1-16. その行為が寄生でないと言うならば
「で? 一体なんの用なんだ?」
狙っていたアイテムと新たに見つけた掘り出し物を買い終えた俺は、勝手についてきたエセ関西弁の少女に問いただしていた。
ちなみに場所は移動して、誰もこなそうな路地裏にきている。
……別にこいつをどうこうしようっていうんじゃないぞ?
「いややなあおにーさん、こんな人気のないところに連れ出して。襲っちゃやーよ?」
「……帰っていいか?」
「ごめんごめんごめんて! ちょっと悪ふざけしただけやないのー。もー、おにーさんやっぱり効率厨なんやね」
くだらんことを言い出したからその場を去ろうとしたら、少女が慌てて引き止めてきた。悪いと思うなら最初からするなっつうの。
ってかいま聞き捨てならないセリフもいってたな。
「やっぱりってどういうことだ?」
「そんなん、こんな序盤に使い道もほとんど無い割に偉い高い真髄買ってる時点でタダの阿呆か本当によく分かってるベテランかのどっちかですやん。
で、その上おにーさんはたかがゲームなのにうちのおふざけにも乗らず時間を大事そうにしてらっしゃる。
ついでに言えばあれだけ高額な買い物を立て続けにしてるっちゅーことは二日目にしてかなり稼いでるってこと。
高額レアを出したか効率重視で長時間狩りをしたかのどっちかに絞れるわけですけれども、この序盤で高額レアなんてたかが知れてます。
てなわけでおにーさんはガチなプレイヤーでかなりの効率厨って見立てですわ」
「……なるほどな。話を聞こうか」
こいつ……見た目と言動によらず随分頭の切れるプレイヤーだな。
ほとんど会話らしい会話もしてないにも関わらず、状況と少しの間の俺の行動を見ただけでそこまで言い当てるとは。
何よりこの言い方、あの真髄の価値を分かって言ってるな。
「そうこなくっちゃ! あ、やけどオープンやと聞かれる可能性もあるし、wisでええやろか? PT組んでないならPTでもいいんやけど」
「じゃあwisで頼む。PTは組んでるからな」
「ほな名前知りたいしフレ登録頼んますー」
そう言うと少女は俺に向けてフレンド登録申請を送ってきた。
えっと名前は……「うか」っていうのか。
なんだか随分気の抜けるような響きだな。
とりあえず承認っと。
うか To:A4 『あーあー、聞こえます?』
A4 To:うか 『ああ。それで?』
うか To:A4 『おにーさんの名前なんだか変わってますね。まあどうでもいいんですけど。さて、用事ってのはおにーさんのその腕と先見の明を見込んで頼みたいことがあるんです』
A4 To:うか 『ふむ、続けてくれ』
うか To:A4 『おーきに。えっとですね、簡単に言えばうちを一時的にPTにいれてほしいんです。具体的にはキャラレベルで20になるまで』
A4 To:うか 『……ブロックしていいか?』
何いってんだこいつは。
寄生させろってことか?
うか To:A4 『あー、待って待って! 何も寄生させてくれって意味じゃないんです。おにーさんならレベル20の意味くらいわかりますよね?』
レベル20か。
一つ考えられるのは次の遺跡の入場制限。
二次クラスのオーブが手に入る最初のIDの侵入可能レベルは20だったはずだ。
ただもしそれが目的なら、別に俺を頼る必要はないだろし、一時的にっていうのも意味不明だ。
現状俺たちのPTは最上位に位置していると言っても過言じゃない。
もちろんそこまで見抜いているとは思わんが、少なくともこいつの見立てでは俺はかなり効率よく進めていることになっている。
ならばそんなPTに入って20まで一緒にあげるんだったら、そのまま固定メンバーになりたいと思うはずだ。
つまりこいつの目的は狩りにおいてトッププレイヤーになることじゃない。
となると20で解放されるコンテンツが目的と考えるのが自然だろうな。
A4 To:うか 『ジョブシステムか』
うか To:A4 『そーゆーことです! いや、ほんま話が早くて助かります。公式サイトをろくに見ないプレイヤーが多い昨今、しっかり各コンテンツの解放条件を把握してらっしゃるとは!』
ジョブシステム、あるいは職業システム。
クラスが戦闘に関わる"職業"だとしたら、ジョブは生産行為のための"職業"だ。
O2ではキャラレベルが20に到達した時、クラスとは別にジョブを一種類選ぶことができるようになる。
ジョブは該当する生産行為を繰り返すことでのみ熟練度を稼ぐことができるため極端な話、生産職を極めようとするなら一切狩りをする必要はない。
というか、狩りをしてる暇があったら生産し続けるくらいでないとまずトップにはたどり着けないと予想している。
実際のところどの程度生産職が重要な位置づけなのかまではcbtで到達できてない以上断言できないが、公式サイトに載っている情報やこれまで発表されてきたゲーム系メディアの記事を信じるなら、少なくとも死にコンテンツではない。
A4 To:うか 『つまりお前は、生産職でトップを目指しているから俺に手伝えと言いたいわけだ』
うか To:A4 『ま、簡単に言ってしまえばそーなりますなぁ。正直ソロだと育成遅ぎるんですよ』
A4 To:うか 『ふざけるな……と言いたいところだが』
うか To:A4 『おにーさんにも利益のある話でしょ?』
そう、これは実際願ってもない提案だ。
こいつがどの職業を極めようとしているのであれ、生産でトップにたどり着くようなやつとコネを持てるのはかなりのアドバンテージになる。
強力な装備、品質の良いポーション。
上を目指すなら絶対に必要なそれらが手に入りやすくなるなら、今多少不利益を被っても最終的にお釣りが返ってくるレベルだ。
その上、こいつは弓使いだ。
PSはどうか知らんが、火力役が一枚増えるなら狩り効率も上げやすくなる。
新しい狩場を探そうと思っていたところだから、攻撃パターンが増えるのはかなりありがたい。
A4 To:うか 『一応聞いておく。どの職業にするつもりなんだ?』
うか To:A4 『ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました! うちは何を隠そう生まれも育ちも生粋の商人。商人と書いてアキンドと読む。うちこそが日本一の物売りでさぁ!』
A4 To:うか 『商人か……そいつはいい。かなりいいな。それに納得もいった』
うか To:A4 『あ、少しくらいツッコミを入れてもらってもいいですか……』
ノリはともかく、商人とのコネは一番欲しかったものだ。
生産職の中では異色の存在、アイテムを生み出さずお金を生み出す生産職。それが商人だ。
出来ることは唯一つ、物を売り買いすること。
NPC商店との売買時にボーナスが付き、レベルが上がればやがて自身の商店を持てるようになる。
それが特徴なんだそうだ。
俺の見立てでは、生産職の中では商人とさえ繋がりが持てれば他とは無理に関わろうとしなくてもよくなるはずだ。
というのも、その商人自身が利益を生むために他の薬剤師や鍛冶師などとのコネを作るはずだから、俺たち利用者は彼らが仕入れてきた良質なアイテムを手間を一切かけず購入するだけでよくなるためである。
A4 To:うか 『よし、いいだろう。お前が商人だっていうなら一度信用しておいてやる』
うか To:A4 『おにーさん、商人ちゃいます。商人です! ここでの恩にはきちんと報いさせてもらいますよー。贔屓にしますー』
A4 To:うか 『とはいえPTに入れるなら一応メンバーの了承を取る必要があるからな。それと、お前はどの程度ログインできるんだ?』
うか To:A4 『ああ、うちはリアルじゃニートみたいなもんなんで四六時中いけますよ』
A4 To:うか 『なら問題ないな。明日も俺たちは朝9時から活動予定だからな』
うか To:A4 『うひゃー、さすがガチ勢。朝から夜までぶっ続けですかあ。こりゃ思った以上にレベル差ありそうやな』
そういやこいつのレベルもクラスも確認してなかったな。
聞いておくか。
A4 To:うか 『俺らはキャラレベルで17だな。お前は?』
うか To:A4 『おー、お高い。うちは12でちょうどアーチャーをマスターしたところですわ。キリがいいんでマケを3時間ほど見て回っとったんです』
レベルは低いが、思った以上に商人としての素質ありそうだな。
しかしそうするとどのクラスでも俺の言ったとおりになってくれるのか?
A4 To:うか 『次のクラスは何にするつもりだったんだ?』
うか To:A4 『あー、ソロなんでスナイパーにして一確狩りでもって考えてました。でもSP考えると微妙なんですよね〜』
A4 To:うか 『まあそうだろうな。うちのPTに入るならレンジャーをやってもらえると助かるがな』
うか To:A4 『せやったらレンジャーにしときますー。もちろんA4さんのPTに入れてもらえたらですけど』
その後もいくつか質問をして、今日の所は解散することにした。
ああ、狩場探そうと思ったんだけど時間なくなったな。
明日の早朝にでも軽くまわってくるか。
[!] TIPS
■ ジョブシステム
キャラレベル20で解放されるコンテンツ。
いわゆる生産システムである。
ジョブは各キャラクター1種類しか選択できず、また現状変更する手段も用意されていない。
ジョブにもレベルの概念があり、ジョブレベルは該当する行動を繰り返し行うことでのみ上げることが可能。
商人ならばアイテムの売買やユーザー間取引、調剤師ならばポーションの製造など。
ジョブは
・商人
・薬剤師
・料理人
・鍛冶師
・木工師
・甲冑師
・裁縫師
・革細工師
・工芸士
の9種類が実装されている。
ジョブアクションでアイテムを製造する場合、対応するレシピカードが必要。
基本的なレシピカードは職業ギルドで購入可能だが、レアリティの高いアイテムなどはボスドロップやクエスト報酬などでしか手に入らない。
生産アイテムには品質が設定されており、高品質の場合効果にボーナスが付く。
なお、O2の生産は全てジョブスキルの発動によって行うようになっており、リアルでのセンスなんてものは一切介入する余地のないものとなっている。
体験としてはオートアタックシステムに近く、スキルを選択すると勝手に身体が動くようにはなっている。設定で省略可能。