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人魚姫と盗賊ガード  作者: 六花つづる
プロローグ
1/12

00 とある人魚伝説Ⅰ

 ――――むかしむかし、遠い国のお話です。


 あるところに、とても優秀な王子様がいました。

 幼少の頃から智謀も、武術も、民を引き付ける魅力にも長けていた完璧な王子様は、国のみんなから「名君のたまご」と呼ばれ、とても期待されていました。


 そんな王子様に、ある時縁談が舞い込んできます。

それは、隣の国のお姫様との婚約話でした。

父である王様は言います。この話を呑めば、王国はさらに平和になるだろう、と。

恋も、愛も知らなかった王子様は、国のためならば、と、父のもちかけた話に二つ返事で頷きました。


 しかし、隣国との間には、広い海が行く手を阻んでいます。海を越え、隣の国へたどり着くには三日もかかることでしょう。そう簡単に、お姫様に会いには行けません。

 王様は、まだ幼い王子様の身を案じ、隣国の王様と約束ごとを交わしました。


「王子が17になった日に、海を渡って、姫と正式に婚約すること」


 こうして、王子様には婚約者ができました。


 その隣国のお姫様とは、会えないながらも手紙のやり取りを始めます。

手紙を通じて、お姫様のことを少しずつ知っていった王子様。

それでも彼は、彼女に恋をすることはありませんでした。

心のどこかで、これは国のための結婚だと、割り切っていたのかもしれません。それでも王子様は、お姫様に手紙を書き続けました。王国のために。平和のために。



―――そして、迎えた17歳の誕生日。

 王子様は生まれて初めて船に乗り、海の先へと旅立ちます。

旅立ちの日の海はとても静かで、王子様はほっと胸をなでおろしました。

このままいけば順調に、隣国へ着くことだろう。

そう、思っていました。


 しかし、その夜のことです。

突然、海が荒れ、ごうごうと恐ろしい音とともに、嵐が船を襲いました。

王子様を乗せた大きな船は、雷に打たれ、あっという間に海の底へと飲み込まれてしまいます。


 船から落ちてしまった王子様は、必死に泳ぎました。必死に、死に物狂いで――

けれど、泳いだことなどない彼は、すぐに力尽きてしまいます。

どんなに四肢をばたつかせても、体は沈んでいくばかり。

手足はすでに動かせず、息苦しさでどうにかなってしまいそうです。

生きるのを諦めたくないのに、神様に見放されているような気がしました。



――深い、深い海の底に、王子様は沈んでいきます。

薄れゆく意識の中で、王子様は思いました。



…ああ、私はここで、死んでしまうのか。


まだ、やるべきことが沢山ある。

まだ、成すべきことも成せていない。

まだ、したいことを、一つもしていない―――。


…私は、なんのために生きてきたのだろう。




 王子様の目尻から、涙がひとつ、海の底へとこぼれてゆきました。



 その時です。

誰かに、沈んでゆく体を、受け止められた気がしたのは。


『お願い、生きて』


 心地の良い、きれいな声が聞こえてきます。

まるで子守唄を歌うような、透き通った優しい声。


 こんな海の底で話しかけてくるなんて、絶対に人間ではありません。

そうわかってはいながらも、王子様は不思議と怖くはありませんでした。

不安と恐怖で埋まっていった心が、だんだんきれいに浄化されていきます。

 王子様は、最後の力を振り絞って、声のしたほうへと目を向けました。


 そこには、金色の髪をゆらゆらと揺らせた、碧眼の少女がいました。

その少女は、王子様の体を抱きしめながら、こう言います。


『あきらめないで』


 その、輝くような美しい髪に、歌ような優しい声音に、王子様は目を奪われました。



――ああ、なんて―――――――






――――――綺麗なひとなのだろう―――――…


謎の少女に身を任せ、王子様の意識は、ぷつりと途絶えてしまいました。

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