表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話 大好きなお兄ちゃん!

「・・・・・・、何処だよここ・・・。」


気がつくと、全く見覚えの無い場所に立っていた。

風に揺れるたび、美しい光の粒子を撒き散らす大草原の上だ。

目の前にはエメラルドグリーンの川が流れ、川の周辺には虹色の羽をした蝶がいる。

その蝶が羽ばたくと、ダイヤモンドのような輝きをした鱗粉が空気中に飛散する。

鱗粉が太陽の光を反射して、あちこちに虹ができている。

空にはいくつもの浮島が存在し、その周囲を無数のオーロラが漂う。

何もかもが現実離れした光景。

間違いない。

ここは異世界だ。

昔よく夢見た、憧れの地。

「でもなぁ・・・・・・。」

素直に喜べない自分がいた。

まさかあんな方法で異世界に来てしまうとは・・・。






菊花薫る季節、今年度の最低気温を更新した日曜の朝。

俺はというと、11時過ぎまで自室の布団の中に籠っていた。

一流と言われる大学を出て、外資系証券でトレーダーをやっている俺は、日々神経を擦り減らしながら仕事に励んでいる。

日曜日だろうが、世界中で相場の変動は起き続けている。

今日もマーケットの情報が気になるところだが、たまの休みくらい昼過ぎまでゆっくり寝かせてほしい。

順風満帆な人生に見えるだろうが、昔から将来を嘱望され、エリートとしての人生を歩み続けてきたからこそ、他の人には無いストレスを抱えている。

周囲の期待を裏切れない、身を削って世界経済に貢献しなければならない。

他にも色々あるが、主にこういった重圧が俺の精神を着々と蝕んでいく。

だが、意外にも一番のストレスは家庭内で発生する。


「おにぃーちゃああああん!!」


・・・きたよ。ストレス製造機が。

人がせっかくHPの回復を図っているというのにこいつは・・・。


「お兄ちゃん!いつまで寝てるの!早く私と遊びなさい!」


こいつの名前は白石琴音。

俺、白石翔平の愛すべき妹だ。

今年で11歳になるんだったかな。28歳の俺とはだいぶ離れている。

サラサラの黒髪と、パッチリとした目が最高にキュートだ。

一見すると、誰もが羨む完璧な妹なのだが、少々性格に問題がある。

放っておくと後々面倒だ。

仕方ない。ちょっと相手してやるか。


「お兄ちゃんってば!早く私とうんこの早食い対決して遊ぼうよ!」


俺はボサボサの黒髪を掻き分けながら、死んだ魚のようだとよく言われる自慢の眼力を持って、妹と向かい合う。


「妹よ。何度も言っているだろう。うんこは食べ物じゃない。」

「そんなことないもん!美味しいもん!」


まったくこいつは・・・。

びっくりするだろう?11にもなってうんこ食べるんだぜこいつ?

俺なんて6歳のときに卒業したのにな。


「妹よ。この際だから言うが、お前は少し頭がおかしい。いや、かなりおかしい。11にもなってうんこを食べるような女と俺は会話をしたくない。早く部屋から出てってくれ。」


正論を言ってやったつもりだが、それが妹の逆鱗に触れてしまったようだ。


「なによ・・・。お兄ちゃんにうんこの何が分かるっていうのよ…!うんこの気持ちなんて考えたこともないような人が、好き勝手言わないでよ!」


妹は涙を流しながら俺に語り続ける。


「うんこの何がだめなの?他の食材と何が違うの?他の皆だって色々ヤバいの食べてるじゃん!動物の内臓とか普通に食べてるし、鶏の卵だってケツの穴から出てきたものだし!わからないよ!うんこがだめな理由がわからないよ!うぅ、ぁぁ・・・!うあああ!」

「!!!!?」


妹の身体から電流が流れ、みるみる大きく、マッチョな体形へと変わっていく。


「落ち着け琴音!!!深呼吸だ!!そうだ!一緒にラジオ体操を踊ろう!!」

「うゔぉおおおあああああ!!!!!!!!!!ぐヴォぇあああああああ!!!」


ビキビキ・・・!メキ・・・!!

女の子の身体からは鳴ってはいけないような音が部屋中に響く。

妹の身体は赤黒く変色していき、浮き出た血管がドクンドクンと脈打っている。


そして・・・・・・


「ふぅ・・・。待たせたな、お兄ちゃん。」


愛する妹はボブサップのような顔と身体つきになってしまった。

コホォォォ・・・、と

口からは紫色の吐息が漏れる。


「こ、琴音ちゃん・・・。ず、ずいぶん立派になったね・・・。さぁ、お兄ちゃんと一緒にラジオ体操を踊ろう。」

「ごめんお兄ちゃん・・・。私もう、死の舞しか踊れないよ・・・。」


そう言うと、妹の姿が目の前から消え、一瞬のうちに俺の背後へと回る。

そして、妹は俺に向かって手刀を繰り出した。

俺の首元を狙う恐ろしく正確で速い手刀は、空手3段の俺でなければ見逃してしまうほどのレベルの技だ。

見えてはいた。が、いきなりのことで身体が反応しない。

そのままその手刀は俺の首から上を・・・


跳ね飛ばした。







完全に死んだと思ったが、どういうわけか、今こうして二本の足で大地を踏みしめ息をしている。

全く知らない地、見たことも聞いたこともないような動植物。

これが異世界転生ってやつか。憧れていた現象ではあるけれど、いざ現実に起こると実感ないな。

しばらく呆然と立ち尽くしていると、エメラルドグリーンの川の向こうで白い服を着た少女が俺を呼ぶ声がした。


「翔平さん。こっちへおいで、翔平さん。」


鈴の音のような、美しい声色で俺の名を囁く。

金髪で青い目をした、とても可愛い少女だ。

白いフリフリのワンピースが良く似合っている。

この世界に住む種族の特徴なのだろうか、背中からは白いふわふわとした羽が生え、頭上には光輝くリングが浮いている。


それを見て俺は悟った。







あ、これ異世界じゃなくて天国だわ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ