表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗闘  作者: 伊藤むねお
21/52

遠山が伊能のことを話す

「諸君。人物はわたしが保証する。名前は伊能亮一。年齢は三十二、三才のはずだ。今はそれ以上は言えない」

 ――もっともそれ以上のことは俺も知らないのだ。

「ただこれだけを言っておく。いつとも言えない昔のことなのだが、警察の威信が危ういところで彼に救われた。ただし自分のことを決して公表しないで欲しいというのが、唯一絶対の条件だった。まことに不思議なことながら久しぶりの電話が再び警察の、いやわたしのというべきか、ピンチにかかってきた。佐野君。諸君」

 遠山は椅子の上で姿勢を正すと、佐野以下の全員を見た。

「彼の出した条件を飲んでくれ。これはわたしといえども命令できることではない。遠山史郎の個人的な頼みと理解して欲しい」

 佐野が見回すとどの顔も肯いていた。堺を乗せたタクシーの番号と引き替えならどんなことでも飲まなくてはなるまい。

「わかりました。一同、しかとお約束いたします」

「ありがとう。ではまず、車の捜索の手配を頼む。そのあと佐野君と秦君には簡単にその時のことを話しておこう」


「昔というのは十五年前のことだ。宮城県で地元選出の大物代議士を巡る収賄事件があった。わたしは当時の三益長官から直々の命令を受けて宮城県警本部に赴き、その捜査の指揮をとった。その代議士というのは君らも名前は覚えているだろうが、当時総理大臣さえも操れるという噂があった人物だ」

「カメユウこと亀山勇造ですね」

 秦が言った。

「そうだ。事件の鍵を握る男がふたりいた。矢木沢と横山だ。ふたりはともに亀山代議士の秘書で亀山が今期限りで引退するという意向を洩らしていたことから後継者争いをしていた。捜査本部は矢木沢を疑ったのだが、これが難物だった。そこで横山のほうに目をつけた。官僚出身の横山は後継者争いでやや負けているとみられており、手段を選ばず剛腕を揮う矢木沢に比べれば小心なところがあった。われわれは横山を執拗にマークして揺さぶりにかかった」

「わたしはまだ学生でしたが大きく報道されましたので、その事件はよく覚えております。そうですか、あれは室長が担当されたのでしたか」

 佐野がそういうと遠山は目を細めてうなずいた。

「目論見はあたり、横山は身の危険と不公平感から矢木沢の関与を暴く証拠を渡すということを人づてに言ってきた。矢木沢と代議士の逮捕は目前というところだったのだ」

「その収賄には矢木沢がキーマンとして働いていたのですか」

「それはわからん。代議士が直接関わったという疑いもあった」

「そうですか、しかしやったものですね」

「物証や証人が一向に出てこず、そういうテを使うほかなかった。ところがふたりの記憶にあるかどうか、その横山がこちらの厳重な監視にも関わらず突如行方不明となり捜査は頓挫した」

「そして死体で発見されたのでしたね、たしか山の中で」

 秦が言った。

「そうだ。行方不明から二週間後、横山は仙台市郊外の山林の中で縊死死体としてみつかった。われわれは矢木沢は地元の暴力団と噂以上の関係があったのだが、その連中を使って先手を打ったとみた。だがなんの証拠も証人も出ない。そもそも自殺か他殺という確証さえつかめなかった」

「そうでしたか」

「肝心の収賄事件はそのままオミヤ入りかという情勢になってしまったのだが、わたしは他殺を疑って、県警本部長からの打ち切りの示唆に抗って捜査を続け、ついに自殺したと推定される時刻にその現場近くにいた二人の被疑者を突き止めた」

「お見事でした」

「うん。首をかけての決断だった」

 遠山はここで口を切ると遠い目になった。

「だが、誰にもいっていないことがあるのだ。このことはむろん報道されていない。捜査本部の中でも被疑者を割り出した糸口は、匿名希望の市民からの情報ということでわたしが押し通した」

「あ・・・」

「そうだ。さっきも言ったとおり、このことは決して口外しないという約束なのだが、今度の事件に彼が出てきた以上、君たちふたりには言っておかねばならん。君たちも彼との約束を守ってくれるか」

「お約束いたします」

 佐野と秦が同時にそう言った。

「被疑者が死体となって発見されたことで、宮城県警が囂々たる世論の非難に晒されたその時だった。伊能君が現れたのだ。伊能亮一君は当時高校三年生で全国に名を馳せたスポーツ少年だった」

 あ、と秦が声をもらした。

「バスケですね。宮城野高校の。どうも聞いたことのある名前だと思っておりました」

「さすがに秦君だな。そのとおりだが彼がどのように協力してくれたかの詳細は勘弁して欲しい。だが、彼が現れなければ事件は確実におみや入りだった。伊能君はそれほどのことをしてくれたのだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ