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人魚姫と盗賊ガード  作者: 六花つづる
第1章 夜風の怪盗と囚われの姫
2/12

01 噂

恋愛小説書きたいな、と衝動的に思ったので書き始めました。

恋愛とありますが割とそれが色濃く出るのは最後らへんかなと思います。

シリアス多めを心がけます。

ときどきコメディーが出るかも。 2016

(2018・8・28) リメイク始めました。

 伝承は、常に形を変えて人々に受け継がれている。

書物には記されておらず、ただ、人から人へと伝えていく。高い不確実性を秘めているため、50年、100年・・・語り語られ続けていると、その物語は変形し、全く違う話になったりもする。そして、誰かにとってその話の内容が不都合であったとき、その者は物語の真実を裏側へ隠し、自分の都合のいいように話を作り替える。

 そう、伝承とは、嘘と真実を混ぜ合わせた物語。本当のことは大抵、裏側に隠れている。

 これは、伝承の裏側に隠された物語。


―――

 秩序と平和の国、オルディオ。

大陸随一の領土と力を持つ王権国家。

 その民たちは今、前代未聞な出来事に騒然としていた。


「おい、今朝の朝刊見たか!?」

誰かの一声を区切りに、あたり一辺が騒ぎ始めた。


「見た見た!王家が国宝を一般公開するって・・・!」


「国宝を公開するなんて聞いたこともない!しかも、公開場所は城内らしいぞ」


「つまり、王城も自由参観できるってことか!?」


ざわざわ、ざわざわ・・・


 城に最も近いとされる酒場は、いつものように人であふれかえっていた。が、その熱気はいつもの倍だ。

 それもそのはず。昔から門外不出とされてきた王家の家宝、国宝が、明日から大勢の民の目に触れられることになったのだ。

 それに伴い、平民などの一般人が決して入ることができない王城が、期間限定で立ち入り、参観が可能になる。王都に大きくそびえたつ赤の王城は、身分問わず全国民のあこがれ。誰もが一度は、城内に入ることを夢見たことだろう。その夢が、あこがれが、間もなく実現する――これはまさしく、朗報であった。


 酒場は朝刊を読んだ人、噂を聞きつけた人、そして、騒ぎを見物しに来た人たちでごった返り、皆が皆、明日の公開を待ちきれないほど興奮していた。


 ――ただ二人、窓際の席に座ったフードの男たちを除けば。


「…聞いたか、ダニ」


 黒のフードを目深にかぶった青年が、連れの男に小さくつぶやきかける。


「うん、ばっちり☆情報通りだね、ザック」


 向かいの席に座る白フードの男は心底愉快そうに笑った。フードの下から白い歯がかすかにのぞく。

ザックと呼ばれた黒フードの男はそれを一瞥し、ふん、と鼻を鳴らした。


「最近、うちの国(オルディオ)に来る観光客が激減しているからな。苦肉の策ってところか。…よし。今夜実行する」


「そういうと思った。でも、大丈夫?今日王都についたばかりだし、一日休んで準備してから盗りに行っても…」


「必要ねえよ」


 ザックは手元のホットココアを一気に呷った。白フードもそれに倣い、頼んだワインを口にする。


「こんな最高に面白そうなことを見つけたのに、ぐずぐずしてちゃほかのやつに取られるかもしんねえだろ。そうなったら、名が廃る」


「君に匹敵する奴なんていないと思うんだけどなあ…。まあいいや。今夜中に詳しい情報を集めておくよ。くれぐれもへましないようにね」


「お前にだけは言われたくない」


 じっと睨んできたザックの視線を受け流し、白フードは右腕の腕時計に目を向けた。一見どこにでもあるような腕時計。それがきらりと光ったのを、二人は見逃さなかった。


――時間だ。


「なあ、でもさ」


 そのとき、人々の興奮に冷や水をかけるかの如く、一人の男が酒場の席から立ちあがった。


「最近、”ガオナー”がいろいろやらかしているだろ?国宝が公開されるって聞いたら、すぐに飛びつくんじゃ…」


その名を聞いて、場にいた人間たちの目の色が変わった。怪異や奇跡の出来事を聞いたときみたく、未知なるものに対する好奇心を抑えきれないような目。


「ああ、噂の怪盗団か。でもさすがに、王族のものには手を出せないんじゃないか?」


「そうとも限らねえだろ。てか、もしガオナーが王族の宝を盗み出せたら…結構面白そうだな」

 

「バカ言え。商人や貴族相手とは違うんだ。国宝だぞ?いくらあの”ガオナー”でも、王国軍相手にゃ勝てやしないよ」


 いつの間にか、男たちの話の中心は国宝公開から噂の”ガオナー怪盗団”へと変わっていた。

数年前から金持ち商人や貴族の屋敷に忍び込み、数々の宝を盗み出したことで、王国内で一躍有名となった怪盗団。彼らが生み出した被害は数知れず。身分の高い者たちからは忌み嫌われ、恐れられもする存在だが、義賊的な一面もあるため、平民からの支持は根強い。

 数々の悪行を重ねてきたにもかかわらず、組織の全貌や団員数はいまだに謎に包まれている。団員たちの姿を実際に見たものもまた、いない。

 謎だらけの怪盗団。男たちにとって、その存在はまさしくロマン。

そんな、いい意味でも悪い意味でも注目を集めている怪盗団が、果たして王家の宝を盗みに行くのか、行かないのか…


 そんな賭けが、酒場内で始まった。ある者はガオナーを勇気ある存在だと称し、盗みに行くへ賭け、また、ある者はいくらなんでも非現実的すぎると反対勢力の肩を持った。


 しかし、誰も知らない。

 知る由もない。


 彼らが酒の肴にしているあの噂の怪盗団、その最重要メンバーの二人が、つい先ほどまで自分たちのすぐそばにいたなど。

 窓際の席にフードの男たちの姿はすでになく。


 代わりに、飲み干されたホットココアとワインのグラス、そしてその代金が、ぽつんと机の上に置かれていた。




                   人魚姫と盗賊ガード

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