表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

04 二つの組織

 揚陸艦ネージュリスは本艦内の騒がしい荷分けを別に、衛生巡洋艦ソード・シックスへの乗り込みで騒がしい時を迎えていた。

 ネティー港を離れた揚重ベースは星間トラフィックに点在する軍事施設である。

この前後を統合政府が所有する亜空間航路のゲートが存在する、そのためこの基地の遠景は鼓のような形に見える。

大戦時のゲートは一枚の鏡のような作りだったが、戦争による破壊で鏡面型の作りでは深々度亜空間航路への出入りを安定させることができなくなったことで大規模なシステム基地が必要になりこの形へと落ち着いた。

基地の名前プラス愛称の「タイコ」で呼ばれる場所、ここはオキナガタイコベース。

ネージュリスは未だ乗り足りない兵員の補充と物資の荷揚げに忙しい時間を送っていた。



「艦内を汚した者は宇宙漂流系に処す……ですか」

「はい、規律は大事ですからねぇ」

 警察隊体調イグナシオ・デレクは艦長室の非常用ディスプレイに浮かぶ赤い文字を、今日ここまで来る間に何十回と見てきていた。

警察隊を締める隊長として、異業種混成艦隊の最高司令官である葛城金星に挨拶にきて、未だ浮かび続ける警告の意味を知りたくなっていた

「初乗りの心得ってやつにしては物騒ですな、何かありましたか?」

「いやいや清潔第一を心がけましょうという、いろいろな人が一度に介する所で一番簡単でわかりやすい標語というやつですよ」

 とぼけた初老白髪の葛城、浅黒く鍛えられた腕っ節に無精髭も似合うイグナシオの奇妙な駆け引き。

長寿族の葛城ほどではないが、イグナシオも100歳近い熟練の警察隊。

高度ハイブリット技術により構成された体は、いわゆるサイボーグというやつで警察隊専用のチューニングがされているが見た目は普通の人間、ただのマッチョに見える。

 痩せた雁である葛城とは比べようもない偉丈夫は初顔合わせで探りを入れるような真似はしたくなかったが話題の男を前に少しばかり挑戦的になっていた。

「ところでこの艦のプレストを搭載しているとのことですが、是非挨拶をしておきたいのですが」

「少佐はただいまはソード・シックスとの連携のためにコアシップにて作業中なのですよ」

「衛生巡洋艦には乗ってここまできましたが本艦との「接続要請」には自分たちでやれと返事がきましてね。突入時の空間シフトコントロールまでやれと言われてはこまりますよ」

「順番がありますから、この慌ただしさですし。人手でできる部分はご協力をお願いしますよ」

「まあかまいませんよ、艦のリンクは軍人さんの仕事ですから。自分は任務のことで聞きたいだけですし」

「操艦は海軍の仕事ですから、何事も修行ですし。任務のことは心配無用です」

 ひらりひらり、質問を軽くかわす葛城。

年寄りは老獪、だが老害のように質問も許さないタイプよりは面白い

「では後日挨拶と任務の確認を。こういう任務ですから協力は不可欠です、しっかりと互いの情報を詰めるためにも顔合わせはしておきたいものですし」

「もちろん、食事でもしながら親睦会という形もよろしいでしょう」

「食事といえばここの食堂は大きくていいですね。部下が待合に使わせてもらっています」

「やっぱり食はやる気に係わりますからね、食堂とコックは自慢の艦になっておりますから部下の皆さんも食べていってくださいよ」

 くえない男。

今回のこの任務、編成を考えればもっと辛辣にくるかとも考えていたイグナシオはことごとく肩透かしを喰らいながらもますます面白みを募らせていた。

「……敗北中将と呼ばれた男、これからどんな差配をしてくれるのか楽しみだな」と




「予想していた通りにやるなんてぇ、ある意味大物よねぇ」

 広々とした食堂にメトロのとぼけたは笑いを重ねた声でる綾人を見ていた。

戦闘待機服であるツナギ姿、腕にかかった兵科のライン、頭にかぶせられたダンスキャップ。

「この者艦内を汚した不届き者」と書かれた三角帽をかぶされ膨れつらを晒す綾人を囲む者達は隠すことなく笑っていた。

 神原綾人は昨日ブリッジで味噌ラーメンを撒き散らした。

新造艦の照り返しを持つ床に壁に天井にピカピカの全てに、食物の流星群が四散した。

超新星の爆発のごとく熱にたぎったスープは、空腹に負けた兵士たちの顔を叩き、阿鼻叫喚の地獄絵図とかし一時的に艦内機能がダウンするという大事件になっていた。

「だいたいなんでラーメンだったのさ」

「雪ちゃん少佐に食べさせてあげたかったんだよ!!」

 デッキ整備から昼食に入ったアントニオは野菜スティックをかじりながら三角帽を突いて聞く

今日は交代制もしっかりと守られている食堂、艦内各所の兵士たちは疲労のメーターを飯で回復へと向かわせ、少しづつ艦が落ち着いてきた様子を見せていた

「なにそれ? 雪ちゃん少佐って?」

「少佐だよ、俺に試作機を預けてくれた偉大な上官様だよ!!」

 まったくもっての説明不足、だがあの事件で迷うことなく自分に試作機に乗れと言ってくれたことで忘れがたい人となっていた。

佐官であり、この揚陸艦ネージュリスプレストであることを知ったのは挨拶に集まった場所に飛び出した時、そこで葛城艦長から真壁大佐、白銀の少佐に再開しその立場を知った。

「雪ちゃん少佐は俺に翼をくれた。俺はまだ約束した味噌ラーメンを届けてないのに、だから食べさせてあげようと思ってブリッジに行ったのさ」

「何々、プレストに会ったの? どんな人だった?」

「可愛かったよ、とってもいい子でちょっと世間知らずな感じかな」

「あんた以上に世間知らずなの?」

 噂のプレスト、まだ下士官や一兵卒は顔も見たことのない存在。

メトロは最もホットな話題に素早く噛みついていたが、ジェイミーにはどうでもいいことだったらしい

 綾人の引き起こした事件でパイロットは肩身を狭くしていた。

引責で共に食堂に隔離された身は、相変わらずの行儀の悪さで椅子の上に犬のように座り、帽子をかぶった綾人の頭を押さえて怒鳴る

「雪ちゃん少佐なんてどーだっていいよ!! こんなバカに専用機やるなんて頭おかしすぎる。ありえないだろ!! 今すぐ私に譲れ!! 即!! 早く!!」

「はーっ!! なんだよ結局戦闘機が欲しいだけかよ!!」

「あたりまえだろ!! 持ち回りなんてぜってーいやなんだよ!! 専用機欲しいんだよ!!」

「専用の機械鎧(アーマスーツ)があるだろ!!」

「それはもう持っている!! 欲しいのは戦闘機だよぉ!!」

 熱烈な専用機愛を叫ぶ理由、それは軍は縮小方向にあることも1つある。

大戦を過ぎ200年以上大きな戦いは無い今でなくても、専用の戦闘機を持つパイロットなどほとんどいない。

大戦時でも持ち回りだった戦闘機を専属にするなど、士気向上のためのパフォーマンスに過ぎなかったのに、このバカ綾人は勝手に試作機を自分のものにしてしまった。

 パーソナルコードは機械帝国(アルキミア)との深海大戦(ウォー・オブ・アビス)を乗り切る人類側の切り札だった。

思考するコンピューター、全体が己であるという形をとっていたころのアルキミアは接触する機械の思考が自分に呼応しなければ「自分の体が死にかかっている」と認識し体を保全するために侵食した。

それを防ぐのが「擬似自分化」だった。

戦闘機もまた人間の肉体の一部、その備品という微妙な立ち位置に初期アルキミアは混乱したのだ。

人間を機械とは別のものと見て独立をしたアルキミアらしい判断に、人類は賭けた。

 こうして戦闘機は独立した自分・もう一人の自分という立ち位置を持って戦争に参加することになったが、パイロット全員分の戦闘機を作るというのはあまりにも非現実的であったためコード・リードというシステムが組まれ、白痴の機械にその都度コードを入れることで持ち回した。

 とにかくこのややこしいシステムを持ってアルキミアと対峙した人類だったが、こともあろうに綾人は中継システムであるコード・リードを介さず直接自分のコードを入れてしまった。

戦闘機本体を擬似自分に変えて、専用機というものを作り上げてしまったのだ。

 そして試作戦闘機は御多分に洩れず派手だったことでジェイミーの目にも止まっていた。

若々しいリンゴが放つ太陽色を織り込んだ真っ赤な翼。

コクピット周りを囲む黒のモールに、羽先だけに輝く銀色。

量産機とは違い新機軸を多分に盛り込んだ新型戦闘機ヌエ077は配属パイロットの一人としてジェイミー垂涎の機体だった。

「今なら間に合う、パーソナルコードを引っぺがして私に譲ると血判しろ!!」

「怖いよ!! てかそんなことできないから!! 雪ちゃん少佐からもらった翼は俺のものだ!!」

 どうしても欲しい試作機、面倒臭いことは二の次で無理やりにでも我が物にしたいジェイミーは乗り出し、勢いに押されダンスキャップと踊って立ち上がる綾人。

「絶対に譲らないからなー!!」

 額を打ち付ける火花の争い、子供の喧嘩をメトロは微笑ましいく見る

「でもぉ、あんたたちってまだ新人なんでしょう。佐官パイロットがきたら怒られるんじゃあないのぉ」

「正軍パイロットの乗り込み予定は今の所ないよ」

 顔を掴みあった戦い、互いが互いに造詣を崩した表情の中で綾人はしれっと答えた。

「この艦隊ってメインは警察隊でサブが軍だから、補充されるパイロットは新士官か引退間近の人だけだよ」

「嘘でしょうぉ……現役バリバリは乗らないの? いくらなんでもそれは」

「いや、本当に」

 軍艦をメインに置いたこの集団で戦闘機のパイロットが二人と後数人しかいないというのはあまりに非常識。

誰が考えてもおかしいというメトロのツッコミに、アントニオが代わって答えていた。

「元々そういう予定なんだよ、辺境の海賊は現行の警察装備じゃ対応が難しいから箱物だけは軍艦を使おうってのがこの艦隊の趣旨なんだって」

 辺境を臨検、海賊行為に対する抑止として設立された新しい艦隊。

国がぶつかるという大規模戦闘が無くなった今、この世界で問題になっているのはテロリズムの方だった。

ただテロも多方面へと枝葉を伸ばし対応も千差万別というのが現状。

都市国家は自らを守る私兵を持ち危険抑止に勤めているし、どの国家にも統合政府が組織する警察権力を受け入れる義務も出来上がっていた。

ゆえに政府中央に行くほど軍の出番はなく、治安は静かな海のように整えられているが辺境は違った。

未だ開拓団の夢を忘れられず果てのない銀河を押し進む者たち、それが夢破れ途中分解し族と成り果てた者などは始末の悪い犯罪集団になりやすかった。

開拓のために大型船艇を揃え武器まで乗せた船がそのまま海賊船になり、交通機関や貿易船の襲撃は軍隊顔負けの力を発揮し問題となっていた。

他にも戦争を忘れられない軍人崩れが、こうした者たちを指導し組織的な犯罪を犯す例も出始めていた。

 だからこそ軍隊の威を必要とした。

老朽化した開拓船とはいえ規模は移民船700メートル級などざらで、体当たりで乗り込み強奪をする犯罪者を止めるのに警察隊の持つ駆逐パトロール艇では歯が立たなかった。

折良く軍縮で余剰を出しながらも削減には消極的だった軍からの助け舟がこれだった。

衛生巡洋艦を使う計画が立ち上がり、艦艇の運用のために軍との特別編成を承諾した。

警察隊の要求に軍隊が応えたという形で出来上がった艦隊、それがネージュリスを中心とした混成艦隊の中身だった。

「この仕事の基本は乗り込みと制圧だから、攻撃機のパイロットはそれほど必要とされていないってことだよ」

「だから俺がエースで決まりってことだよ!!」

「なんでテメーがエースなんだよ!! 私の方が上だし!!」

 メトロの顔は僅かながらに沈んでいた。

強襲揚陸艦と名乗る艦に攻撃機パイロットが少ないのは、はっきり言って不安。

とはいえ統合軍の攻撃機は一機で海賊船10隻軽く沈めるだけの力はある。

 問題なのはこの目の前で騒動を起こしているパイロットの方だ、直感的に気がついてはいた。

辺境臨検任務のメインが警察ならば、正規軍人が望んでこの任務についてくれるはずもなく。

士官学校卒の新人パイロット、成績上位なのに問題の多い「ハズレ」が放り込まれたのもそのせいだと。



「きゃんきゃんうるさいぜ、まさかこんなガキがパイロットていうんじゃねーだろうな」

 ストローを口に喧嘩する綾人とジェイミーを見ていたメトロの前に現れたのは黒のバトルスーツをきた警察隊だった。

隊服のうえに副隊長の徽章、横に名前、エナツァイ・小林の目は喧嘩する二人のパイロットに嘲りの視線をくれていた。

180センチをゆうに越す巨漢、体の半分をハイブリッドチューニングで強化した逆三角形の男は、自分たちを守る者たちの姿に嘲り半分と落胆を態度で見せていた

「幼稚園みたいなんだ、本物のパイロットがいねわけないだろ」

「あたしはパイロットだ!! なんか文句あんのか!!」

「冗談はよしてくれよ、子供は本気でふざけるから参ったな」

 視線に込められた嫌味に敏感に反応したのはジェイミーだった。

今まで悪ふざけでしていた顔とはまったく別の顔を見せて、牙剥き尖る視線は綾人を投げ捨てて立ち上がっていた。

 すでに血の気の暖気は万全のジェイミーに、小林は顎をめがけて拳を振るっていた。

「頭を下げて泣きやがれ!!」

 突然のミサイル、まっすぐ顎を狙った手を小林はその大きな体から信じられないほど柔軟に小さく纏めたスエーバックで避ける。

同時に伸びきったジェイミーの腕を掴み右に体ごとねじ伏せた。

 事件があれば海賊船に突入し、その手で相手をねじ伏せることを職業とする警察特別隊。

副隊長は伊達ではない力でジェイミーを顔面から床に組み伏せて……いたが。

 そこは軍人対人戦もこなす体はやわらかく攻撃を流し引っ張られるまま前転しロックを解除、スプリングのように立ち上がり左を繰り出す。

「やるねぇ、でもリーチが足らない!!」

 互いが本気。

これから任務を共にする仲間という思いやりもない、ただ怒りがぶつかり合う中で小林の方が冷静だった。

左に合わせた踏み込みでジェイミーの首に重い一撃を叩き込んだ。

一歩間違えば首の骨を折る轟音を前にジェイミーは避けることもままならぬ体を時が止まったように固まり白目を見せて倒れていた。

「ジェイミー!!」

 飛び出したのはメトロだった。

ブリッジオペのメトロにとってリアルな暴力は見慣れないもので、恐ろしい現象だった。

それも女の子であるジェイミーが白目を向くような打撃を見ることに心は氷り足が震えたが、無防備に頭から倒れる姿に至り何もせずにいられないと飛びたしていた。

「しっかりしてぇ!! ジェイミー!!」

 一瞬で全身から骨を抜かれたような脱力、重力エリアである食堂の床へと真っ逆さまに落ちた頭の重さを十分に表していた

会話の潮騒は止み、周りを囲んでいた艦隊兵士一同時間を止めていた。

食事は喉を通らず口にあった獲物をこぼす者さえいる中で小林は勝利に口を笑わしている。

「すまない少し力を入れすぎた。だけど大人には敬意を持って頭を下げておくものだよ」

 急造の艦隊、兵員もまだ集まらない体たらくを見ればプロ集団である警察隊の態度が大きくなるのもやむおえないとも言えた。

意趣返しのセリフを決めた小林は勤めて冷静に振舞い、倒れたジェイミーの救助を自分の仲間に合図していたがメトロはその手をはねのけた

「酷いじゃないのぉ!! 兵士でも女の子なのよ!!」

「そうだったね、艦まで女の子が動かしているっていうふざけた軍艦だったのを忘れていたよ」

 嫌味はナチュラルに口から流れ、場の雰囲気を淀ませる空気が灰色に塗り替え始めていた

「まあこう言ってはなんだが俺たちはプロフェッショナルで大人の集団だ。艦の操縦まで若年の子供がやる君たちとは格が違う。若人が多いのはいいことだが礼儀を持ってよく働いてくれよ、これから1年一緒なんだからさ」

「若年でも十分に教科は受けてる」

 場を支配する小林の前に、誰も立つことのできなかったところに綾人は立っていた。

両手を広げアメリカ人的大げさなゼスチャーで周りを小馬鹿にしていた相手をきつく睨んだ目でメトロとジェイミーの前に立って

「でも礼儀は学ばなかった? お子様よ、そういうことかな」

「礼儀がないのはあんただろ、何歳の奴が操艦していようがパイロットだろうが軍人に変わりない。俺たちはプロなんだ」

 綾人の体格は小林より一回り小さかったが、おくする態度は微塵もなかった。

相手の真ん前にたって尖った視線をくれるとはっきりと言った

「確かに俺はまだ16歳、あんたにくらべりゃ子供だがれっきとした正軍人だ。プロの軍人だ、ここにいる全てがそうだ。謝れよ大人らしく警察さん」

 堂々とした綾人の態度が小林の癇に障っていた

確かに雑言を先に飛ばした、結果殴り合いになったのを認めたとしても、素人と子供ばかりが乗り込む軍艦を褒める言われはない。

下から自分を睨む小僧につい牙を見せるほど口元が苛立ち歪み始めていた

「そうかい、確かに15歳で士官学校出てりゃ一人前の扱いだけど、戦ったこともない奴を認められないね」

「戦績が聞きたいってことか、それとも喧嘩の成績か?」

 上回った気概。

小林の売り言葉に綾人は乗らなかった、それが合図になった。

互いが拳を振り上げ、牙剥く岳きが食堂に響く。

小林得意の技を聞かせ相手を制圧する腕を綾人の足は蹴り上げて後ろに、その位置でターン、背骨を狙うという時間など作らず、そのまま体幹を揺らす一撃は腰部に食い込んでいた。

 相手の弱点を見通す一撃とは程遠い攻撃だったが、小林の顔に苦悶は出ていた。

「テメー……」

「あんたたち警察隊は後ろにも目がある。体幹による空間把握、だからどこ殴られても嫌だろ」

 見抜かれている。

警察特別隊は基本人体をアップチューニグされたサイボーグだ。

突撃のときにつけるアーマスーツ、着装時の視界確保のために全身がセンサーになる空間把握をが必須。

ゆえに鋭敏に稼働している体に抉りこまれた一撃は感覚を砕く一矢となっていた。

「やってくれる……それも習ったのか」

「習得済みだよ。俺はプロの軍人だからね」

 息の荒れを見せないように深呼吸、鍛えられた体が自制を働かせ冷静へと回帰する小林。

その前を若造と侮った綾人の冷徹さが迫る。

氷点下の緊張が燃える、ドライアイスが作る稲妻がごとく二人は一直線にぶつかっていった。



「艦内で喧嘩する者は宇宙漂流系に処す」

 数分前、食堂であった乱闘は食堂を支配する長であるコックによって鎮圧されていた。

ぶつかり合う二人の間を割って入った超絶マッチョのフライパン攻撃。

顔面を平らにする一撃に二人は目から火花を散らしてダウンしていた

「飯を食わないのならば出て行け」岩を割って作った彫刻のようなイカツイ顔の重い忠告付きで追い出され、乱闘はあっけない最後を迎え、今光学掲示板に新しい注意事項が加わっていた。

「注意事項が増えましたね」

「……申し訳ない」

 騒ぎはすでに葛城艦長とイグナシオ隊長の耳にも入っていた。

イグナシオは連れてきた小林の青たん顔に引きつった首筋を見せ、葛城は転がる二人のパイロットに苦笑い

「協力体制を作るべく間でなんて不始末を……」

「まあまあ、喧嘩もできないような関係よりはずっといいですよ」

「そう言っていただければ……」

 聞くに仕掛けた警察隊。

食堂に詰めた軍人たちの嫌悪感はマックスだったが、両成敗のフライパン裁きに乱闘はすでに笑い話になっていた。

 イグナシオはタンカに乗った小林を連れて巡洋艦に戻っていったが、葛城艦長の心配事はただ一つ

「うーん、注意が増えた……雪ちゃん少佐はご立腹なのかな?」

 国家の二大組織が乗り合いするネージュリス、未だ出揃わない人員を前に事件は待ってくれない。

慌ただしい日々は始まったばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ