1-17. 効率のためには練習と検証が大事なんだよな
『お、ええ感じの並びやあ。ほないくでー【スパイラルペネトレイション】!』
うかがレンジャーの直線貫通攻撃スキルを放つと、カズーの華麗な誘導で見事に一直線に並んだオークの群れが心地よいヒット音を響かせながら、そのHPを大きく減少させた。
コンマ数秒単位でずれながら連続で表示されていくダメージの羅列は見ていてもとても気持ちがいい。
おっと、感心している場合じゃないな。
今のでヘイト値が溜まり、固定されていなかったタゲがうかに流れてしまう。
ここは俺の出番だ。
もともと一直線に並ぶように集められていたオークたちはタゲが変更されてもその隊列を崩すことなく、愚直にまっすぐ歩いている。
ならばと俺はすかさず予測進行方向に飛び出して妨害に出る。
ウォーリアスキル、【ダブルスウィング】を〈デクレア〉。
俺はモーションアシストに従い大きく身体を回転させ、両手に持った剣を水平方向に振り回す。
力任せで大振りなその一撃は固まって歩くオークの群れの側面を綺麗に捉え、赤くきれいなダメージエフェクトを散らした。
mobの頭上に表示されるダメージ量は先程のうかの一撃に比べれば見劣りするものの……このスキルはこれだけでは終わらない。
技名にハッキリと銘打たれている通り、【ダブルスウィング】は二段構えの攻撃だ。
全身を大きくもう一回転させ、遠心力の乗った強烈な斬撃を再度放つ。
システムに任せておけばよほど的はずれな位置で発動しない限りヒットするようにはなっているが、狙い通りに行く保証はなにもない。
特にこのスキルは当たり判定がそれほど広くないため、当てようとしたときには範囲スキルになるが当てようと思わなければ単体攻撃にしかならないのだ。
なのでここは一段目が綺麗に当たったことに慢心せず、きちんと敵全員に当たるように足を動かして位置取りを微調整していく。
オークたちは俺の初撃を受けても意に介さずうか目指して歩き続けようとしていたが、さすがに攻撃範囲から離れるよりスキルモーションのほうが圧倒的に早い。
位置調整のおかげもあって再びダメージエフェクトが多数飛び散り、結果的にオークたちのタゲが今度は俺に流れる。
既に接近していた事もあって、すぐにでも攻撃が飛んできて無視できない量のダメージを食らいそうになるが――ここまで全て予定通りの流れだ。
対策をうっていないはずがない。
タゲが流れてきても冷静さを欠くことなく、スキルモーションの余韻を利用してわずかにオークたちから距離をとる。ほんの一瞬程度しか時間を稼げない移動だが、一瞬さえ稼ぐことが出来れば充分だ。
まさに殴りかかられようとするほんのコンマ5秒ほど前、ちょうど俺が今生み出した一瞬の間に、横から新たな一射が飛んできた。
その矢は見事にオークの身体を捉え……ることはなく、急速に高度を落としそのまま俺の足元に着弾した。
……まさかこの局面で外したのか?
いや、そうじゃない。これはこれで問題ない。
直後、視界が爆煙で包まれる。
周囲5メートルほどを飲み込んだ火柱はしかし全く熱くもないし痛みもない。
ただ轟音が鳴り響いただけで、また1秒しないうちにまるで何も起きなかったかのように炎は消え失せてしまった。
ただし、その場にオークの群れの死体を残して。
【エクスプロージョンショット】。それがうかの放った、レンジャーがもつ範囲攻撃スキルだ。着弾すると爆発を巻き起こす矢を放ち、一帯を焼け野原にする技。
まあゲームだから本当にフィールドが焼けるわけないんだが、スキルレベルが上がるとともに爆発範囲が広がっていくこの技は、激しいエフェクトも相まってレンジャーの花形スキルと言っても過言ではないだろう。
ちなみにさっき地面に着弾していたが、実際はどこに当たっても効果は同じなのでオークに当てても問題ないし、なんならわざわざ落下するように調整するほうが面倒な気がする。
まあ多分あのエセ関西人なりの茶目っ気と演出なんだろう。
『うかちゃん混ぜた連携も結構サマになってきたね』
『いやぁ、皆さんほんま動きがきれーで合わせやすいですわ! レベルもグイグイ上がるし感謝感激雨あられやわぁ』
『A4っちが結構被弾のリスクあるポジションだけど、ここなら即死もしないから練習にはぴったりだね〜』
『そうだな。それにこの一時間の稼ぎもIDよりずっといいぞ。連携の練習と思ってやってたが、こりゃオープンフィールドのほうが全然稼げるデザインになってるんだな』
『まあでもソロ狩りってなると微妙なんじゃない? 確かにこのマップは美味しいけど、全部アクティブだからSP管理がきつそうだしポーション消費激しすぎて赤字になりそう』
確かに、俺らのPTにはウァテスがいてSP回復手段が用意できてるからこれだけバンバンスキルを使い続けても息切れしないが、そうじゃない奴らには厳しいか。
っと、こんな話をしてる間にも横から湧いてくるな。
『……私は物足りないですね。せっかくA4さんに買ってきてもらったゲンセリアの真髄が腐ってしまいそうです』
そう言いながら横湧きしたオークに【フレイムランス】をぶち込んでいくmoni。
何気なく放った一撃だが、属性相性が良いこともあって既にその火力は脅威の2000ダメージ超えを達成しており、一撃で倒すとはいかないまでも、軽く追撃を入れるだけで倒せる程度には火力お化けになっていた。
これでスキルレベル的にまだ伸びしろがある上に、もっと強い魔法を習得済みっていうんだから魔法職は恐ろしい。
『確かにこのメンバーならもう少し背伸びしてもいいかもな。情報収集も兼ねて行けるところまで行ってみるか』
『うちは臨時参加させてもらってる身なのでお任せします〜』
『ボクもすることなくて退屈してたから、A4の意見に賛成』
『オレっちも、も少しハリのある狩場いきたいかな〜。タンクたるもの攻撃されてなんぼっしょ!』
『私は言わずもがなです。火の雨を降らしてやりますよ』
『おし、ならそうだな、森の方に行ってみるか。あの辺りで湧きが変わってそうだと俺のゴーストが囁いている』
◆ ◆ ◆
『お、あそこに3体くらいまとまってるねー。あれはさっきのやつとはちょっと違うみたい。ええっと、名前はオークウォリアーって出てるね。片手剣持ってるし攻撃力高そう』
森と平原の境界あたりについた俺達はカズーに森の中の様子を軽く見てもらっていた。
その報告によればここで湧きが変わるという俺の予想はどうやら当たっていたみたいだ。
『とりあえず一体だけ釣って狩れるか試してみるか。moniは最初から全力攻撃で頼む。ラフはいつもより回復厚めで』
『把握しました。ようやく私の本当の実力を見せる時が来ましたね』
『おっけ』
『うちはどうすればいいやんな?』
『うかは待機で頼む。オークウォリアーのHPを確認しておきたい』
『じゃ、釣るよー』
打ち合わせが終わったのを確認して、カズーがホプライトスキル【トーント】でオークウォリアー一匹だけを引っ張り出してきた。
きちんと単体で来てるから、リンク属性は持ってないみたいだな。
よし。
戦いやすい平原部まで来たところで、moniに合図を出す。
さて、これ一発で倒せると楽なんだが、どうなるかな。
これまで使ってきたスキルに比べ圧倒的に長い、約7秒超の詠唱を終えて新たに覚えたパイロマンサースキルが発動する。
『いきます――【ファイアレイン】!』
魔法が完成した瞬間、無数の火球が上空から出現し、カズーとオークウォリアーが斬り合っているあたりに降り注いだ。
その光景はまさに圧巻。
一撃一撃の威力はそこまで高いようには見えないが、絶え間なく続く着弾音とテンポよく表示されるダメージがこの魔法の強さを示してくれる。
いくらフレンドリーファイアがないゲームとは言え、あの炎の雨の元にはいきたくないな。カズーとかよくあんなエフェクトの嵐の中で平然としてられんなあ。
さて、ダメージの方はどうかな。
『1hit辺り700弱程度、7秒間で7hitなので総ダメ4800ってとこですかね。気持ちダメが高い気がするのでオークウォリアーは地1じゃなくて地2なんでしょうか』
『あー、かもしれんな。しかし4800与えてもまだ倒せないのか。よし、次うか、【エクスプロージョンショット】頼む』
『待ってました! 爆ぜろ! 【エクスプロージョンショット】!』
爆煙が上がり、ダメージ表示が浮かび上がってくる。
1200程度か。ってことは最低でもHP6000を超えてるんだな。
こいつは一気にHP跳ね上がってるなあ。
同一マップ内とは思えん差だ。
『カッコよく決めたかったけど無理でしたわぁ。あの人随分タフなんやね』
『ちょっちA4っちたちー、結構痛いから早く倒してよ〜』
『カズーがどんくらい耐えられるかも検証のうちだから、まあ頑張れ。
よし、じゃあ次は俺が攻撃する』
適当に近づいて【ダブルスウィング】を発動。
1hitあたり450前後……2hitして900ってとこか。
しかしこれでも倒れないんだな。
全員が一発ずつ攻撃して倒せるっていうのが理想だったんだが、もう少し装備を整えるか何かしらブースト手段を用意する必要があるか?
とりあえず試しにもう一発、今度は【フォールクラッシュ】を試してみる。
こいつはウォーリアスキルの中でも特に使い勝手が良い単体攻撃スキルで、大きく振りかぶった武器をまっすぐ振り下ろし、強烈な一撃を与えるというものだ。
威力が高く、モーションに隙が少ないのでこれだけでも充分ポイントを振る価値があるのだが、この技の真の価値はレベル6以上になったときに追加される特殊効果にある。
振り下ろした一撃は対象を斬り裂いてもなお止まらず、そのまま地面に叩きつけられる。そしてスキルレベルが6以上になっているとその衝撃で砕けた大地が飛び散り、前方方向にダメージ判定を発生させるようになる。
つまり、単体攻撃+範囲攻撃の複合スキルとなるわけだ。
今回は対複数戦を想定して、必要ダメージ量を満たせるか判断したいので直撃はさせずに範囲攻撃部分を当てるようにする。
こういう使い方が出来るのがいいんだよな。
『お、倒せた』
『なかなか手ごわい相手でしたね』
『ふぃー、さすがにのんびり戦闘だと被ダメきっついねぇ。A4っち、実際何秒くらいで倒せそう?』
『そうだな、HPは高くても7500ってとこか。【ファイアレイン】詠唱開始から全弾hitまで大体14秒だから……長くても18秒だな。カズー何体耐えられる?』
『んー安全に抱えるなら3体かなあ。でもタゲ固定のこと考えたら結局2体しか抑えられないんじゃないかなー? 一体はA4っちに持ってもらうことになりそう』
『まあそれもそうか。このレベル帯で範囲狩りは想定されてないんだろうな……。ちなみに俺の予想じゃこいつは人種族だと思うんだが、カプリスキャットは使う必要ありそうか?』
『ちょっち痛いけど、2体しか抱えないならいらないかな! まだ温存でよさそ〜』
『おけ。んじゃ2体までのときはカズーに全任せ、3体なら俺が一体抱える形で。で、アタッカー陣の流れなんだが……』
基本的な戦闘の流れと緊急時の対応について軽く打ち合わせたら、いよいよオークウォリアー狩りに挑戦だ。
さて、時給はどれくらいでるかな?
[!] TIPS
■ ゲンセリアの真髄
moniがちらっと言及していた、火力アップアイテム。
装着部位は腕。効果は魔法攻撃力+20。
A4がマケ巡りの末見つけてきた高性能な真髄。
翌日迷わずmoniに渡そうとしたら、moniにきっちり元の値段で買い取られた。
お値段たったの150k。
後々M級(価格がM単位のもののこと)真髄になる。
参考までにこの出品者がなぜこの価格でだしたのかを記載しておくと、まず現状のvaal流通量的に100kを超えるのは充分高いという認識だったこと。
また、出品者自身が魔法職ではなかったこと。
+20という値が高いのか低いのか判断できるほどこのゲームをまだ理解していなかったこと。
これらの要因によりあっさり手放し、しかもA4的に非常にお安いお値段で売ることになったわけである。
■ マップ内のmob分布
mobの出現情報はマップごとに分かれているだけでなく、マップ内でも更に分布が決まっている。
一つ一つのマップがそれなりに広く、また徐々に地形が変化するようなデザインになっているので、このようになっている。
現在A4たちがいるマップのように、同一マップ内で出現するmobのレベルが大きく違うこともある。
■ リンク属性
戦闘が開始されたとき、そのmobとは異なる個体が反応し、追加で襲ってくる設定になっていることをリンク属性持ちなどという。
同一種同士でリンク属性になっている場合が一般的だが、時折別種なのにリンクしてくることもある。
遠くから一体だけ釣ったつもりがリンクでどんどん引っ掛けて処理しきれないほどの数になってデスペナをもらう……なんてことは珍しいことではない。
新しい狩場ではリンク属性があるかどうかは丁寧に検証して進めよう。




