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ガチ勢乙。ネトゲは遊びじゃねえんだよ  作者: にしだ、やと。
Ep1. 乙に舞い降りたガチ勢
13/50

1-10. 鬱陶しい雨には流石のmoni先生もお怒りです

『いかにもボス部屋って感じだねえ』


 そこについたとき、カズーがのんきな声でそう言った。

 目の前には大きな下り階段がポッカリと大口を開けるように存在しており、階段の脇には謎の銅像。

 そして大きな燭台が備え付けられており、青白い炎が不気味に揺れている。


 これでボス部屋以外が待っているなら製作者のセンスを疑うところだが、まあこの先がボス部屋で間違いない。


『全員SP大丈夫かな? 大丈夫ならさっさと行ってさっさとクリアしよう!』

『おっけーだよーん』

『こまめに回復してたので問題ありません』

『俺も大丈夫だ』


 カズーを先頭にして、階段を降りていくと大きな広間にでた。

 この広間は他の部屋と違い、地面がところどころ石畳ではなく、むき出しの柔らかそうな土になっている。

 足元の感覚が土の上だと少し違うからそれだけは気をつけておこう。


 部屋の中央の地面からは見るからに怪しげな芽が出ている。

 どう見てもあれがここのボスだというのは初見の二人も気づいたようで、カズーが警戒しながら近づいていく。


 芽まであと5メートルほどの距離にまで近づいた瞬間、部屋全体が大きく揺れ始めた。

 転ぶほど激しい揺れというわけではないが、歩いていると足をもつれさせてしまいそうな大きさだ。

 そしてその揺れがますます激しさを増したと思った瞬間、地面からスポンと芽の主が飛び出してきた。


『すぽーんって、ビーニャ?』

『揺れた割に随分小さなボスですね』


 小気味よい音を鳴らして地面から抜け出してきたのは、大きさ実に50cm程度しかないただのビーニャだった。

 こんなのが本当にボスなのか?

 と訝しむ二人。


 そのビーニャの様子を見ていると、突然なにかに気づいたかのように慌てふためき、並のビーニャでは出せないほどの速度で部屋の隅にある土のほうにダッシュしていき、そのまま逃げるように潜り込んでいってしまった。

 とその直後。


 先程までビーニャがいた場所に小さな影が落とされた。

 はじめは小さかった影は時間がたつにつれ徐々に大きく、そして濃さを増していき、何が起きているのかに気づいたときにはその影を踏み潰すかのように巨大な何かが地面と衝突した。


 轟音と、再びの大地震。

 巻き上がる土煙の中に浮かび上がる巨大な物影。


 煙が徐々に晴れていき、本当のボスがのっそりと姿をあらわした。

 きっと動画化するならこのタイミングでこのボスに集中線が走り、テロップでボス名が下にデカデカと書かれていることだろう。


『でっかー!』

『……今回はそれほど驚かされませんでした』


 その巨体に驚くカズーと、サンダースネイルのときのように恥ずかしいモーションを見せずに済んだと安心しているmoni。

 そう、露骨に怪しかった芽のほうは単なるフェイクで、本当のボスは天井から降ってくるこの巨大なモンスター、マスタービーニャだ。

 俺も初見のときはすっかり騙されたものだ。


 通常のビーニャが体長50cmほどなのにたいし、マスタービーニャは体長3mを誇る。

 その巨体に見合うだけのHPを持っているが、一方でビーニャらしく攻撃は非常に単調なので序盤のボスとしてはベストな配役だ。

 もちろん、中ボスであるサンダースネイルよりは厄介な要素を持っているのも事実ではあるが。


 それじゃ、ボス戦スタートといこうか。


 ◆ ◆ ◆


『雨、来るよ―!』

『ああ、詠唱開始してしまいました。被弾したらすみませんね』


 戦闘開始直後にいつものように俺とカズーが突っ込み、moniは離れた場所から【ファイアボール】の詠唱を開始、ラフはバフを俺とカズーにかけたあと、全体が見えて支援もしやすい位置に移動した。

 そして大体5秒経過した頃、ラフが声を上げた。


 マスタービーニャのスキル、通称豆降らしまたは雨の発動だ。

 これはサンダースネイルの落雷と同じように、地面に攻撃予測地点が表示され、そこに巨大な豆が降ってくるというもの。

 一撃の威力はサンダースネイルほど高くはないものの、頻度が激しく予測地点表示から2秒で攻撃が来るので回避が少し忙しいという特徴がある。


 この行動中はマスタービーニャも行動が止まるので余裕があれば削ってしまいたいが、まだHPも低く防具も揃っていない序盤のうちは安全重視で回避に専念したほうがいいだろう。


『モーション終わったから攻撃開始できるよー!』

『雨は15秒ごとだからそれを意識してスキルの発動タイミング調整頼む』


 雨以外の攻撃では、マスタービーニャは体当たり攻撃と頭の芽を伸ばして鞭のように振るうなぎ払い攻撃の二種類がある。

 体当たりはタゲを持っているカズーにしかこないので気にする必要はないが、鞭攻撃は範囲が広いため注意が必要だ。


 おっと、危ない。

 そんなことを言ってるそばからなぎ払いを食らいそうになってしまった。

【見切り】で範囲は表示されても、攻撃モーションに入ってしまうと回避が間に合わないことがあるから、なかなか厄介だ。


 二回目の雨を回避しきった後、さらに5秒ほど経った頃にマスタービーニャが一瞬動きを止め、上空に向かって一気に何かを飛ばすモーションをした。

 雨の発動とは異なるそのモーションは、HPを一定値削ったときに確定で使用してくる行動だ。


『ギミックきたな、cbtと同じみたいだ。打ち合わせどおりmoni頼むぞ』

『把握です』


 マスタービーニャはHPが残り7割、5割、3割になったタイミングで特殊行動を起こす。

 部屋に数箇所ある土の地面の部分に種をばら撒き、そこから取り巻きmobを召喚するというものだ。

 ただしこれはフロアギミック扱いになっており、種をばらまいた直後は芽だけ出ている状態で、1分間その芽を放置した場合にmobがそこから湧く、という形になっている。

 芽のHPは300で、出現数は人数+2箇所。

 処理に失敗したときに湧くmobはかなり強く、複数湧いてしまうと下手すれば決壊もあり得るのでアタッカーはこのギミック発動中には芽の処理を優先したほうがいい。


 ただしこれは前述の通りフロアギミック扱いなので……。


『雨、くるよ!』


 15秒毎に発生する豆降らし攻撃は容赦なく襲いかかってくる。

 これが実際結構きつくて、アタッカー不足の場合は1分以内の処理が現実的でなくなってしまう。

 幸いmoniの【ファイアボール】一発で芽は破壊できるし、俺も5発ほど通常殴りすれば一個破壊できるので、moniが4箇所、俺が2箇所担当することで時間的にはなんとか処理しきれる計算になっている。


『ああ、もう鬱陶しい雨ですね!』

『被弾覚悟で雨無視してギミック処理でもいいけどな』

『蘇生ありならまだしも蘇生ない状態でその選択はありえないです』

『ははは、がんばれえ』

『ラフっち、よそ見してないでヒールちょうだいよ〜』


 容赦なく降ってくる雨に手こずらされながらも、なんとかギミックの処理を完了できた。

 あと二回、これがあるわけだからなかなか疲れる。

 野良マッチングだとここで失敗するPTとかありそうだよな、まじで。


 今更ながら思うんだが、VRMMOってチャットがホントしやすいよな。

 キーボードとかマウスで操作するMMOの場合、名誉のチャット死なんて言葉があるくらい戦闘中のチャットは死に直結する行為だった。

 それが今やこうやってのんきにお喋りしながらでも無駄なく戦闘できるんだ。

 別に俺はおしゃべりが好きとかそういうんじゃないが、黙々と続けるよりはこうして適度にくだらない会話を挟んだほうがモチベが維持しやすいし、かなりいいことだと思う。


 それからも鬱陶しい雨を回避しつつ、マスタービーニャのHPを順調に削っていき、ついに三度目のギミックの処理を完了した。

 タイミング悪くギミック発動してしまい、ギミック中に二回も豆降らしを食らうことになったときにはmoniがかなり不機嫌になっていたが、【ファイアボール】を連打することでその鬱憤を晴らしたみたいだ。

 また俺に八つ当たりが来るんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたぜ。




『あ、トドメ刺しちゃったーごめんねmoniっち!』


 ラフがヘイト維持のためにブスリとさした瞬間、マスタービーニャがまたプルプルと震えだし、爆裂四散した。

 そのあっけない幕切れには拍子抜けしたが、特にミスらしいミスもなく倒しきれたのはよかったな。

 ここで下手なやつが一人混じってたりすると些細なことからミスが連鎖してピンチになりやすいんだが、このPTは大丈夫みたいだ。

 今後も期待できるな。


『……別にいいですよ、止め刺したいとか思ってないですし』


 moniはああ言ってるが、あれは絶対アタッカーとして止めは譲りたくなかったって顔だ。

 あぶねえ、俺がやってたら絶対めちゃくちゃ文句言われるやつだ。

 なるべく止めささないようにHP計算しっかりしとくか……。


『おつかれ〜、報酬確認しよっか』

『乙カレー! いやー、結構かかったね』

『おつ。4分ちょっとってとこか? cbtのときはもうちょいかけてた記憶あるからだいぶ早いと思うがな』

『お疲れ様です。火力上げたいので報酬に期待してます』

『えーっと、中身は……イーリアスフィストに、イーリアスヒーリングロッドだね』

『……早く次行きましょう』

『ヒーリングロッドはいいな。これでラフの装備はしばらく考えなくていいだろう』

『ま、moniっち、次はきっとでるよ!』

『そうだね、分配はとりあえず遺跡出たらやるとして、お楽しみのあれを見に行こうか』


 そう、遺跡はこれで終わりじゃない。

 最後にお楽しみのアレが待っているからだ。


[!] TIPS


■ フロアギミック


mobではなく、マップ上に設置された固定オブジェクトによって発生するなにか。

ボス部屋で設置されていることが多い。


フロアギミックは大抵の場合無視しても攻略することが可能だが、かといって無視し続けると妨害が発生するのが基本なので必要に応じて対処する必要がある。


■ チャット死


オンラインゲームにおいて戦闘中にもかかわらず、チャット入力をしようとしてその結果死ぬこと。

従来型のPCゲームではチャットをするためにはチャット入力モードに切り替え、他の行動を止める必要があるのが基本だった。

そのため、戦闘中は普通チャットを控えるものだが、なにか気づいたことを伝えようとしたり、あるいはあまりにもチャットが好きすぎて戦闘中でも暇をみてチャットをする場合がある。

結果的に回復するタイミングを失い、無残にも死んでしまうのはオンラインゲームあるあるである。


効率を考えればこれは褒められたことではないが、コミュニケーションを取ることもオンラインゲームの醍醐味であるため、チャットをしようとすることそれ自体を悪く言うのは良くないという考え方もある。

むしろ忙しい戦闘中でも会話をしようとするその姿勢を評価し、チャット死は名誉の勲章であると言ったり言わなかったり。


ボイスチャットが当たり前になった時代ではチャット死という概念はほぼ消滅し、フルダイブゲームでも当然そのような概念はない。

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