#005「八月二十一日日曜日」
――三つ編みに、小さなリングを編みこむのが、新しいトレンドなんだ。セットするも、解くのも大変そうだなぁ。
フゥン。ピー・エイチの違いで色が変わるリップ・スティックか。この黒さからは想像できないなぁ。
シャンプー、パック、サウナ、デトックス。話題の美容法も、週に一度くらいにしないと逆効果になるものが多いんだ。
機内アナウンスに、貸切映画館。ここまでされたら、プロポーズを断れないだろうなぁ。
そして、長続きする夫婦は、お互いを尊重できる友情で結ばれてることが多いのか。例外はあるだろうけど、相性は大切だよねぇ。
うまく行かないと、殴り合いの喧嘩で女性側が傷害致死になった、この山科の事件みたいになってしまうだろうし。
*
「お疲れ、土屋」
「お疲れさま、垣内くん」
「今日も暑いな。東南アジアの殺意ある日差しよりはマシらしいけど、湿気が多いのは敵わないな」
「アフリカ諸国や中国の暑い地域から来た人でも、日本の暑さには参ってるみたい」
「今朝のトピックか?」
「そうだよ。会社勤めの人は、この暑さの中でスーツを着て仕事をしてるんだから、ご苦労さまだよね」
「夏に長い休みがあるのは、大学生までだよな」
「その裏では、先生たちが苦労してるみたいだけどね。日本の教職員は、世界一忙しいらしいよ」
「授業だけじゃなくて、親からの苦情に応えたり、国や教育委員会への提出書類を作ったり、課外活動の指導をしたりしないといけないもんなぁ」
「人手が少なすぎるのか、それとも仕事量が多すぎるのか。――ちょっと、この写真を見てよ」
「何だ、これは? コラージュ画像か?」
「違うよ。この猫も、この犬も、この兎も、みんな実物大だよ。そういう品種なんだ」
「餌代だけでも、大変そうだな。それに、庭付きの広い家でないと飼えそうにない」
「そうだよね。それから、このブログは知ってる?」
「最近、改名したことで騒ぎになってたタレントだな。ついに動き始めたか」
「世間を騒がせてるといえば、歌舞伎役者との泥沼破局騒動で話題になったタレントが、今度は一回り年下のプロ野球選手と交際中だというトピックもあったよ」
「あの、崖っぷちアイドルか。大物が好きなんだな」
「本人の素行はともかく、異性を観る眼は確かだよね。それから、この韓国人女優が、今度フォト・ブックを出すんだって」
「お! 何年か前に年末の歌合戦に出てたのは観てたけど、今は女優として頑張ってるんだ。あのヒップ・ダンスは、セクシーだった」
「特徴的だったよねぇ」
「他に、何かトピックは?」
「あとは、子供の夏休みの宿題の進み具合に不安を覚える親御さんたちの呟きとか、歯医者さんで起きた面白エピソードとかがあったけど」
「月並みだったのか?」
「そうなんだ。だから、僕からは以上にするよ。今日は、このあと何か用事はある?」
「いいや」
「それなら、僕の家においでよ。このあいだ、漬けるだけで出来る冷たいスイーツのトピックを見て、昨晩に色々と仕込んでおいたんだ」
「良いな。でも、食べ物目的だとなぁ」
「動画サイトに、トラウマ級の短編ホラー・ムービーがあるんだって。スマート・フォンだと通信量を使いすぎるから、パソコンで観ようと思うんだけど、それなら、どう?」
「そういうことなら、理由になるかな」
「決まりだね」
「でも、長居しないようにしないとな。土屋家のもてなし好きには、恐縮してしまう。このあいだは、夕食にカレーまで頂いてしまったからな」
「美味しかった?」
「俺の親が作るカレーとは、到底、同じ料理と思えなかった。どうやったら、あの味になるんだ?」
「隠し味があるんだよ。美味しかったのなら、おかわりしてくれても良かったのに」
「他人の家で、そんな厚かましい真似が出来るか! あんまり俺を困らせないでくれ」
「垣内くんの反応が、僕の両親にとっては面白いんだよ。僕も、三人の様子を見てて愉快だし」
「頼むから、今度は止めてくれよ」
「ん? 泊まって行くの? 良いよ」
「いやいやいや、そうじゃない。わざと言ってるだろう、土屋。おい、スマート・フォンを触るな」
「送信、完了!」
「何してくれてんだよ、この野郎め」
「フフッ。今日は、ゆっくりして良いからね」




