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人間のいる世界の境界線  作者: 佐藤
1/2

始まりの転移。

1

気づいたら寝ていたようだ。

寝た覚えはないのに、寝ていた。ここで。、、、ここで?

どこなんだ、ここは。

とりあえず外である。どこかの街。

見知った街ではない。人もいない。一人も。

とにかく立ち上がってみたが、立ちくらみで近くにあったガードレールを掴む。

別に頭は痛くない。どこも痛むところはないが、一応身体中を見回してみた。案の定、傷も打撲もありゃしないが、軽く違和感を覚える。

あれ、なんで俺、病衣なんか着てんだ?

薄着だという認識をした途端、肌寒さを感じて身震いをする。

改めて周囲を見渡すが、やはり何もわからない。

ちょっと歩いてみよう、何かあるかもしれないから。、、、ちなみに裸足だ。

数分は歩いただろうか。特に何も見つからず、誰にも出会わなかった。

人がたくさんいてもおかしくないくらいお店やビルがたくさんあるけれど、それにしても孤独だ。

おかしいだろ。おかしすぎる。人がいないんだ。

仕方なく立ち止まって、建物のガラスに映った自分の姿を眺める。うん。細身だし、背も高いし、我ながらイケメンだな、うん。

自身のイケメンぶりを楽しんでいた、そんなときだった。

ガタガタ、という音とともに、足元のマンホールが開いたのだ。

ガゴンッと取り除かれたマンホールの蓋はその穴の横に置かれ、代わりに人間の頭が出てきた。

「おわぁっ!、、、へ?」

驚きのあまり声を上げてしまった。へ?だと。

散々探した人間が、まさかマンホールから出てるなんて誰が予想できる?

「はーっ!やっと出られたー!」

女である。

顔を見る限り、少女、というほど幼くはない。

「あー!人だー!」

元気な子だな。

人を見て驚くということは、こいつも一人だったってことか。

「何してるんだよ、お前、、、」

「何って、人がいないから探してたんですよー」

マンホールから這い出ながら女は言う。

いや、そんなところに人はいないだろ、、、

俺の横に並んで見てわかるが、中学生くらいの子だ。

ツインテールである。不覚にも可愛いと思ってしまった。

俺にはツインテール萌えがあるのかもしらん。

「ってお前、なんかくせぇ!」

なんというか、、、素直にドブの匂いがする。

「ひどいですー!女の子に臭いだなんて!まったく。デリカシーがなさすぎです」

、、、確かに悪かった。

まぁ、マンホールから出てきた女だ。そりゃあ臭いだろう。

「あのー、名前を知らない人。ここがどこだかわかりますか?」

名前を知らない人?

あぁ、俺のことか。

「名前を知らない人って言うな」

「だって知らないですもん。名前、なんていうんですか?」

最初からそうに訊けよ。

「俺は神山社かみやまやしろだ」

「神山社さんですか。ふーん。なんかすごく、神聖な名前ですね」

「、、、」

そうかもな。

「? どうかしましたか?」

「いや、なんでもねぇ」

好きじゃあないんだ、この名前。

「んで、お前はなんていうんだよ」

「私ですか?、、、知りたいですかぁ?」

にやにやしながら訊いてきやがる。

なんかむかついたから、

「別にいいや」

断った。

「どうしてですか!ちゃんと訊いてくださいよ!」

そしたら怒った。なんなんだこいつ。子供みたいだな。

「私は桐山玲きりやまれいです!」

結局訊いてないのに名乗った。

「山、一緒ですね!」

至極どうでもいい。

ここがどこなのかという質問にも、わからないから答えなくていいか。



そんなやりとりがあり、お互いがお互いの名前を把握したところで、今度は桐山とともにこの謎の場所を散策し始めた。



しかし。

行けども行けども、何もない。誰もいない。

長時間の散策をしながら桐山と会話をし、ある程度の情報交換を行った。

情報といってもこの地についてではなく、起きたらここにいたこととか、その前は何をしていたのか、とかである。

けれどここに来る前の記憶がほとんどない桐山の話を聞いているばかりだった。

「そうなんですよ。私ここに来る前、確か学校にいたんです。授業を受けて、終わって、うちに帰ろうとして、それから、、、わからないです」

とにかく、学校からの帰り道以降に何かがあって、眠り、起きたらここ、というわけか。

「じゃあ桐山。お前が制服を着ているのは、学校の帰りだったからか?」

「はっきりとは言えないですけど、そうだと思います。、、、じゃあ、神山さんは、、、」

病衣。こんなの着るなんて、病院で入院してるやつくらいだろう。

「俺はじゃあ、入院してたのか?」

「そうなのかもしれませんね、、、。何か、ご病気だったんでしょうか、、、」

まぁ、全然覚えてないけれど。

そして桐山との会話の末に行き着いた一つの結論として、ここは元いた世界ではない、という答えが出た。

なんとなく、薄々、そうではないかと考えちゃあいたが、誰がそんなの信じるってんだ。

それにしても。

「桐山。なんかお前、楽しそうだな」

「え、そう見えますかー?」

わけのわからない状況に置かれているのに微塵も動じていない俺がいうのもなんだが、こいつ、さっきからにこにこしている。

「あぁ。どこだかわからないところに放り込まれてるのに、すげぇ楽しそう」

「んー、、、確かにこんなところにいるのはちょっとだけ不安ですけど。でもなんか、久しぶりにこんなに人とお話ししたなって思って、嬉しかったんです」

なんだそれ。まるで今まで、誰とも話してなかったみたいじゃないか。

「はい、その通りなんです。ここに来る前、なんていうか私、、、言っちゃえば、ぼっちだったんです。へへ、、、」

とんでもないことを、桐山は笑うまで言った。

なんでこいつみたいな、元気でフレンドリーなやつが、ぼっち?

「あの、社さん、、、」

ついに俺を下の名前で呼んだ。

「今から話す理由を聞いて、社さんも私のことを嫌いますか?」

え、、、

そんなこと言われても、聞いてみなくちゃわからんが、、、

「どうだかな。理由によっちゃ、盛大に嫌ってやるよ」

冗談のつもりで言ってみた。

「、、、」

黙っちまった。

「いや、わりぃ、今のはーー」

言いかけたところでそれを遮るように桐山は言った。

「へへ。なんとなく、社さんなら話しても大丈夫な気がします」

おお、、、信用されてんのか?

「私の記憶が途切れる前ーー半年くらい前でしょうか」

そして桐山は、その理由を話し始める。

「クラスの男の子に告白されたんです、私ーー」



なんだよ、それーー

どうして誰一人、桐山をーー桐山玲という一人の人間として、ちゃんとみてやらなかったんだーー?

桐山本人は、何も悪くないじゃねぇか。

他人事なのに、まったく顔を知らない連中に対して、どうしようもない怒りを覚えた。

「どうして怒っているんですか?」

俺の顔を覗き込むように桐山が尋ねる。

どうやら顔に出ていたらしい。

「あぁ、なんというか、、、そんな理不尽、俺は絶対に納得しない」

理不尽なことがどうやら大嫌いなようだ、俺は。

「社さん。私のこと、嫌いになりましたか?」

今となってはそんな質問、的外れもいいところである。

「馬鹿なことを言うな。桐山、少なくともお前は何一つ悪くねぇ」

そんな俺をみて。

「やっぱり、社さんには話して正解でした。へへ」

また笑うのだった。



桐山の話はこんな内容だった。

桐山のクラスに、桐山に告白した男子がいた。

その男子の特徴は、割と暴力沙汰で有名な、ガラの悪いやつだったらしい。

それなりにイケメンで、ルックスは女子に人気だったんだとか。

そんな男子が一世一代の告白をした、という話であれば、まぁ可愛いものだろう。

だが、事はそんな易い話ではない。

理由は特に、桐山は話さなかったがーーその告白を、桐山は受け入れなかったらしい。

自信があったのかもしれない。俺ならこの女くらい簡単に落とせる、と。

告白を断ったのが悪かったのだろう。

失恋が、その男子のプライドをかなり深く抉った。

その場では特に何もなかったらしい。

しかしその男子のなかで、怒りという溶岩はすでに吹き出す寸前だった。

そしてその溶岩は、数日後に爆発的な噴火をすることとなる。


続くーー


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