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暗闘  作者: 伊藤むねお
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捜査本部

 遠山室長は佐野を全員に紹介し短い檄を発して退出した。

 首相官邸から呼び出しがあったらしい。

 遠山の下で働いていたという相沢、小島、菅原の三人は遠山から指示を受けていたらしく、すべての資料を整えていた。おかげで佐野および秦、有田、佐伯、三島、桜井、向山、井口、村木、会田、淵上、時田、篠原、静野はプロジェクターから映しだされる映像をもとに要領よく説明を受けることができた。

 背後の白板には数十枚の大小様々の写真や図面が説明つきで貼られている。

 白板前に佐野が寄った。

「経緯と現状は以上のとおりだ。我々の目的はひとつ。エレベーター事故を装って詐取されたテープを取りもどすこと。それが最優先で、荒っぽく言えばとりあえずはそれだけでいい」

 一同が肯ずいた。

「テープはこういう風袋のはずだ。この石井次長の話ではそれ自体がかなりの値打ものだから必ず隠匿しているという。われわれはそれを信じるしかない。その隠匿場所を探る手段はふたつだ。ひとつは辰巳さんにCDを手渡した男Aを捜し出して、その背後をつきとめ、そこから隠匿先を割り出す。もうひとつ、堺と柴田を探し出すことだ。このふたりは共犯者か被害者かは不明ながらシステム修復には不可欠な人物でテープの隠匿先を知っている可能性もある」

 佐野の補佐として赤坂署から招集された秦信次警部補はいつものようにゆったりとした表情で佐野の一語一語に大きく肯いていた。秦はかつて佐野が捜査実習を赤坂署で学んだ時の指導刑事だった。その後も特別捜査本部が立った折などに何度か捜査を共にしたことで親交が続いていた。遠山はそれを知っていて補佐につけてくれたのである。人呼んで赤坂のコロンボ、四十五歳。

 秦を佐野は尊敬していた。丸っこい体型と柔和な表情を裏切るユニークで鋭い感覚と観察力。そして人間洞察力を持つ男だった。

「辰巳さんは、室長の少年時代からの親友だそうで、今回のことは奇跡的な幸運だと言っておられたが確かにそのとおりだな。職業はコンピュータのベテランSE。この度はそれが仇になって事件が起きてしまったのだが、火傷をしたランナーと巡査長には気の毒ながら大きな陰謀を暴くお手柄にもなった。まず男Aだが、辰巳さんにその男の姿を描いてもらった。万事に器用な人のようだ。この絵を見る限りAはプロだ。長髪で耳を襟で首筋を隠している。ホクロや傷などがひとつも描かれてないのは、辰巳さんの観察不足ではないと見なければならない。年齢は三十から五まで。身長は八十五前後の長身でやせ形。身のこなしからみて運動神経もかなりのものと辰巳さんはみている。Aは既に自分の失敗に気がついているはずだから、CDの奪還、あるいは、本当に辰巳さんが操作をしたのかなどを確かめるため辰巳さんに再び接近を試みる可能性がある。Aがそう出てくれれば、われわれにとってはそれが逆手を取る最初の、そして恐らくは最後のチャンスとなる」

 佐野は永田町駅が再びその接点になると判断し、辰巳は佐野からの依頼に対しふたつ返事で囮の役目を引き受けてくれた。

「Aの正体は今のところ全くの謎だが、ここまでの投資などからみて大きな組織が関与しているのは確実だ。Aは辰巳さんに危害を加える恐れも有るが目下の情勢鑑みればやむを得ず敢えてお願いをした。辰巳家にはすでに埼玉県警の刑事が親戚を装って入りこみ、二十四時間の警護を兼ねた張り込みを続けている。今度の事件では、すべての人間を疑えというのが室長からの指示だが、辰己さんと室長本人は除外していいだろう」

 秦が指を鼻にあててくすりと笑った。

「次は真の受取人Bだ。複数か単数かもわからないが何らかのトラブルがBの身の上に起きたとみれば、それを連絡する間もなかったのだから直前のことにちがいない。トラブルは電車や駅、あるいはその近辺で起きた可能性が高い。あの時刻の電車に乗れる路線の各駅と車内、および駅近辺で何か事故が起きなかったか。それと、なぜ辰巳さんが間違えられたのか。恐らく風貌などは似ているのだろうがそれだけではあるまい、その謎を探ること。あるいは、それが解決の糸口になるかもしれないから佐伯、三島の両君はそこをよく頭にいれてやってくれ。場所は青山一丁目の駅からそう遠くない地点のはずだ」

「了解しました」

「警視」

 巨漢の有田剛三が手を上げた。

「辰巳さんに渡ったのは人違いではないということはありませんか。つまり仲間割れとかのヤケッパチで。あるいは辰巳さんの職業を知っていてわざと渡したとか」

 有田は任官以来本庁のマル暴一本でやってきた刑事だが、この男もまた秦同様に、風貌とは裏腹に非常に柔軟な発想が出来る刑事だった。かねてより興味を抱いていた佐野と秦というふたりの噂の刑事と一緒に仕事ができるとあって張り切っていた。

「その可能性は考えなければならないな。しかしどの道Aかその代理が現れることを願うしかない。そうでなければ短時日での解決は不可能だ」

 そうでしょうなあ、と誰かが呟いた。

「他にないか・・・ようし解散。頑張ろう。ここ三日が勝負だ」

 ――どうしてそんなに奪回を急がねばならないのだ。遠山さんはまだ何かを隠している。



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