛ける人全員に断られ続けていて焦っちゃってたみたい。
ホプライトのレベル上げをしようかな、なんて声に誘われるがままに、気がついたときには私は声をかけていた。
ちょっとだけ会話はぎこちない気もしたけど聞いてくる内容は要点を押さえていたから、「ゲーム慣れしてそうだし大丈夫かな」って安心したんだけど、最後の一言で一気に不安になった。
レベルが低いだけでそういう判断をするのは良くないって分かるんだけど……クラスチェンジした直後にレベル上げするなら迷わず遺跡に行けばいいのにこんなところでダラダラしてる時点で、ね?
『おい、こいつ本当に大丈夫かよ?』
『どうなんでしょう……私達だって別にレベルが高いわけではないですし、あちらの方がレベル低いってだけでやっぱり誘うのをやめるっていうのは失礼にあたりそうで』
『僕はどっちでもいいかな。レベルならすぐ上がると思うし。ま、当たりとはいい難そうだけどね』
後ろでも、PTチャットを利用して三人が相談してるみたいだ。
やっぱりみんなもちょっと不安みたい。
「そちらさんが大丈夫って言うなら試しに入れさせてもらおうかな。敬語はちょっと苦手だから言葉遣いがおかしくても気にしないで欲しい、です」
「一緒に組むんですからその辺は気にしませんよっ。とりあえずよろしくです、ええと、申請飛ばしますね?」
もう言い出しちゃったんだ、仕方ない。
ダメだったらダメでいい勉強になったと割り切ろう。
えっと……PT申請っと。
そう言えば名前聞いてなかったな。
私達も自己紹介してなかったし、PT入ってもらったらちゃんと自己紹介しよう。
――「A4」プレイヤーがパーティに加入しました。
ふうん、この人こんな名前なんだ。
ちょっと変わってるね。
「よろしくね、A4さん! あ、私はアイって言います!」
「あ、ああ……よろしく頼みます」
それから私達の名前と、各自のクラスを改めて紹介した。
私がランサーでナギがプリースト、カインがパイロマンサーで、ヤクがハンターだ。女の私が前衛で男二人が後衛っていうのにちょっと驚くかな? って思ったけど、意外にもA4さんは特に驚いた様子を見せなかった。
よく分かっていないのか、それとも性別であんまり差別をしない人なのか。
ま、どっちにしてもうまくやれるよう祈るしかないかな!
ただ少し気になるのはA4さんがレベルを非公開にしてることなんだよなあ。
初期設定だとPTメンバーには公開になってるはずだから、わざわざ隠してるってことだけど、なんでだろう?
やっぱりレベル低いのバレると追放されちゃうとか思ってるのかな?
「あ、皆さんはバーランのターミナルは解放済みですか? 俺はもう解放してあるんですぐ飛べるんですけど……」
「私達も昨日のうちに行っておいたので大丈夫ですよ! っていうかもう解放してるってことは結構冒険するの好きなタイプです? このゲーム、VRなだけあってマップ歩いてるだけで楽しいですよね!」
「え、ああ、はい、まあそんな感じ……かな?」
なんだ、この人エンジョイ系のプレイヤーってやつなんだ。
それなら動きにくいプレート装備をしてないのもちょっと分かるかも。
「いいから早く行こうよ。せっかく組めたんだから狩りしなきゃ時間がもったいないよ」
「あ、ごめんごめん、ヤク。じゃあ準備できた人からバーランダンジョン入口前に集合ってことで!」
◆ ◆ ◆
「一応俺臨時メンバーってことなんで、基本的に指示に従うようにしますね。えっと、普段は誰が指示出ししてる感じです?」
ダンジョン前に全員揃い、いざ入ろうとしたところでA4さんがそんなことを聞いてきた。
指示出し? どういうことだろ。
「うーん、指示出しとかは特に誰もしてないかな? 一応リーダーは私ってことになってるけど」
そういうと彼はなんだか微妙な顔を一瞬だけして、けれどすぐに表情はまたもとに戻って、それならアイさんに従うようにしますと言ってきた。
別にそんなこと気にしなくてもいいと思うんだけどなあ。
真面目なのかな?
まあ、初めての臨時パーティだし、やり方は確認しながらのほうがいいのかも。
「じゃあ、A4さんにタンクお願いするので、前お願いしますね。他のみんなはいつもの感じで!」
「了解です」「はい、がんばります」「りょーかい」「わかったよ」
ダンジョンに足を踏み入れると、途端に空気がひんやりとした不気味なものに切り替わった。
遺跡とも違うこの独特の感覚はまさにダンジョンに侵入したという感じがして、私の冒険心をくすぐってくる。
事前情報だと1Fにはゾンビとかコウモリがでるんだっけ。
見た目が怖かったらやだなあ。
そんなことを考えながらドキドキ気分でA4さんの半歩後ろを歩いていると、ふと何かに気がついたように彼が立ち止まった。
「いますね。二体。ゾンビとスケルトン一体ずつかな。さっきも言いましたけど俺まだ【トーント】取れてないんで、今回はアイさんに一体抱えてもらう感じでいいですか?」
「え? ああ、うん、わかったよ。えっとどっちを――」
「それじゃいきますね」
どっちを私が持つのか聞こうとする前に、彼は駆け出していってしまった。
体から赤っぽいオーラが飛び出していくのが見える。
走りながら【プロヴォーク】を使ってるみたいだ。
うわ、なんだか彼……すごい慣れてる感じがする。
その駆けていく速度自体も結構早くて、本当に私達よりレベルが低いのかちょっと疑わしくなってきた。
っていうか少し敏捷に補正がかかってるランサーの私よりも早い気がする。
おっといけない、私も自分の仕事しなくっちゃ。
あれ? 結局私はどっちに【プロヴォーク】をかければいいんだろう。
聞きそびれちゃったけど……。
えーい、適当にうっちゃえ!
「【プロヴォーク】!」
既に交戦中のA4さんの元に駆け寄って、適当にフォーカスのあった方にヘイトスキルをぶつける。
当たったのは……ゾンビの方だ。
こっちでいいのかなと不安になりながらもとにかく流れてくるタゲに備える。
……あれ?
タゲが流れてこない。
もしかして失敗した?
どうしよう、まあなんとかなるかな?
仕方がないから【ヘヴィスラスト】をスケルトンのほうに叩き込んで、それで抱えよう。
多分A4さんはダメージをあんまり与えてないと思うし、タゲを取れるはず。
「【ヘヴィスラスト】!」
よしっ、ダメージもそこそこ出たしスケルトンがこっちに移動を始めた。
大丈夫そうだ!
あとはいつも通り避けながらカインとヤクの攻撃を待つだけ……。
「そろそろ【ファイアレイン】詠唱始めるぞー」
「うん、お願い!」
「僕も罠設置しておきました。いつでも大丈夫です」
うんうん、二人ともいつもどおりバッチリみたいだ。
A4さんの方はちょっと見る余裕ないけど、音を聞く限りじゃ大丈夫そうだ。
「痛っ」
油断してたら攻撃を避けるのに失敗して、ダメージを受けてしまった。
うわあ、結構HP削れるなあ。
動きは単調だけど、さすがにダンジョンで出てくるモンスターってだけあってなかなか強敵みたい。これは頑張らなくっちゃ。
「おし、そろそろ詠唱完了するぞ!――【ファイアレイン】!」
「待ってました!」
カインがこの間覚えた大魔法、【ファイアレイン】を発動する。
全部のダメージが入るまでに少し時間がかかるけど、その分威力は大きいから今まで出会ってきたモンスターはこれだけでほとんど倒しきれていた。
今回もきっと――
「ってええ!? どこいくのっ!」
火の雨が降り出したと思った直後、何発かのダメージを受けたスケルトンはいきなりその動きを変え、私ではなくカインの方向へ向かっていってしまった。
もしかしてタゲ固定がうまくいってなかった?
こんなこと初めてなんだけど……。
「大丈夫、罠置いてあるよ」
「あっ、そうだったね!」
ああ、よかった。
保険でヤクが足止めの罠を置いてくれていたみたい。
うん、これがあるから私達のパーティはなんだかんだうまく行ってたんだ。
ヤクはとにかく気が利いてて、失敗したときに全滅してしまわないように罠で私達のことをフォローしてくれてる。
ハンターっていう職はあんまり人気がないらしいんだけど、これだけみんなのことを支えているんだから弱いなんてことは決してないと思う。
まさに縁の下の力持ちって感じかな?
っと、そんなことよりスケルトンをどうにかしなきゃ。
足止めしていられる時間は20秒しか無いから、その間に倒し切るかまたターゲットを回収するかしなくちゃ。
なんてことを考えていると、私の横をひときわ強い風が吹き抜けていった。
一体何ごとかと思っていると、ゾンビの相手をしていたはずのA4さんがスケルトンに向かって飛び込んでいくのが見えた。
「えっ!?」
直後、ものすごい勢いでA4さんの手元から閃光が走る。
スキル発動のエフェクトだ。
手に持っていた剣で下からすくい上げるようにスケルトンの体を斬り上げたかと思いきや、そのまま剣の向きを反転させ、浮き上がった敵の体に向かって今度はその武器を振り下ろした。
驚異的な二連撃。
私の知らないそのスキルで、彼はあっという間にスケルトンを撃破し、ただの崩れ落ちた骨に変えてしまった。
私達はもしかしたら、とんでもない人をパーティに誘っていたのかもしれない。
[委員長メモ]
「武器以外の見た目はかなり自由に変えられる」




