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人魚姫と盗賊ガード  作者: 六花つづる
第1章 夜風の怪盗と囚われの姫
7/12

05 契約内容

ひとしきりアイザックをからかった後、王はおもむろに懐から懐紙を一枚、取り出した。

なにかと疑ったがすぐに合点がつく。その紙にはでかでかと「契約書」と書かれてあったからだ。


「これにサインをしてほしい」


そう言い、アイザックに紙を手渡す王。手錠をはめられたままのアイザックはしかし、それを受け取るまで苦労した。

中身を見てみる。すると、一枚のペラペラの紙にはこれでもかというほどの文字が乗っていて、文字の羅列にめっぽう弱い彼はそれだけでも眩暈がした。なんとか耐えて最後まで読み切る。

契約内容を要約するとこうだ。


1.ガオナー怪盗団のアイザックは、三か月間、期間限定で王の娘、フィーネの護衛になることを誓う


2.期間中は城の外に出ないことを約束する。ガオナーの者との直接的な接触も図ってはいけない


3.フィーネの様子は毎朝、黄の刻に王に報告すること


5.フィーネに傷一つつけてはならない。泣かせてもいけない


6.上の約束を一つでも破った場合、即刻死刑☆


最後の一文でアイザックは身震いした。つまり、契約が成立したとしても、破ったとみなされたら再び命の危機に陥れられるということだ。なるほどしっかり勤めを果たさなければいけなくなる。


しかし、問題が一つ。この契約内容から察するに、アイザックには監視がつくと思われた。でなければ、城の外に出ることや、仲間と接触すること、それと王の娘を何らかの形で傷つけることなど、他人の目がなければばれるはずがない。


では、その監視とはいったい誰なのか――まあ、問いただしたところで王が教えてくれるはずもないろう、と彼は思う。契約書を準備するほど用意周到な王が、アイザックに万が一でも何かを吐露するわけがなかった。

黙々と書類の下にサインをし、王に返す。さっとサインに目を通した王はふっと静かに笑った。


「こんな下手糞な字、見たこともない」


「…うっせえ」


ぐにゃぐにゃに曲がった文字は確かに、お世辞でもきれいではなかった。手錠を付けられてたからというのもある。だがもともとアイザックは、こういうものが苦手なのだ。

チャキ、と音がして、気が付くと手錠のカギが外れていた。王がほほ笑む。


「ありがとう。明日からお前はフィーネの護衛だ」

「…パルマ宮、って言ってたか?」

「ああ。今から人に案内させよう。おーい、レオタード!」


急に大声を張り上げた王に吃驚していると、モノの数秒で謁見の間の扉が叩かれた。

扉からのそりと顔をのぞかせたのは、これも同じく王国兵士。


ただ、先ほどの数十人の軍勢とは異なるところが彼にはあった。制服の色が違う。普通の兵士たちは黒の制服を着こんでいるが、彼の制服は黒地に赤。この国で、赤は王族や、王族に認められたものにしか与えられない色である。つまり彼は王に認められた…さしずめ親衛隊といったところか。王の呼びかけにすぐさま反応できるところからして、この男、かなり強い。


「お呼びですか、陛下」

来るや否や、強面の兵士は王に膝まづく。これは相当訓練された国家の犬だな、とアイザックが漠然と思っていると、人一人殺せるような鋭い目線が、膝まづく男の方から投げられた。ただの犬じゃない、狂犬だ。

アイザックは意識的に兵士から距離を取った。


「レオタード、この男のことは知っているか」

と、王はアイザックのほうを指さした。

兵士は視線を動かさずに返事をする。


「ルルアン様から聞き及んでいます」


「なら、話は早い。彼をパルマ宮に住まわせることになった。案内してくれ」

「パルマ宮…!?」


承知しました、とすんなり命令されると思いきや、狂犬はそこまで王命に忠実というわけでもなかった。


先ほどまで眉一つ動かさず、涼し気な顔をしていた兵士は、しかし、「パルマ宮」の一言を聞いて勢いよく顔を上げたのだ。その顔は驚愕に満ちている。

そんなに驚くことなのか、とアイザックが思っていると、兵士が声を荒げた。


「正気ですか陛下!」


うわ、声でか。思わず耳を塞ぐアイザック。王はさほど驚いた様子もなく、うむ、と頷いた。


「既に決定したことだ。このように、契約書もあるぞ」


「ですが」


「頼むレオタード。王命だ」


王命だ、と聞き、兵士の体がぴしりと固まった。やはり主人の命令には逆らえないようで、しばらくして「承知しました」と声が返ってきた。


「そういうことで、アイザック。レオタードが宮へと案内してくれるから、お前はこいつについていけ。

部屋は特別に、フィーネの隣のものを使ってよい。明日からよろしく頼む」


ではな、と王が手を振ると同時に、アイザックの腕を兵士がむんずとつかみあげた。そのままずるずると連れていかれそうで、アイザックは抵抗する。冗談じゃない、今はもう手錠を外された自由の身なのだ。引きずられるようなことはされたくない。


「自分で歩ける」

そう凄みながら言い、パッと掴んだ手から腕を引き離した。兵士は不機嫌そうに眉を上げたが、アイザックは知らないふりを決め込む。扉を開き部屋から出ようとしたところで、王は突然思い出したように声を上げた。


「そうだ、アイザック」


「まだなんかあんのかよ」


「これをお前にやろう」


そう言って差し出されたのは、二つのシルバーバングル。バングルの外側には細やかな模様が彫刻され、中央には小さいが赤い宝石がついている。数々の宝を盗んだことのあるアイザックは、すぐにそれが本物のルビーだと察した。王国でも珍しいルビーの宝。本来であれば、赤の着用を許された王族やその親衛隊にしか与えられない宝石。


どう考えても怪しさ満点ではあったが、宝を目にしたアイザックはぱあっと目を輝かせた。


「宝か!?」

すぐさま、喜々としてバングルを両腕につけたアイザック。その様子を微笑ましそうに見つめた王は、ああ、と言葉を返した。


「それは手錠だ」

「はっ…!?」


バッとつけられたばかりのバングルを見た。すぐさまアイザックはそれを外そうとするが、どんなに引っ張ってもびくともしない。魔法道具だ、これは。そうアイザックが悟ったころには、王はニマニマと悪い笑みを浮かべていた。


「可動的手錠と言ってな。つけられていても行動に支障はきたさない。ただ、ある一定の範囲から抜け出すと、全身に痛みを与えるようなシステムになっている。お前の場合は城内だな。

城の外から抜け出したら、激痛が待っているから覚悟するように」

「だ、騙したな…!」

「騙してなどいない。私はこれをお前にやる、といっただけだ。宝だと勝手に解釈したのはお前のほうだろう」

「うっ…」


正論過ぎてぐうの音もでない。確かにアイザックは、今まで宝を目にすると周りが見えなくなることがしばしばあった。これで夜風の怪盗ともてはやされたのは、ひとえに彼の高い身体能力と相棒の知能が掛け合わさったからであって、アイザック個人の知力は宝の前では壊滅的と言っていい。

またしても嵌められた――…


押し黙るアイザックを見て王は笑う。


「信用していないわけではないが、一応な。さあレオタード、頼む」


「はい、陛下」


今度こそアイザックは、扉の外へとずるずる引きずられていった。

次話でやっとヒロインが出てきます!(亀速度な展開ですみません)

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