#006「秋の始まり」
「お疲れさま、垣内くん」
「お疲れ、土屋。やっと涼しくなってきたな」
「暑さのピークは過ぎたね」
「昼間の日差しは変わらないけど、朝夕の風は、すっかり秋だな」
「五輪も終わったことだし、二十四時間放送も折り返しを過ぎて、いよいよ佳境に近付いてるし」
「愛で地球を救う番組だね。僕としては、裏番組のほうが面白い」
「討論番組とか、パロディー番組とか、色々あるよな」
「感動させようという演出が過剰ではないか、という疑問は、僕も常々違和感を覚えていたから、どんな議論になるか楽しみなんだ」
「感動を演出するなら、五輪の閉会式ぐらい盛大にやって欲しいところだ」
「心憎い演出が多かったよね」
「四年後が楽しみになってきたな」
「課題が山積みだけど、期待が高まるね」
「将来に対する不安は色々予想されてるけど、案外、簡単に乗り越えてしまえるものかもしれないという希望を持たないとな」
「未来予測に関しては、二〇四七年問題が心配されてるけど」
「このまま温暖化が進んでいくと、稚内が熱帯になるかもしれないって話か?」
「そうそう」
「深刻に考えすぎだと思うけどなぁ。夜行性人間が当たり前になって、エジンバラ夏季五輪を楽しむようになってるかもしれないぜ?」
「三十年あれば、それくらい様変わりしていても、おかしくないね。栄養ドリンクを飲みながら土地や株を転がしてた人たちは、ここまで情報端末やエス・エヌ・エスが普及することなんか、夢にも思わなかっただろうし」
「それ以前に、日本が不景気になるとも思ってなかっただろう」
「失礼します」
「あ! 海原の叔父さん」
「知り合いなのか?」
「中には入れないんだ。出てきてくれるかい、祥太くん」
「はい。――紹介するね。僕の母の弟で、海原大洋さん」
「はじめまして。土屋と同級生の、垣内琢也です」
「海原です。よろしく」
「何か用事ですか、叔父さん」
「家の鍵を貸してくれないか? 荷物を取りに来たんだが、義兄さんも姉さんも家に居なくてね」
「良いですよ。――そういうことだから、ちょっと席を外すね、垣内くん」
「おぅ。また、あとで」




