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暗闘  作者: 伊藤むねお
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悪人サワダ

「沢田さん、野々山から苦情が来てます。この前の日曜日の駅伝の事故、あれはなんだというのですよ」

「ははあ、あの若いのがなんかいったかな。こういってやんなさい。あんたは何にも知らないふりをしていればいいんだ。すべて、こちらに任せておけばいいんだとね」

「俺もそういいました。娘さんの恨みは、わたしらが必ず晴らしてあげますからって」

「そうそう、それでいいんです」

「そしたら、恨みだなんて何を言ってるのか。わたしはそんなことを言った覚えはないって、えらい剣幕で怒られました。わたしが憂いているのは、あの国での野放しの銃が培養する病幣であの国自身が病んでいるんだ。そういう国に対して恨みなどという尖った感情をぶつけるのは反発を買うだけで何の進展にもならないと」

「ほほうなるほど、あなたもだいぶ煽られたようですな。今の演説は大変よくできてましたよ」

「へ、そうですか」

「こうなったら野々山には開き直りましょう。あなたの得意とするところでしょう? あいにくなことに事態はすっかり変わったんだとね。これだけの事をしでかすのにどれ位のお金が費われたと思ってるのか、と。それにここが肝心なところですよ。青山の連中はもう知ってるんだから、本当に危ないのなら彼ら自身がちゃんと回避する筈じゃないかと。ただし、あまり脅かしてサツに駆け込まれても困りますから、そこはうまく・・・そうそう、そういうことですよ。ああ、それから、あれをそろそろもうひとりのと一緒にしておいた方がいいですね。でないと、あとの言い抜けに苦労するよ、とでも言ってね」

「わかりました」

「堺は大丈夫でしょうな」

「大丈夫です。しかし肝の据わった男です。どうもただものじゃないような気がするんですがね」

「例えば?」

「いや、それはわかりません」

「とにかく、万が一でもあれを逃がすようなことがあれば全部がパーになりますよ」

「それはさっきも確認しましたが大丈夫です。ヒトマロには報酬を奮発してありますから、それなり以上の場所と人間をつけているようです。しかし、いつまで泊めて置くんですか」

「あれが終わればもういいですよ」

「じゃ、そのあとはまとめて」

「そうでしょう? ほかになんかいい方法がありますか」


 堺公人は部屋は隅から隅まで舐めるように点検した。ベッド、マット、洗面所も同じように調べた。しかし、脱出や外部の連絡に利用できるものはなにひとつして発見できなかった。

 一日に二度だけドアがそっと開いた。ドアには鍵だけではなく、太い鎖が外から掛けられていて、三十センチほども開くと鎖はピンと張り、その隙間から帽子と濃いサングラスに大きなマスクを掛けた男が顔を見せる。男は部屋の中を十秒ほど観察すると、しゃがみ込んで折り詰めの弁当を滑らすようにして入れて寄越した。その時が唯一の接点だったが、堺が声を掛けてもなんの反応もなかった。

 弁当には包装紙がなかったが場所や正体を隠したいのだろう。だからといって、それが殺されない保証にはならないことを堺は知っていた。この手強い敵が窮鼠猫を噛むの譬えを知らないはずはない。



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