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暗闘  作者: 伊藤むねお
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佐野義郎警視

 警視庁内の豪華な会議室の大きなテーブルを挟んで、五人と一人の男が向き合っていた。五人の中央に座っていた遠山史郎警視監、五十代後半が口を開いた。ピンストライプの入った濃紺のスーツがよく似合う。

「佐野君、しばらくぶりだった」

「ご無沙汰致しております」

 佐野は起立して折り目正しく頭を下げた。三十代半ばの科学者のような風貌をした男だった。

「諸君」と、遠山が自分の左右を省みて言った。

「こちらが佐野義郎警視だ。今は科捜研に籍を置いているがITはもちろん科学全般がらみの犯罪指揮には定評がある。佐野君。こちらのメンバーは今は省略させてもらうが、わたしがセキュリティ担当として加わっている、ある極秘プロジェクトの幹部諸君とだけ言っておく。わたしのことは今後、室長と呼んでくれたまえ」

 ――ほう、遠山さんはやはり秘密のプロジェクトに入っていたのか。

 佐野は久々に対面した遠山警視監は三年前にS県警察本部長から警察庁にもどり官房長に就くだろうと噂されていた。しかしそうはならず二年ほど前からぷつりと消息が絶えていた。

 ――それにしても他の連中は何だろう。警察の人間ではないな。省のキャリアか。

 佐野もまたキャリアで警察庁に入ったのだが、同期の大半はすでに警視正である。佐野が未だに警視に留まっているのは工科大学院卒業という異色の経歴が不利とみられたのか、佐野は捜査方針を巡って再三上層部と対立があったためと周囲は見ている。その中にあって常に佐野を支持してくれたのが遠山だった。現職も遠山の推挙だったと聞いている。

「佐野君は昨日の第三十二回、首都圏大学駅伝競走における走者及び先導の警察官の火傷に関する件でマスコミに流れている情報以上の事を知っているかね」

「いいえ。知りません」

「火傷の原因がなにか見当は?」

「いえ。監督が『湯タンポだ』と怒鳴ったことが面白おかしく報道されてますが、まだ不明だと承知しております」

「よろしい。実は原因はわかっている。強烈な遠赤外線を背後から放射された結果だ」

「なんと・・・誰が何処からどうやってですか」

「それをこれから説明するのだが、まず極秘プロジェクトから話す。佐野君、君はもちろん液晶には詳しいはずだから元木君に説明をしてもらう。彼は文部科学省を代表して参加している」

 遠山の右隣にいる元木と呼ばれた痩せた男は、これまで少しうつむいて遠山の言葉を聴いていたが、顔をあげまっすぐに佐野を見ると前置きなしで語り始めた。

 ――元木一平か? 三年ほど前に中央省庁のすべての職員から、行政と科学についての論文を提出させたとき一席だったやつだ。俺が次席だった・・・

「四年前、杉電器の新素材開発研究所がSXVと呼ぶ新液晶と、それを応用した画期的なディスプレイの開発に成功し、次いで、それを堅牢な外壁建材にする技術を完成し、青山に建築中の杉ビルは外壁の八十八%がその新建材で覆われています」

 ――杉ビル? あれは事故現場から近い・・・


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