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第六章里帰り

 息子が大学に入った年、わたしは実家を訪ねることにした。

 あのとき着の身着のまま飛び出して以来帰っていない実家だ。息子にも一目わたしの生まれた家や故郷の風景を見せてやりたかった。

 実家に帰るとき地元の小学校の教え子にも連絡していた。

 

 わたしはあの女の子のことを思い出していた。うちへランドセルを持って泊まりにきていた洋子ちゃん。あの子は母親の都合で関西に転校したり、再び連れ戻された時はお母さんのいない家で頑張って学校に通っていた。

 わたしはあの時何も言わず彼と姿を消してしまったのだ。わたしが居なくなった時あの子はどんなにさびしかったろう。せめて小学校を卒業するまでわたしが傍に居てやれていたら力になれたろうに……。わたしは済まない気持ちでいっぱいになった。


 あれ以来あの子はわたしに何も言ってこなかったけど、学校でいじめを受けていることを聞いていた。あの子は誰に頼って生活し、学校ではどんな友達が支えてくれていたのだろう。

わたしは洋子に会うのが怖かった。責められるのじゃないかとびくびくしていた。でもやっぱりあの子がどんなママになっているのか知りたくて一目ひとめ会いたかった。


 わたしは教え子に教えられた通りの道順で、町はずれの喫茶店までバスに乗って行った。人目を憚るわたしへの配慮なのだろう、その店は兄の家からはかなり遠かった。

 洋子はまだ免許とり立てだという白いブルーバードに乗ってやってきた。

「先生!」姿かたちは大人の洋子なのに、わたしにはあの頃と全く変わらないあの子に思えた。「あんた!」わたしは胸が詰まるような気がした。


 わたしは今までのいきさつをさらりと話した。

 洋子は30を少し過ぎていて2人の子の母親になっていた。今から女盛りの域に入るのだろうなと、わたしはまだ少しあどけなさの残っている童顔の洋子を見ていた。


「お母さんはげんき?」

「はい。母はまだ勤めてるんですよ。朝はわたしが母を職場まで、子供を幼稚園まで車で送って行きます」

「あ、そう。忙しいわねぇ。でもお母さんが傍にいらしていいわね。わたしなんか実家に不義理しちゃって。とうとう父の最期もみられなかったわ」

「……」

「あんたも東京に遊びに来なさいよ、いつでも迎えに行くから」

「はい。いつか行ってみたいですねぇ」

 わたしは予定していた時間が来たので思うようにはゆっくりもできず、名残り惜しそうな洋子を跡に兄の家に戻った。洋子ちゃんはやっぱりわたしの妹のような存在だと、そのとき思った。



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