1-7. 委員長には誰も逆らえない
A4 To:委員長 『委員長ちょっといいか?』
cβT時代から使われているその名前を入力し、コールするときちんと繋がった。
案の定彼女もオープンから繋ぎっぱなしらしい。
委員長 To:A4 『おや? A4君じゃなーい。どったの? 初日からいきなり手伝ってくれるの?』
A4 To:委員長 『そんなわけあるか。頼みがあるんだよ』
委員長 To:A4 『おやおやおやあ? 初日からこの私に頼み事なんて、珍しいこともあるもんだねえ。いいよいいよ、遠慮せずお姉さんに言ってご覧なさい』
このやけに馴れ馴れしい女は委員長。
俺達とは別の意味でのガチ勢だ。
性格的には正直苦手なタイプなんだが、その程度の理由で付き合いを拒んでいると損するのは俺の方なので我慢して付き合っている。
A4 To:委員長 『今回の頼みは一つだけだ。ライトグローブをくれ。それだけだ』
委員長 To:A4 『んー? あー、ジェントルボア用ね、おっけーおっけー。でもどうしよっかなー。一応これ店売り800vだしなー。A4君と似たような人が欲しがるかもしれないしなー』
A4 To:委員長 『委員長のことだ、どうせもう捨てるほど持ってるんだろ?』
委員長 To:A4 『いやいやぁ、流石に捨てるほどはもっていないよぉ。えーと、うん、まだ10個しか拾えてないもん』
A4 To:委員長 『充分すぎるだろ……こっちはID行くのにそれつけていきたいんだよ』
委員長 To:A4 『おー、なんだ、A4君もう10いってるんだ。一番乗りだねー、すごいすごい。そんならIDの情報代の前払いってことでぷれぜんとふぉーゆー!』
そう、委員長はいわゆる情報屋だ。
検証することを趣味にしている変態プレイヤー。
手に入れたデータは精査して、問題ないものから順次自身が運営するwikiやデータベースサイトに公開している。
ちなみにそのサイト群の広告収入はなかなかすごいらしい。
元々他のゲームでも同様のことをやってきた実績があるので、委員長の名はかなり有名。
タダで多くの情報をわかり易くまとめてくれる女神だなんて言葉もあるくらいだ。
しかし、当然物事には裏ってもんがある。
確かに彼女は手に入れた情報をほとんど無償で公開している。
だが全てではない。
最先端の情報、一部のプレイヤーが明らかに得するような情報は、落ち着くまでは秘匿している場合が多い。
そして、その情報を武器にトッププレイヤーたちと取引をしている。
いい情報を提供して貰う代わりに、他のプレイヤーが見つけたいい情報を教える。
そうして情報を徹底的に管理することで、多くのプレイヤーの行動を操作する……それが彼女のプレイスタイルだ。
委員長に直接声をかけられたプレイヤーは幸運だと思うし、逆に不幸でもあると思う。
それは彼女に価値のあるプレイヤーだと認められたということだし、それによって知りたくもなかった彼女の恐ろしい一面を知ることになるからだ。
信用がある分、彼女に情報操作されると本当にプレイヤーたちは踊らされることになる。
ポーション30個の隠しクエが見つかっていないのも、チュートリアルエリアで必死に狩りしている人がそれなりにいるのも、ジェントルボアにプレイヤーが殺到しないのも、彼女がそういうふうに情報操作しているからに過ぎない。
本当に、踊らされる側にならなくてよかったよ。
A4 To:委員長 『そういや、【バッシュ】下方修正されてたな』
委員長 To:A4 『あ、そだね。流石に300%はやりすぎだったしね。いまはLv5で250%になってるかなー』
A4 To:委員長 『もう数値まで出してるのか。相変わらず仕事がはやいな』
委員長 To:A4 『そりゃー、これだけで食ってますから! あとなんか気になったことあるかい?』
気になったことか……。
そういえばレベル10になったときに知らん項目が追加されてたな。
報告しておくか。
A4 To:委員長 『cbtのときはレベル10ごとにCP1追加だったのは覚えてるよな?』
委員長 To:A4 『そりゃもちろん。なんか変更あったの?』
A4 To:委員長 『ああ、CPが増えなかった。代わりにBPってのが9ポイント与えられてて、ユニークアビリティなる項目が出てきた』
委員長 To:A4 『ほほー。それは興味深いですなあ。して、その内容は?』
A4 To:委員長 『ツリー形式でポイント割り振って取得するタイプのアビリティリストだな。そのリストの中にCP増加があったから、CPが自動で増えるのは廃止になったんだろう』
委員長 To:A4 『ふむふむ、他にはどんなアビリティがあるのかな?』
A4 To:委員長 『ツリーはいくつか分かれているんだが、解放していかないと具体的なアビリティ名はわからないみたいだ。CP増加のほかだとステータス増加がとりあえずズラッと並んでいて、それぞれ解放するとその次の項目が見えるみたいだ』
委員長 To:A4 『あー、じゃあきっとそれはあれだね。cbtでちょっと声が出てた、最終的に全く同じビルドのキャラばっかになりそうっていうのの対策』
A4 To:委員長 『まあそうだろうな。ツリーの大きさと取得BP量を考えればある程度取得は絞る必要が出てきそうだ』
そう、確かに乙ではクラスチェンジシステムによってある程度の個性は出せる。
クラスで獲得したスキルポイントの配分や、アビリティの組み合わせなど、数を考えればかなりのものになりそうだが、実際はテンプレビルドができてくれば後発組はそれに従って育てるだけだ。
レベルアップによるステ振りがない以上、少しでも変化をつける要素が多くあるのはいいことだ。
委員長 To:A4 『あとでスクショ送っといてよ! 私は流石に今日中に10は無理そうだしー』
A4 To:委員長 『了解、PTのやつらと相談して適当に取っていくから、解放されたのは都度教える』
その後委員長と街の中で合流し、ライトグローブを譲ってもらった。
ついでにフレンド登録もしておいたから、また何かあればすぐ連絡できるだろう。
その時一瞬なんか笑われた気がするんだが一体何なんだろうか……。
まあいい。
とりあえずPTの奴らに連絡して、買い物が終わったら1時間の休憩に入ってもらうことにしよう。
過度な連続フルダイブは健康に悪いからな。
[!] TIPS
■ バランス調整
オンラインゲームでは、ゲームバランスを適正に保つために様々な数値が後から変更されることが多い。
それによって本当にバランスが良くなることもあるし、逆にバランスが悪くなることもある。
一つだけ言えるのは、調整が絶対来ないといいきれるものはゲーム内に存在しないため、バランス調整を食らっても文句をいうのはやめよう。
■ スキル
スキルには様々な種類があるが、いくつか共通して設定されている項目がある。
スキルタイプ:そのすきるをどのように使用するのかを示したもの。
能動的に使用するアクティブスキル、自動的に効果が適用されるパッシブスキル、その中間で、効果の適用状態を切り替えることができるトグルスキルの三種類がある。
消費SP:使用するのに必要なSPの量。
詠唱時間:スキル使用を決定してから、実際に発動されるまでに必要な溜め時間。詠唱時間中に攻撃を受けてしまうと詠唱状態が解除され、スキル使用は失敗する。
ディレイ:スキル発動後に発生する、スキル使用不可時間。スキル使用以外の行動であれば可能。
リキャストタイム:スキル発動後、次に同じスキルを発動するまでに必要な時間。クールタイムなどとも呼ばれることがある。リキャストタイムはスキル毎に管理されているので、ほかのスキルであれば使用可能。
その他、スキルによってスキル倍率、ヒット数、効果範囲、射程距離、属性、攻撃タイプ、ターゲットタイプ、ダメージ倍率など必要に応じて項目が設定されているが、ゲーム内から全ての情報を見ることができるとは限らない。