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暗闘  作者: 伊藤むねお
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立花はんのピッカリですがな

 スクリーンの映像が消えて室内に照明がもどった。

「遠山君。大失態じゃないか。わたしは総理や外務大臣には一体どう言えばいいのだ」

 山城官房長官の第一声は怒気そのものだった。

「まあまあ、山城はん。ここはひとつ冷静にみんなで知恵を出し合おうじゃありませんか。大山君。デモの時だけでも、メインサーバーとの接続を切ったらどうや。それでどないねん」

 杉弘、杉電器社長が口を開いた。伝説的起業家の嫡孫で財界の重鎮でもある人物のとりなしとあって、官房長官といえども無下にはできなかった。それに理に叶ってもいる。山城は口をへの字に曲げて黙ってしまった。大山が言った。

「それはすでに切っております、やはり問題がございます。石井君、頼む」

 はい、と返事をして石井が立ち上がった。

 プロジェクターを叩くとTAROの基礎図があらわれた。

「T氏が渡されたCDは、自動車に例えますとハンドルやアクセルペダルだけだとわかりました。従いまして、車体やエンジンはすべてこちらのどこかに潜んでいると考えなければなりません。現にそのシッポがみつかっております」

 ほう。

「ほなら、ハンドルやアクセルさえなければ、どんな性悪なエンジンでも、ただガアっと空回りするだけで、もはや大層な悪さはでけんのとちゃうのか?」

 杉は小首をひねった。

「はい。CDにあったような精巧な操作性は最早発揮できないとみてよいと思います。しかしながら」

「なんや」

「敵のねらいには、ハンドルもアクセルも不必要なのではないか、と考えられるのです」

「どういうことやね」

 杉には、石井の今の説明は意外なことと聞こえたようである。

「社長。標的の位置と時刻、それと稼働するプログラムがワンポイントに決まっているとすればいかがでしょうか」

「なんやて」

 杉は面長の顔をしかめたが、初老と呼ばれる齢になって尚衰えを知らない俊敏な頭脳はすぐにその意味するところに気がついたようである。

 ばん、と手のひらでテーブルを叩いた。

「君、すると、あれか」

「はい。プレゼンテーションの時に使用するザ・フラッグスです。マラソンランナーなど、こういってはなんですが、いくら火傷をさせても意味はありません。すくなくとも敵が掛けた費用には釣り合いません」

「わかった・・・こりゃあ、どえらいこっちゃな」

 ことの重大さを理解した杉は腕を組むと口を一文字に結んだ。

「えええ? 杉さん。ということはあれですか」

 山城が身を乗り出して杉を見た。

「そう。立花はんのピッカリですがな」

「なんと!」

 山城は立ち上がらんばかりに驚いた。

「これは、このハッカーのいつもの手口やその後のわれわれの検証の結果でそのようにいえるのです。その仕組みは巧みに隠されていて、ある積算的な条件が整う瞬間までは姿を見せません。それらの具体的な条件や、どこにどう潜んでいるのか、残念ながらオブジェクトプログラム、つまり機械語だけの現状では部分的にはわかっても全貌が掴めません。全貌がつかめない以上、一部に触れるのは極めて危険なのです」

 どえらいこっちゃな。

「フラッグスに代わるものを至急作り直すのはどうや」

「破壊されたテミスの問題です。ピッカリはテミスがあってこそ可能なのです。現在のテミスは法律に定められた機能を発揮できません。従いまして、TAROを稼働させるのは法律に抵触することになります。われわれがこう申し上げるのはなんですが、敵は実にうまいところを狙ったと考えています」



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